第22話 人手不足解消に向けて領都ハイデル街へ行く3

「賢者様、市場では注意願います」


 アランさんが言う。


「ハイデル街といいますか、王国の商人はたいてい詐欺ってきます」


「詐欺?」


「ですね。例えば、小麦。秤が小さいとか、袋の底に石が詰めてあるとか、小麦にまぜものがしてあるとか。日常なんですよ」


 うわ。

 信用を重んじる日本の商人とは

 ここの商人はだいぶ違うようだ。

 というか、それって犯罪?


「まあ、商人に売る我々側も人のこと言えない場合が多いんですが。犯罪紛いなことをするのがいるんですよ。あ、我々は違いますけどね」


「うーん、じゃあさ、僕が一見さんのフリというかオノボリさん風の体で各店から試し買いしてみるか」


「試し買いですか。わかりました。私は少し離れていますが、スリもいますんで、気を付けてください」


 などとルシールが警告を与えてくれたんだけど、

 言われるまでもない。

 僕の頭の中では警告灯がなりっぱなしだ。


 これは僕の危険察知スキルだ。

 魔物などが襲ってくるときにも

 僕に警告を与えてくれる。


 この市場でも僕に焦点を合わせている輩が

 何人もいるようだ。

 どうやら、身なりは見慣れなくとも

 上質さはひと目でわかるようだ。

 分限者のボンボンぐらいに見られたかも。


 一応、さっきの反省もあるから

 気配操作スキルを発現・発動させて

 気配を薄くしているつもりなんだけど、

 まだまだ僕のレベルが高くないみたいだ。

 カモネギの対象にされている。


「おっと」


 その中の一人が僕にアタックをかけてきた。

 あえて、僕は何もしない。


 マジックバッグに貴重品は全て入れてあるし、

 マジックバッグは普段亜空間に置いてある。

 空間の裂け目から出し入れするのだ。

 裂け目は好きな場所に設定できる。

 普通のバッグとかでもいい。

 服のポケットでもいいし。


 それにこんな人の多いところで下手なことすると

 大騒ぎになるからね。

 

 スリの集団はチームだったのか、

 僕が何ももっていないと勘違いしたのか、

 僕を監視する視線はすっと消えていった。


 ◇


「これ。一通り買ってきたんだけど」


 僕は村に戻ると、

 さっそく市場の店の詐欺具合を確認してみた。

 いや、出るわ出るわ。

 アランさんが忠告したことがそのまま出てる。


 分量不足。

 石などによる重さのごまかし。

 偽装品がまぜてある。

 あと、釣り銭の誤魔化しもあった。


「凄いね。こちらが注意していないと、騙され放題ってわけか」


「ええ。中には注意していても騙されることもありますからね」


「ですね。お釣りなんか、眼の前でもごまかされることがよくありますよ。手品みたいに」


 ああ。

 そういう話は日本でも聞いたことがある。

 

「……お、これは全然詐欺ってないぞ?」


 20箇所近く訪れた中で、1店舗のみ

 ちゃんとこちらの注文通りの品物を

 渡してくれた店があった。


「ひょっとして、サルタンの店ですか?」


「ああ、そうだけど、有名なの?」


「ええ。誠実な店なんですけど、ちょっと高いんですよ。だから、今ひとつ流行らないんです」


 いやいや、詐欺とかスリとか治安の悪い街で

 このような人がいるのは貴重だろう。


「アランさん、サルタンの店というのをもう少しチェックしてもらえないかな。今後はできる限りその店で買物をすることにして、誠実さが本当かどうか確認したいんだ」


「いいですけど?」


「この村って、商人がやってこないでしょ?でもさ、今後は商人との付き合いが必要になってくると思うんだ」


「ああ、確かに。というか、人手を募集したことで今まで鼻にもかけなかった商人たちが村にやってくるかもしれませんねね」


「うん。でも、犯罪者みたいな商人とはつきいあいたくないでしょ?」


「ええ、それに外部の人間には注意が必要ですね。いろいろと村にはとんでもないものが増えていますんで」


 だよね。

 今手掛けているもの。

 例えば養蜂とか油なんてものは

 確実に騒ぎになりそうだ。

 高級品らしいからね。


 それとか各種魔導具とか

 あんなしゃべる機械系亜モンスターなんて

 とてもじゃないけど外部に見せられない。


「そういうの含めて村でもよく話し合ってみようか」


 ◇


「あの服着た人って、もしかすると聖職者?」


 ハイデル街を歩いていたときのこと。

 ロープと見慣れない帽子をかぶった1団が

 通り過ぎていく。


「ですね。あれは、真正教会ですね」


「真正?」


 救世主教会のあり方に異議をとなえ独立した。

 救世主教会は、王国の事実上の国教である。

 王国民の9割以上が信仰していると言われている。

 

 洗礼時に名前と住所を登録する。

 そして、結婚時、死亡時には届け出をする。

 お役所のような働きをする。


 様々な局面で祈りを捧げ

 民の精神的な平穏を守っている。


 神聖(回復)魔法で民衆の怪我や病気を守る。


 ワイン、パンなどの製造、

 金貸し、運送業は王国で一番の規模である。


「私らも昔は救世主教会の信者でしたけどね。本当に教会は貧乏人には何もしてくれないですから、信仰とかはなくなっちゃいましたね」


 何もしないどころではない。

 救世主教会のいちいち寄進を求める体質、

 高額な祈りや回復魔法の料金、

 特に金貸しのあこぎな実態、

 教会上層部の豪奢な暮らし等、

 救済者教会の腐敗を嫌い、

 救済者教会から独立したのが真正教会である。


 通常ならば独立など教会が許さないのだが、

 真正教会のトップが魔導師として

 王国でも名だたる実力者。

 また、真正教会の教義も

 ほぼ救済者教会と同じであり、

 弱小教会として見逃されている。


 実はこのような教会は王国にいくつかある。

 いずれも貧窮を絵に描いたような教会で

 信者もまばらにしかいない。


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