第24話 酪農及びガラスハウス

 すでに日本は5月の大型連休が終わっていた。

 昼になると半袖でも大丈夫ぐらいの陽気になる。


 まず、日本で探すのは鶏のヒナだ。

 ネットによると、飼いやすいとされる品種がある。

 そのうち、ボリスブラウンと名古屋種

(名古屋コーチン)の2種類を買ってみた。


 それらを選んだ理由は、販売所が家に近いこと。

 あと、僕の父親が若い頃、ビジネスとして

 養鶏にチャレンジしたことがある。

 結構うまくやっていたらしいのだけど、

 病気で全滅したらしい。

 だから、2種類を購入して多少の備えをしたのだ。

 まあ、名古屋コーチンは僕の中では

 美味しい地鶏のイメージがある。


 さて、動物を次元渡りさせるとどうなるか。


 ◇


『ギャー!』


 鶏は全種、魔獣になった。

 目が釣り上がり、嘴には牙が生え、

 爪はカミソリのように鋭い。


「おいおい、こういう変化をするかなあ」


『マスター、これはなかなか凶暴そうな鳥になりましたね』


 人間の僕でさえも、超人ハルクになったのだ。

 鶏がならないわけはないよね。

 ましてや、魔獣化したのだ。

(これはルシールの指摘で判明した)


 どうすればいいのかな?


『うーん、檻に入れて飼うしかないんじゃないですか?』


 だよねー。

 とりあえずは狭い檻に鶏を押し込めた。

 その間に、鉄パイプで檻を組み立て、

 さらに鉄パイプを強化魔法で強固なものにした。


 あ、鉄パイプはハウス栽培をするために

 買ってきたのだ。

 その一部を流用した。

 鶏舎はボリスブラウンと名古屋種を別々にした。


 まだまだ狭いのだけれど、次回もっとパイプを

 買ってくるから我慢して欲しい。


 餌は普通に鶏の餌を購入してきたので

 それを与えている。

 穀物とか魚肥とかそのへんの草とか

 適当にまぜて与えていいらしい。


 それと、試しにお菓子を与えてみた。

 食いつきがいいのは、亀◯のハ◯ピーターン。

 狂ったような食いつきを見せる。

 しかも、長時間発光している。

 ちょっと不安だ。

 今でさえ、超人ならぬ超鶏になっているのに。


『集落民の結果からも、お菓子を与えればどうなるかわかりますよね』


 お菓子を与えた結果はすぐに出てきた。

 まず、育ちが早い。

 それから、普通の人間より明らかに強くて凶暴。


 ただ、比例して立派な卵を産む。

 全体的にコンモリしていて臭みがなく、

 目玉焼きとかにすると、コクの他に甘味も目立つ。

 クリーミーで、香りも素晴らしい。

 卵で鮮度が高い、というのを初めて理解した。


『これはかなり上質ですね。普通の目玉焼きとかゆで卵が超一流のメニューになってる感じですね』


 ルシールもいっちょ前のことを言う。

 ちょっと前まで天界の粗食に慣れていたのに、

 今では急速にグルメ化している。


 ただ、卵の回収は命がけだ。

 このために、睡眠魔法を発現させたくらいだ。

 鶏に睡眠をかけてさっと卵を回収する。


『マスター、気を付けてくださいよ!鶏、数分で目が覚めますから!』


 うーむ。

 僕の魔法レベルが低いために、

 鶏どもは数分で目が覚める。

 僕もドキドキだ。



 その後の鶏舎建設で、広い露地をパイプで囲み、

 さらに夜間用に畜舎を建設した。

 

 鶏をおびき寄せるのは餌、

 特にハッ◯ーターンで一発だ。

 もう、こぞって殺到してくる。


 鶏舎をクローズしたあとはゆっくり卵の回収。

 もちろん、殺菌する。

 今のところ、鶏肉利用は考えていない。


 ◇


 牛もやってきた。

 水牛だ。

 お試し飼育で数頭。


 水牛の飼育者も参加してくれた。

 やっぱり、お菓子で釣ったのだ。

 彼にお菓子を食べさせたところ、


「これ、毎日食わせてくれるんか?」


 で、即決だった。


 水牛は基本的に草原で育てる。

 後は、藁とか穀物とか。

 鶏と餌がかぶる。


 さらに、水牛にもお菓子を与えてみた。

 水牛の好物は森◯エ◯ゼルパイ。

 モーモーわめきながら、お菓子を食べる。

 

 やはり、薄く発光している。

 飼育者によると、非常に皮膚の色艶や

 肉付きが良くなっているらしい。


 その水牛で得られた牛乳であるが、

 衝撃的な美味しさ。


『素晴らしい味ですね!天界にも牛がいてたまに飲ませてもらいますが、こんな濃い味じゃないですよ』


 水牛乳は甘くてコクがある。

 実際、乳脂肪分が普通の乳牛の倍以上あるらしい。

 

 脂肪分が濃いとはいえ、粘りつくような感じではない。サラッとしている。甘くて濃くてサラッとしている。不思議な感じだ。


「儂の経験でもこんな美味しい牛乳は飲んだことねーですわ」


 水牛飼育者も証言する。


「それとですな、乳の出がいいんですわ」


 水牛は乳の出が良くない。

 だいたい、1日で5リットルぐらいらしい。

 ところが水牛はその倍は乳を出す。


『エン◯ルパイ様々ということですかね?』

 

 ここでも、お菓子の有能さが出ていた。


 ◇


 更に、僕は温室ガラスハウスを設置した。

 ガラスハウスの大きさは高さが3m近く、

 広さは約5m✕約6m。

 日本で販売店に施工してもらい、

 それをマジックバッグに収納して運んだのだ。


『これは力技でしたねー』


 マジックバッグに入口の限界が

 このガラスハウスだったんだ。


『異世界ではガラスハウスをコピーするつもりで?』


 うん、そのとおり。

 僕にもその手のスキルが生まれるだろうし、

 職人も育成していくつもりだ。



 さて、ガラスハウスには換気・温度調整・

 上水魔道具を設置した。


 そして、できる限りの果物の種・苗を

 育てることにした。


 マンゴー、ミニトマト、ブルーベリー、いちご、

 メロン、レモン、梅、ぶどう

 といったところである。


 上手く行くようであれば、順次露地栽培にも

 挑戦していく。



『マンゴーとかイチゴとか、待ち遠しいですね!』


 ルシールは、日本のカフェに入って

 フルーツサンデーとかを頼むようになった。

 

 まあ、シマエナガとかエゾモモンガは

 日本では飼育不可だし、

 カフェ的にも動物が飲食するのは不味いだろう。

 だから、ルシールは認識阻害魔法をかけている。


 あ、僕にも認識阻害魔法が発現した。

 何しろ、女神様が僕をいちいち覗いてくるのだ。

 天界の窓とかいうやつで。

 プライバシーもあったもんじゃない。

 

 でも、僕の魔法力で対抗できるかな?


『多分、無理なんじゃないですかねー。でも、女神様もちょっと忖度してくれてるみたいですよ。マスターの嫌がることは基本的にしない方針ですからね』


 ああ、そうだった。

 僕は女神様的には得難い人材。

 それに僕を怒らすと、日本の神である

 天照大神様も怒る可能性がある。

 日本の女神様は大変おっかないらしい。


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