第23話 人口増加
人手を募集し始めて約1週間。
集まった人は
元集落民 2家族 9人(子供5人)
集落民の親戚 1家族 5人(子供3人)
借金奴隷 2人
説得にあたっては、お菓子が大変効果を発揮した。
「みなさん、ようこそおいでいただきました。事前にお伝えした方もいますが、この集落は現在、目覚ましい発展をしている最中です。それは、みなさんいご覧いただいた設備でもおわかりいただけると思います」
アランさんが移住者の前で演説を行う。
奴隷を含めて、各移住者(家族)には
それぞれ独立した宿舎が与えられる。
強固な土壁であり、室内は冷暖房魔道具完備だ。
食堂、お風呂とトイレは専用棟があり、
魔道具を駆使した先進的な設備となっている。
これらは王国でも類をみない豪華さだ。
質の面から言って、貴族にも負けないだろう。
「村長さん、本当にあの設備が無料なんか」
「はい、そうですよ」
「信じられん。上級貴族だってあんな設備もってるかどうか」
「驚かれるのは食の面でも同様です。まず、これを食べてください」
みんなに渡したのは、フライドポテト。
量産の目処が立ったので、
集落で収穫したもので作ってみたのだ。
「「「!」」」
「めちゃ、おいしい!」
「これは、ポテトを油で上げたものです。ご存知の通り、ポテトは最低クラスの食べ物とみなされていますが、この通り、高級品に生まれ変わりました。これは皆さんの将来です。今は実感がわかないかもしれませんが、この集落は賢者様のご加護を受けております。そして、近い将来、そのことを実感するでしょう」
アランさんは、僕の紹介とともにお菓子を配った。
「まずは、あなた達の栄養状態を改善します。このお菓子を食べてみてください」
配ったのは、ネ◯レキッ◯カットと
サン◯リアのミック◯ュジューチュだ。
「「「あっまーい!おいしい!」」」
とたんに全員の体が発光した。
「ああ、体が楽になっていく……」
奴隷をはじめとして、全員が満足な
栄養状態ではない。
中には体調を崩しているものもいた。
青白い顔に紅が指し始めた。
「それから、お風呂に入って石鹸でしっかり体を洗ってください」
「魔導具に加えてお風呂に石鹸。本当に貴族様みたいな生活が送れるのですか」
「ここでは、お風呂も石鹸も普通です。健康状態を保つために、毎日体を洗うことを推奨しています。お風呂に入る前に、しっかり体を洗うように。ああ、石鹸はたくさんありますから、どんどん使ってください」
集落民も同様だったけど、長年の垢がこびりついており、そう簡単にはキレイにならない。だから、数日かけてゆっくりと垢を落としてもらった。
「服も3セットあります。服が自動的に体のサイズに合わせますから、お好きな服をどうぞ」
お好きな、といっても、黒・白・青色ぐらいしか
バリエーションはないんだけど。
「服を3セットも……」
これまた、集落民同様の反応。
この世界では何もかもが高価だ。
食事関連だと、特に、甘いもの、肉類、油、
香辛料は非常に高い。
服も非常に高価だ。
庶民だと1年に1セット買えればいいほうなのだ。
◇
「移住者も落ち着きましたかね」
「ええ。当面は数的に十分ですが、あとは、出稼ぎという形で雇用してはどうかと」
「冒険者ギルドに依頼してもいいですし、近隣に噂をばらまいてもいいですね」
「なるほど。じゃあ、新しく来た人達が集落に馴染んだら、出稼ぎを募集してみますか」
仕事を作る必要もあるし、
受け入れ体制もつくらなくちゃいけない。
寝る場所とかね。
それに、急激な人の増加は良くない。
集団に馴染めず、混乱が生じがちだ。
ゆっくりとかつ急いで住民をなじませる、
という相反する課題があるのだ。
◇
さて、新たに来た人員は大人が8名、子供8名。
元からいた集落民は大人12名、子供4名。
新人に関しては、当面単純労働をやってもらう。
だから、油取り植物、ジャガイモ、雑穀畑の
収穫がメインだ。
何しろ、うちはあっという間に収穫を迎える。
播種から2週間前後なのだ。
今回は雑穀の話。
王国では主食にはヒエラルキーがある。
小麦>大麦>ライ麦>雑穀>じゃがいも
である。
雑穀とは、ここ集落では
オーツ麦、ハトムギ、粟、ヒエといったところだ。
その中でもオーツ麦を主体にしている。
オーツ麦は別名燕麦。
押しつぶした加工品(オートミール)を食べる。
「さあ、みなさん。オーツ麦って好きですか?」
「うーん」
「オーツ麦によるオートミール粥と小麦パンならどっちが好きですか?」
「そりゃ、小麦パンに決まってるさ」
「その考えを今から逆転させます」
僕は日本から蜂蜜を持ち込んでいる。
「オートミールに小麦粉少量と蜂蜜をかけて」
「蜂蜜?そんな高級品を!」
「よくかきまぜてオーブンで焼きます。ここにできあがりがあります。これに乾燥フルーツと牛乳を入れて、さあ召し上がれ」
「牛乳?これまた、珍しいものを」
牛乳は保存が難しい。
だから、牛乳はバターやチーズの材料であって、
食用にするものではなかった。
僕も、牛乳は日本から持ち込んだものである。
「おお!甘くて少し香ばしくてザクザクした歯ごたえが気持ちいい!」
「どうですか?」
「ああ、確かに小麦パンよりこっちのほうがずっとおいしい」
「だね。半分、お菓子みたいです」
「蜂蜜とドライフルーツが効いてますね」
「オートミール以外の蜂蜜、小麦粉、ドライフルーツ、牛乳は今のところ高額商品です。でも、いつかはこの集落で生産する予定です」
「本当ですか?」
「実際、今チャレンジしているのは蜂蜜です」
「「「おおお!」」」
「蜂蜜採取場は極秘のために立ち入り禁止区域となっていますが、順調に計画が進行しています」
「凄い!あの高級品がこの集落でとれるようになるなんて!」
「そのほかもすぐに実行する予定です。それもみなさんが来てくれたお陰で、人手不足が解消したからです」
「「「おおお!」」」
小麦粉については、街の市場で購入したものを使う。
ドライフルーツは種や苗を街の市場で購入したり
日本から持ち込んだものを試すつもりだ。
しかも、露地とハウス栽培の2通りで。
王国では牛は水牛が主流である。
水牛も地元の酪農家と交渉中である。
できれば、酪農経験者の移住も
検討してもらっている。
生き物は動・植物ともに簡単じゃない。
やはり経験者がいないと、魔法でどうにかなる、
というわけにはなかなかいかない。
なお、畑は電気柵で囲う予定だ。
延長距離は数kmに達する。
また、鶏は思い切って日本から持ち込む。
生物を異世界転移するとどうなるのか。
上手く行くとは思うが、
パワーアップするのかどうか。
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