第27話 護衛の拡充と村専任商人

「ねえ、アランさん。サルタンさんを村の専用商人にしたいんだけど」


 サルタンさんは街の市場の誠実な商人だ。


「え、それは構いませんが、そうなるとサルタンの安全を考える必要があるかもですね」


「そうなの?」


「村の製品って魅力的すぎるじゃないですか。街で売ったら大行列間違いなしですよ。そんなのを零細商人が扱うとなると、どれだけ横槍がはさまれるか」


『マスター、村の人口も増えてきましたし、ボディガードを増やしましょうか?』


 ルシールが僕の脳内に話しかける。

 ボディガード?


『ええ。天界から私の仲間を連れてきます』


 へえ、それは頼もしそうだ。


「アランさん、それなら、ボディガードつけるってのはどう?」


「ボディガードですか?」


『一応、お試しで村に連れてきますから、村人に見てもらいましょう』


「近い内にボディーガード引き連れてくるから」


 さて、どんなボディガードがくるんだろう。


 ◇


『マスター、紹介します。新たな護衛です』


『フニャ~(マスター、ハジメマシテニャ)』


 ルシールに紹介されたのは5匹の子猫。

 いわゆる和猫だ。

 ミケ、白、黒、キジ、茶トラ。

 うむ、実に可愛らしい。


『本当の姿は天界に棲まう聖獣なんですが、それではここで活動できませんので、限りなく小さくしました』


 ああ、ルシールの趣味も入っているだろうな。

 可愛いいもの好きの。

 ルシールの好みにより、子猫に変身して

 僕の護衛にあたる。


 村だけなくて、僕の活動範囲が広がったからだ。

 懸念されるのが、人間関係が複雑になったこと。

 人間関係は魔物・魔獣よりおっかないってことか。


『この姿ではおおむねスパイ活動と簡単な魔法しかできませんが、いざとなれば元の姿に戻ります。そしたら、地上では天下無敵になります』


 まあ、大騒動になるからやめておこうね。


「じゃあ、初対面の挨拶のかわりにお菓子食べる?あ、何でも食べるよね?」


「「「フニャ?」」」


『マスター、私もですが、彼らも天界の存在。タブーなんてありませんよ』


 そうだろうと思ったけど。

 猫って、果物と野菜類とかの一部には

 食べてはいけないものがある。

 こいつらは見た目猫っていうだけで、

 聖獣だからね。


「じゃあ、不◯家のカントリーマ◯ムマイスターズ(NYチーズケーキ)」


「ニャ?ニャ?ニャ!ウマウマウマ!」


 おお、食いつきがいいぞ。


『マスター、それは初めて見ますね。私にも!』


 7枚入なので、僕とルシールにも一個ずつ。


 ◇


「ガードマンって、こいつらですか?」


 僕は村人に子猫を紹介した。


「みかけは子猫だけど、普通の猫じゃないんだ。中身は凄いよ」


 まあ、僕も中身は知らないんだけど。


「朝の訓練も順調だし、村人たちと対戦してもらえばいいんじゃないかな」


「え、こいつらと戦うんですか?いや、それはかわいそすぎるでしょ。まだ半分ヨチヨチ歩きじゃないですか」


 いや、村人の言う通りだ。

 生後一ヶ月ぐらいの子猫に見える。

 横耳じゃないけど、まだ走るのが

 後ろ足揃えてピョンコピョンコしている。


 ルシール、本当に大丈夫なの?


『ああ、対戦してみればすぐにわかりますよ』



 驚いた。

 その瞬発さに。

 僕もかなりステータスが上がってきてるけど、

 その目でもギリギリ捉えられるぐらい。


「「「なんじゃ、これ!」」」


「う、動きが見えん!」


 僕でもギリギリなんだから、

 村人ではこうなるよな。


『シュパッ』


 すると、子猫たちは訓練場に打ち付けてある

 標的を次々と切断し始めた。


「え、いつの間にか標的が真っ二つに!」


「あれ、子猫たちがやってるんだよ」


「「「えええ!」」」


「対戦してみる?」


「「「い、いや……」」」


「まだ、死にたくねえ」


「賢者様、実力はよーくわかりました!」


 ◇


 こうして子猫たちはガードマンに採用された。

 現状5匹しかいないけど、増員可能とのこと。


 子猫達は普段は村でのんびり昼寝とかしてるけど、

 村人は子猫たちの凄まじい戦闘力を知っている。

 最初の訓練場でも能力の一端を見せたけど、

 大きな魔獣とかを一撃で倒すところも見てきた。



「お菓子やチュ◯ルを与えていれば大喜びだしね」


 チュ◯ルを日本からもってきたところ、

 天界の聖獣も大ハマリした。

 ただ、いつまでもチュ◯ル頼りにできないので、

 今はチュ◯ルに替わる製品を開発中だ。


「まあ、番犬がわりだから子猫よりもちょっと大きめサイズの猫になってもらうか」


『えええ』


 可愛いもの好きのルシールとしては

 不満があるようだ。


「あれ、賢者様。子猫たち随分と大きくなりましたね」


 村人にも少し驚かれたけど、

 子猫の戦闘力を見てるから、

 普通の子猫じゃないことはよく理解しているみたい。


 ◇


 サルタンさんが村専任の商人になるのは

 すんなり決まった。


「サルタンさん、よろしくお願いします」


 アランさんが村を代表して挨拶をする。


「いえいえ、こちらこそ。何しろ、商人の間では噂になっていましたからね。何やら凄い勢いで伸びている村があると。でも、中に入れない。というか、無理するとこっちの身が危ない。あれはなんだと」


 村は電気柵で囲ってあるしね。

 

「でも、いろいろと驚きました。確かに契約魔法を結んで商人を選別するだけはありますね」


 サルタンさんには村の全てを見せていない。

 それでも、村の扱う商品を見せれば、

 そのレベルの高さはすぐわかるのだろう。


「それでですね、私どもからサルタンさんに護衛をつけようかと」


「護衛ですか?」


「ええ。村の製品を一手に引き受けてもらいますから、今後、いろいろとやっかみとかが生まれかねませんから」


「ああ、そこまでして頂けるのですか。私も警戒体勢をあげる必要があるかも、とは思っていたんですが」


 サルタンの店には猫護衛が2体

 ついてもらうことにした。

 まあ、店先で寝てるだけなんだけど。

 ただ、悪さする奴は瞬時にチェック、排除。

 程度の酷いやつはドブ川に浮かぶことになる。


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