第26話 朝の訓練2

 朝の訓練は、まずランニングから始まる。

 続いて、剣というか得意武器の訓練。

 そして、このところ追加されたのが魔法訓練。


 訓練は朝の6時に始まり、

 終了するのは8時になった。



「魔法の基本は想像力です」


 魔法講師は僕が務める。

 でも、内容はルシールによる一夜漬けだ。


「想像力を言葉にのせる。それが魔法です」


「賢者様、詠唱を教えて下さい!」


「あー、詠唱文句は不要です」


「え?」


「あの長い詠唱文句は、集中力を高めるために昔の人が考えたもので、実際は不要です」


「そうなんですか?」


「はい、必要なのは、最小の言葉。そして、口ではなくて、心の中で言葉を唱えます」


「「「おお!」」」


「では、実際にやってみましょう。火魔法の発現しているみなさん、まず、リラックスしてください。そして、上腕からゆっくりと力が抜けてきました。いまは、肩の力が抜けてきました。」


「「「……」」」


「指を眼の前に突き立ててください。その指を見つめます。じーっと見つめます。集中して見つめます。そして、心の中でファイアを唱えつつ、火をともしてください」


「「「あ、火がついた!」」」


「賢者様の言う通りだ。詠唱文句を口にだす必要はない」


 それを見た、火がつかない人達。

 更に熱心に訓練し始めた。


「「「あ、私も火がついた!」」」


 どんどんと成功者が出ている。


「焦る必要はありません。みなさん全員が必ず火魔法を使えます。毎日、地道に訓練すれば必ず火が灯ります」



「では、火魔法の発現していない人達。同じことをやってみましょう」


「「「……はい」」」


 こちらは少し勢いがない。


「いいですか。私は僕は俺は、火魔法が使えない、なんて思っていませんか?それは、違います。あなた達は全員火魔法を使えます。火魔法は誰もが使える魔法です」


「俺も使える……」


「さあ、指を突き立てて集中してください。そして念じてください。人は全員火魔法が使える。もちろん、自分も火魔法が使える……」


「「「……」」」


「そして、心の中に火をともしてください。ファイアとやはり心の中で唱えつつ」


「「「……え、本当に火がついた!」」」


 続々と火魔法が発現していく。


「できなかった人。あきらめる必要はありません。火魔法は全員に必ず発現する魔法です」


「「「はい、わかりました!」」」


 その調子で他の水・土・風魔法を練習していく。

 1ヶ月後には全員が4属性魔法が発現した。



「驚き!魔法が発現するだけでもびっくりなのに、4属性魔法なんて、お偉い魔導具師様でもできるかどうか、じゃない?」


「そうだと思うよ。王国でできる人って数名だって聞いたことがある」


「どゆうこと?」


「やっぱり、賢者様の教えは偉大だということか」


 いや、これは違う。

 ルシールが言うには、魔力は人全員が持つ。

 魔力のない人間はいない。

 魔力がありさえすれば、4属性魔法が使える。

 つまり、人間は全員が4属性魔法を使える。


 それができないのは、指導方法に誤りがあるのと、

 みんな頭が凝り固まっている。

 1属性が発現するのが、やっとで、

 複数属性魔法使いなんてエリート以外ありえない。

 などと信じ込んでいるからだ。


 だから、その常識を打破することから始める。

 僕の始めた講義は一種の催眠術だ。

 みんなの無意識に深く到達する言葉を

 何度も繰り返す。

 そうして、凝り固まった筋肉をほぐすように、

 心に暖かいものを循環させ、

 常識を解き放っていく。


 ◇


「さて、4属性魔法ができたら、次の段階に行きましょうか」


「「「はい!」」」


 もう、みんな期待でキラキラしている。


「少し難しい話をします。物質とは何か、というものです」


 ここで少しだけ地球の常識を注ぎ込む。


「みなさん、氷、水、水蒸気。同じものであることは知っていますね」


「「「はい、もちろん!」」」


 日常的に観察されることだからだ。


「水をどんどん細かくしていくとどうなりますか?」


「え?やっぱり水なんじゃないですか?」


「はい、そうです。どこまで行っても水です。でも、ついには水の最も細かい粒に行き当たります」


「それ以上、分解できない?」


「できますが、そうなると水ではありません」


「「「なるほど」」」


「その細かい粒を分子といいます」


「「「分子」」」


「その分子はいま、分子同士で手をつなぎ合っています。さあ、想像してみてください。分子一つ一つはあなた達です。あなた達は今、手をつなぎ合っています」


「「「……」」」


「手をつなぎ合っている、次は腕を組み合ってみてください」


「「「……」」」


「強固なスクラムになりましたね?それが氷というものなのです」


「水分子が強固につなぎ合っているということですか?」


「そうです。実際にはガチンガチンにつなぎ合っています。まさしく、水と氷の違いです」


「なるほど」


「さあ、みなさん。水魔法を放つ前に今教わった状態を頭に浮かべましょう。隣の人と軽く手をつなぎ合っている状態。そうして、心の中でウォータと唱えてみましょう」


「「「(ウォータ!、えっ、勢いが違う!)」」」


「そうですね、前にあったウォータよりも今のほうが強くなりましたね?」


「「「はい!」」」


「それはあなた達が水の根源の姿を思い描いたからです。魔法は想像力です。想像力が深まれば、魔法もより強力になります」


「「「おおお!」」」


「では、氷の状態を思いえがきましょう。隣の人と手をつなぎ合っていました。今度は腕を強固にガチンガチンにスクラムします」


「「「はい!」」」


「そうして、心のなかで唱えてください。アイスと」


「「「……うわっ、氷ができた!」」」


 こうして、水蒸気にも言及していった。



「さあ、氷、水、水蒸気を魔法で打ち出すことができました。皆さん、気づいていますか?これは固体・液体・気体です。そして、それらは固体魔法・液体魔法・気体魔法に対応しています」


「「「……」」」


 みんな、集中して聞いている。


「さて、大事なこと。固体魔法の一つが氷魔法です。そして、親戚となる魔法が土魔法です」


「「「あ。なるほど」」」


「土の液体状態は?溶岩ですね。土魔法の発現した人は、溶岩魔法を発現できるようになります」


 ◇


「では、続いて各魔法の強化方法です」


「「「はい!」」」


「皆さん、魔法は想像力だと知っていますね?では、水魔法を強化するにはどうしたらいいか。今から僕が水魔法を見せます」


 僕は水魔法を発動させた。


「高圧水(ハイプレッシャーウォータ)」


 すると、眼の前の石が半分に切り裂かれた。


「「「えええ?」」」


「さあ、皆さん。断面を見てください」


 きれいな断面。


「今の魔法は水に圧力をかけて強固なものにしたものです。そうすると、石でもキレイに真っ二つ。これが鋼の鎧でも同じです」


「「「信じられない……」」」


「信じられない人。今、眼の前でみたことは幻ですか?いえ、現実です。水に圧力をかけて放つと、これほどの威力が出ます。いいですか、見たことを受け入れなさい。そして、それを思い出しつつ、眼の前の石に向かって高圧水、と心の中で唱えてみてください。あ、前後左右の距離に注意してくださいね」


(高圧水)


「「「うわぁ、石が抉れたぞ!」」」


 こうして、僕の講義・指導は続く。


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