第33話 出稼ぎ募集中1

■第3者視点


「畏まりました。では、この書類に記入を」


 僕達は今、冒険者ギルドにいる。

 出稼ぎ労働者を募集するためだ。

 レベロン川から村まで水路を引く計画なのだ。


 募集 季節土木作業工

 場所 アルシェ集落

 期間 約一ヶ月

 1日8時間労働。

 基本は魔素充填式魔道具で作業。

 3食、宿舎付き。

 風呂随時利用可能。

 甘味毎日配当。

 日当は1万ギル。

 年令不問、性別不問、経験不問、

 魔力属性不問、魔力有無不問。

 契約魔法あり。

 募集人員50名まで、早いものがち。


「アランさん、人来るかな?」


「いや、かなり来ますでしょ。破格の条件だと思いますよ」


 金銭感覚は日本と同じような感じだ。

 つまり、1万ギルは1万円相当。


 日本人としては、週休2日とかほしいのだが、

 以前からそれを主張しても、


「なんすか?それ?」


 全く相手にされなかった。

 毎日労働が普通らしい。


 そういや、村人たちも休みなしで働いているよな。

 僕はブラックで体を壊したのに

 いざ管理者側に回るとブラックを強制させる。

 物凄く居心地がわるいんだけど、

 この世界の人々はとてもタフだ。


 ◇


「はい、申込みは終了!」


 募集人員50名。

 募集をかけたその日、

 午前中で募集を締め切った。

 アランさんが言う通り、破格の条件らしい。


「真面目な人が来てくれればいいんだけど」


 正直言えば、冒険者を募集したのだから、

 人材に不安がある。

 荒っぽいのが来たら嫌だな。


 ◇


【とある冒険者】第3者視点


 朝一で冒険者ギルドに顔を出す。

 オレの毎日の日課だ。

 いい仕事を選ぶためだ。


 オレはD級冒険者だ。

 まあ、大抵の冒険者は真面目にやっていれば

 到達できるクラスだ。

 ただ、実入りは少ない。

 オレ一人がなんとか毎日暮らしていける、

 っていうだけだ。


 だからこそ、毎朝の仕事選択は重要だ。

 これで今日はエールを一杯飲めるか、

 それとも空腹を我慢して露地で眠るかが

 決まる。


 ギルドに行ってみると、

 なにやら仕事の掲示板で騒動がおきていた。

 いや、そんなの毎日だろう、

 と思うかもしれないが、

 いつもより雑然としている。


「なんだ?いい募集があるんか?」


 オレは馴染の冒険者に声をかけた。

 こいつも真面目だけがとりえのD級冒険者だ。


「ああ。おまえも早く申し込めよ。ありゃ、すぐ申込み終了になるぞ」


 言われるまま、俺は掲示板をなんとか覗いて

 驚いた。

 確かにこれは破格だ。


 土木作業だから見栄えは良くない。

 要するに、ドカチンだから、重労働を想像する。

 

 でも、作業は魔道具が主体。

 通常、魔道具には魔力が必要。

 ところが、この魔道具は魔素充填方式だ。

 魔力は不要と書いてある。

 これは高価な魔石を使うということ。

 コスト大丈夫か?

 オレは人ごとながら心配したが、

 作業が楽であることは容易に想像できた。

 しかも、いろいろと条件が素晴らしい。

 ありえない、と言っても過言じゃない。


 俺はダッシュで申し込み窓口に向かった。

 そこでも申し込みをする人々で混雑していた。


「はい、これで募集は停止します」


 ああ、よかった。

 運良く、募集の最終人員に滑り込んだ。


 作業は翌日以降。

 俺は馴染の冒険者と現場へ向かう。

 街から歩いて5時間程度のところにある

 小さな村だ。


「これだけの大募集をかけるにしては小さな村だな」


 水路の建設など、普通は領単位ですること。

 村単位ですることじゃない。


「しかも、領外開拓村だろ?ここ。さては金鉱でもみつけたか?」


 領外開拓村は無主の土地を開拓する村だ。

 これだけの大募集をかけているということは、

 この村は幸運にも開拓に成功したのか。

 あるいは幸運にも金のなる木を見つけたのか。


 領外開拓村で成功する割合は1割に満たない。

 数%だという。

 大抵は撤退するか、干からびるか。

 その中でも大成功を収めている。



 俺達は夕方までに村についた。


「本当に小さな村だよな」


「いや、規模は小さいかもしれんが、やけに質が高くないか?」


 まず、村が厳重な結界で囲まれている。

 入口はすぐにわかった。

 大きな看板が俺達を歓迎している。


 その結界に入ると、えらく整理された

 農地が広がる。

 そこは青々とした農作物と元気そうな水牛、鶏。

 その間に走る広くて綺麗な道。


「おい、あのへんてこな箱はなんだ?」


「オレが知るわけないだろ」


 奇妙な金属製?の箱がその道を動き回っている。

 あとで聞いたら、ケイヨンというんだと。

 馬なしの馬車、馬車魔道具らしい。

 噂によると生きているなどと訳のわからんことをいう。

 ひょっとして、オレはとんでもない村に来たか?


 矢印に誘導され、俺達は住居部分に入った。

 住居部分はさらに強固な壁と

 やはり結界に囲まれている。


 中に入れば、地面が硬化魔法で固められている。

 そして、建物もウォール魔法と硬化魔法でできた

 ものだろう。


「なあ。ちょっと異常じゃないか?」


「ああ。金がかかりすぎてる。だが、金鉱をあてたとかなら、おそらく冒険者ギルドにも噂が広がっているはずだ。そんな噂きいたことねえぞ」


 領外開拓村。

 仮に成功しても、寒村の域を出ない。

 掘っ立て小屋にグチャグチャした地面。

 それがふさわしい光景なんだ。

 だが、これはちっぽけな寒村の風景じゃない。



 やはり矢印の案内に導かれ、

 俺達は大きな建物の前にたった。


「ようこそ、アルシェ村へ。中に入って、手続きしてください」


 その建物はオレ達の宿舎だった。

 まず、最初は契約魔法。

 村での出来事は他言無用だと。

 えらく、厳重だな。


 契約魔法というのは募集要項に記述があったし、

 珍しいことじゃねえ。

 しかし、中身を口外するな、とは。

 俺達は顔を見合わせた。

 まさか、ヤバい現場じゃねえだろうな。


「いや、不法な現場なら冒険者ギルドがだまっちゃいない」


「だよな」


 俺達は不安だった。

 その不安は逆の意味で裏切られた。


 案内した宿舎。

 装備が豪華だった。

 便利魔道具のオンパレードなのだ。


 照明魔道具。

 冷暖房魔道具。

 上水道魔道具。

 トイレにいけば、汚物分解魔道具に

 消臭魔道具。

 下水魔道具。

 

 流石に個室、というわけにはいかなかったが、

 強固な個人金庫とロッカーが割り当てられた。

 ロッカーを見ると、作業衣が2着ある。


 それだけじゃない。

 食堂に行く。

 料理がうますぎる。

 じゃがいもとオーツ麦の料理らしいが、

 そんなみすぼらしい料理じゃねえ。

 油と甘味がふんだんに使われた

 見たことのない料理だ。


 しかもだ。

 風呂がある。

 風呂なんて大貴族様の施設だぞ。


 まずは、清浄魔道具?

 で、垢を落とす。

 そして、入口で注意された通り、

 石鹸で体をよく洗う。

 その石鹸。なんだ、これ。

 ボタンを押すと液体石鹸が出てくる。

 凄いいい匂いがする。


 そしてようやく湯船だ。

 20人は入れそうな大きな湯船には

 お湯がコンコンと湧き出ている。

 聞くところによるとお湯にも清浄魔法がかけられ、

 いつも綺麗なお湯が湧き出ているという。


「あー、極楽じゃー」


 思わず声が出た。

 オレは生まれて初めて風呂に入った。

 そもそも、風呂ってのは上級貴族の持ち物だ。

 しかも、こんな広い湯船だとは聞いたことがねえ。


 オレ達以外にも何人かが先に入っていた。

 オレ達は仕事仲間だし、紹介し合ったりした。


 中にはのぼせるやつもでてくる始末だ。

 そういうやつでもなんとかドリンクとかいう

 黄色の液体で一発で元気になる。


 出た後は、ドライヤーとかいう魔道具で

 髪と体を乾かす。


「なあ、オレ達、ある意味貴族よりもいい暮らしをしてるんじゃないか?」


「ああ。貴族の生活を詳しく知っているわけじゃないが、少なくとも貧乏貴族の生活を遥かに上回っているぜ」


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