第34話 出稼ぎ募集中2
【第3者視点】
驚きはどんどん続く。
朝になるとアラームがなる。
この村には時計があるんだと。
時計なんて、街にいくつある?
冒険者ギルドとかには置いてある。
多分領主様の館にもあるだろう。
それ以外は?
オレ達は作業衣に着替えた。
なんて、肌触りのいい服なんだ。
朝一にすることは甘味だ。
全員にお菓子が配られた。
お菓子だぞ。
食べたら、めちゃ美味い。
これがお菓子か?
オレは砂糖を何度か舐めたことがあるが、
そんなレベルじゃねえぞ。
脳天を突き抜けるような旨さだ。
そして、食べると一発で目が覚める。
どころか、すぐにでも動き回りたくなる。
その後は体操をする。
動きを教えてもらいながらだが、
全く苦にならねえ。
元気一杯だ。
体操の後は朝食。
不思議なことに、お菓子を食べたのに
お腹が減っている。
聞いたところによると、完全に吸収されたんだと。
そして、朝食がまた抜群に美味い。
フワフワのパンだ。
これは間違いない、小麦パンだ。
そこにたっぷりバターと果実ジャム。
そして、牛乳。
見たことのないフルーツの盛り合わせ。
間違いない。
貴族の朝食だ。
それも上位の。
朝食がおわり外に出ると、
みんながタムロしていた。
そして、昨日見たケイヨンとかいう乗り物で
現場に向かうようだ。
馬なしの馬車だ。
俺達は荷台にのせられた。
馬車の魔道具なんて見たこともねえ。
どころか、話にも聞いたことがねえ。
しかもこれ、金属製だな。
大きな窓ガラス。
異常に透明な鏡。
そして、抜群にいい乗り心地。
「昨日な、魔法契約をむすんだろ」
「ああ、言いたいことはわかるぜ。この村、異常だ。そして、先進的すぎる」
「だな。下手しなくても貴族やら商人やらが黙っちゃいねえぞ」
だが、オレたちには確信があった。
これだけの村がたかが田舎の貴族やら商人に
どうこうできるか?
現場に到着する。
仕事は超簡単だった。
掘削魔道具と硬化魔道具で作業するだけ。
魔素充填方式の魔道具だから、
自分の魔力は不要。
注意が必要なのは勾配。
それは現場監督の仕事。
監督から勾配の指示が直接オレの頭に届く。
それに従い、魔道具を動かすだけ。
ほぼ狂いもなく水路が掘り進められる。
どちらかというと、地味で退屈な仕事なのだ。
これで1日8時間労働。
普通なら、日が昇ってから日が沈むまで労働。
夏場なら14時間とか働く。
◇
ギルドで募集の張り紙を見たとき、
ラッキーだと思った。
なんとか仕事に滑り込んだ。
実際にやってみたら、ラッキーどころじゃなかった。
ところが、こんないい条件なのに、
不満を言う輩が出てくる。
「おまえ、もう帰れ。この場には不要だ」
一人、不満を言い募る奴がいた。
事あるごとに不満を辺りに撒き散らす。
現場監督は即日、奴に首を宣告した。
「現場の空気が汚される。お前みたいなやつはどの現場にも欲しくない」
「はあ?ふざけてんのか?」
「ふざけてなんかない。一応、今日までの働き分は出す。即刻出ていけ」
そいつはD級冒険者。
しかし、実力はB級だと言われている。
しょっちゅう揉め事を起こすので、昇進できない。
ただ、腕っぷしは強い。
そして、極めて短気だ。
対する現場監督。
ひょろりとした若造だ。
早く逃げろ。
袋にされるぞ!
「ああ?クソッタレ」
案の定だ。
やつは顔を真っ赤にしている。
そういうが早いか、監督に殴りかかった。
だが、驚くべき光景が。
その殴りかかった男の拳を
現場監督は片手で受け止めたのだ!
「早く帰れと言ったろ?」
「うぐぐ、離しやがれ……ウギャー!」
ボキボキという音とともに、
やつの拳が握りつぶされていく。
奴は腐っても実力はB級と言われる男。
街でも有数の実力者だぞ。
なのにアリを踏み潰すがごとく、
監督は平然と拳を握りつぶしやがった。
「ウガガ、イテエ」
情けないことにそいつは地面にうずくまり
泣きわめきやがったが、
まあ、気持ちはわかる。
これで冒険者は廃業か。
監督の強さには心底驚いたが、
それにしても、監督、やりすぎじゃないか?
「さあ、手を出せ。治してやるから」
監督はポケットから白い容器を出して
握りつぶされた拳に液体をふりかけた。
「シュワワワ」
なんと!
握りつぶされた拳がキレイに治っていく!
オレは高級回復薬を見たことが一度だけある。
それでもこれほどの治癒力はなかったぞ。
なんだ、あの薬は!
しかもだ。
高級回復薬は1本100万ギル
となると、この薬は?
そんな薬を惜しげもなくこの監督は使ったぞ。
やっぱりだ。
この村はオレたちの理解を遥かに越えている。
◇
さて、水路は順調に延伸していき、
1ヶ月後に村にまで到達した。
やはり、魔道具は偉大だ。
これ、手掘りだったら何ヶ月かかる?
いや、何年かかる?
しかも、死傷者が出てもおかしくない。
それが僅か一ヶ月で、しかものんびりと。
オレは去りがたかった。
ここは天国だ。
こんな生活を与えられたら、
もう街には帰れねえ。
「みなさん、お仕事ありがとうございました。で、ですね、現在わが村では移住者を募集しております。もし、希望がありましたらおっしゃってください」
おおお!
何も考えることはねえ。
オレはすぐに手を揚げた。
横にいるオレの馴染もだ。
というか、ここいる全員がすぐに手を上げた。
そういや、いつもよりも労働者の人数が少ないが。
「私どもはですね、仕事ぶりや誠実さなどを毎日みてまいりました。そして、あなたたちは私どもの基準以上のものがありました」
ということは?
「ここにいない方は、私どもの村には合わないということでこのままお帰りになります」
オレはうだつの上がらないD級冒険者だ。
半分、ホームレスに近い。
しかも、この仕事もあと何年できるか。
真面目なだけが取り柄。
逆に言えば、真面目さを取れば何も残らねえ。
だが、オレは生まれて初めて光明を見た。
いや、この一ヶ月光明を見続けて来た。
オレたちはあのお菓子を食べるたびに、
薄く発光していた。
当初は気味悪かったのだが、
あれはオレたちのステータスが上昇する印だった。
それを一ヶ月続けて、オレは確かに強くなった。
剣を振らなくても実感できるのだ。
この村はオレに光明を与えてくれた。
仮にこのまま街に戻ったとしても、
オレは上を目指せる気がする。
さらにだ。
この村はオレに光明を見続けることを
許してくれた。
こういうときは誰に感謝を捧げればいい?
オレには祈りを捧げる神はいねえ。
「女神様に祈りを捧げなさい」
振り返ると、賢者様というお偉い方が
滋味ある言葉を紡いでいた。
そうか、女神様か。
それがオレの信仰する神。
オレはD級冒険者。
真面目が取り柄なだけの。
朝一のギルド行きを欠かししたことはねえぞ。
それが次からは朝一のお菓子と体操に変わるのか。
ああ、あとまだ見ぬ美貌の女神様へのお祈りを。
肩肘はらない感じがオレにはいいのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます