第21話 人手不足解消に向けて領都ハイデル街へ行く2

「アランさん、ちょっと街で買い物とかご飯とか食べていこうか?」


「わかりました。ただ、くれぐれも油断召されるな」


 で、プラプラ歩いて行ったんだけど、

 市場へ行くには少し裏通りを歩くことになる。

 僕はギルドからつけている男たちを捉えていた。

 その数は次第に多くなっていった。


「へへへ。ちょっと坊っちゃん。用事があるんだが」


 ひと目で輩とわかる男たちに前後を挟まれた。


「僕達にはないんだけど」


「いいから、こっちこいよ」


「やだね。どうせ、懐の金が目当てなんだろ?」


「物わかりいいじゃねえか。さっさと出しな」


 輩達はナイフを取り出し、そう凄む。

 やからか。

 僕は急に怒りが湧いてきた。

 眼の前が赤色に染まり始める。


「スキルロック発動」


 これは女神様から授かったスキルだ。

 相手のスキルとかをロックして

 使用できなくさせる。


「スキルロックだと?何分けのわからんことを」


「自分のステータス見てみな」


「ステータスだと?……あああ!俺のスキルが消えてる!」


「「「俺のもだ!」」」


「さて、まだやる?僕はこれ以上したくないんだけど」


「い、いや、お前、何しやがったんだ?」


「さあ?でも、君たちはこれから一生、スキルなしで暮らすことになるんだね」


「「「うわああ!そんな!」」」


「馬鹿野郎。こんなのマヤカシに決まってる!おまえらやるぞ!」


 そう叫んだ輩たちはナイフを振りかざしてきた。


「バリン」


 このアホども。

 僕にスキルなしのナイフが通るはずがない。

 むしろ、ナイフが割れてしまった。


 輩の攻撃は僕には蚊が止まるようだった。

 僕の頭の中でその攻撃を瞬時に分析、

 結果を冷静に予測することができた。


(ああ、この攻撃は蚊にさされるよりも弱い)


 彼我ひがの差を輩に見せつけるため、

 あえてその攻撃を受けるという余裕まで

 生まれているのであった。


「へ?俺のナイフが!これ、業物わざものなんだぞ!」


「あ、あ、全員で一斉にとびかかれ!」


 まだやるのか。

 ああ、僕のムカムカが止まらない。

 冷静に対処している僕だったけど、

 だんだんと怒りのボルテージが

 上がってきた。

 そして、眼の前がより赤くなる。


「ナイフはこう使うんだよ!風刃!」


 僕は怒りがおさまらないままナイフを一閃。

 ナイフは輩共の脚を一瞬にして刈り取った。


「は?うぎゃああ!」


 あ、しまった。

 ちょっとやりすぎた。

 僕は急速に冷静さを取り戻した。


「アランさん、ギルドか警ら所に戻って誰か呼んできてよ」


「は、はい、わかりました!」



「さて、君たち。切断された自分の脚を元通りにしたいなら、早く切断面を合わせるんだ」


「はああ?何言ってやがるんだ!ああ、痛え!」


「早くしないと、一生歩けなくなるよ」


「あ?あああ」


 いつくばって輩たちは自分の脚をくっつけ始める。


 僕は救急セットからマキロンSを取り出した。


「じっとしてなよ」


 そう言いつつ、マキロンSを脚にふりかけた。

 

「シュウウウ!」


「ううう、痛え!へ?脚がくっついた!」


 イソジンもきず薬としては効果が高いけど、

 マキロンSのほうが上手だった。


 僕は集落の人達の魔法訓練を見つつ、

 傷を治していたんだ。

 その時に、運悪く腕を切り落とした人がいて、

 そのとき、マキロンの効果を知った。


 切断面は泥で汚れていたりするけど、

 関係ないみたい。

 異物は排除されていくようだ。



「ケン様ー!」


 ちょうどその時、衛兵を連れてアランさんが戻ってきた。


「あー、またお前らか!今度は容赦ようしゃできんぞ!」


 輩共は衛兵に捕縛され、連れて行かれた。

 どうやら、犯罪奴隷として処分されるらしい。

 可哀想に。

 スキルがロックされているから、

 今後は大変だろうけど。


 他人の脚を切断する。

 決して気持ちのいいもんじゃない。

 でも、異世界で経験を積んだせいか、

 それとも耐性スキルが働いているせいか、

 なんとも思わなかった。

 悪人を退治したことで清々しさを感じていた。


 

「女神様がいう通り、スキルロックって気軽に使っちゃいけないよね?」


 一方で僕は反省していた。

 ただ、僕は明らかに『キレた』。

 眼の前が赤くなるほどの怒り。

 こんなこと、生まれて初めてかもしれない。


 以前の僕なら考えられない行動だった。

 力を得たために、僕もこらえ性がなくなったのか。


『そうですか?』


「ルシールは天界の存在だから、気にしないのかもしれないけど、ルシールのスキルがさ、ある日突然使えなくなる。困るでしょ?」


『うーん、天界に住まうものはですね、スキルが消えるということがありませんから、考えたことないですけど、確かにそうですね』


「人には一生の問題になるからね。そういうのを僕なんかが後先考えずに使うのはまずいと思うんだよ。僕も傲慢になってく気がするし。ほらほら、賢者様のお通りだ、頭が高いって感じで」


『うーん、そうなんですか』


「だからさ、こいつは死刑にしてもかまわない、ぐらいの悪人以外には使わないようにするってのはどう?」


『それはマスターのおぼし召しの通り』


「いや、そこに僕以外の判断を入れたいんだよ。だから、僕がスキルロックをしたいときは、ルシールに聞くから。ルシールとしてもそれが妥当かどうか判断してもらいたいわけ」


『ああ、わかりました』


「まあ、傲慢かましてくるやつは無条件でスキルロックしたいんだけどね」


 僕の頭の中では、前職の上司の顔が浮かんでいた。

 セクハラ・パワハラ・モラハラのオンパレード。

 僕は心を病んでしまい、職を辞したのだ。


 あれは完全な労基事案、警察事案。

 でも、あのときはそんなこと思いもしなかった。

 退職してから、ネットで僕のような事案が

 たくさんある、ということを知り、

 僕の無知さ加減に頭を抱えていたのだ。


 僕はじっと自宅で心を休めていた。

 でも、思ったよりも深く心をむしばんでいたのかも。


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