第19話 初魔道具に挑戦

 この集落は誠に貧しい。

 掘っ立て小屋の中にはなんの設備もない。

 水道も電気もガスも通っていない。

 床だって土間の上に草をしきつめただけだ。

 現代人の僕から見れば、何から何まで

 すべてを『改善』したくなる。


「まず、集落全体の地面や家の床を固化しようか」


 土魔法の発現している集落民に命じた内容だ。

 コンクリートのように固くしたのだ。


「その次は壁。住民の家を土壁にしようか」


 土とはいうものの、これもコンクリートに近い。


「うひゃあ、固化魔法とか壁魔法って、かなり魔力を使いますね。俺、そろそろ魔力が枯渇してきましたよ」


「ああ、お菓子渡すから頑張って」


 お菓子の盛り合わせをおいて

 頑張ってもらっているけど、

 集落民だけでは不十分な面があるので、

 僕も作業に参加する。


「開口部は難しいですね。というか、壁全体が歪んじゃいませんか?」


 穴を開けたり、壁の整形も僕の仕事だ。

 多少繊細な魔法が要求されるのだ。


 僕にしても、まだ十分魔法になれていない。

 これら作業は僕にもいい魔法訓練になっている。



 さて、個人のスペース以外の建物も建設した。

 それが食堂棟とトイレ、お風呂である。


 それらはゆくゆくは各戸にも設けたいのだが、

 現状ではいろいろ慣れてない面が多いので、

 まとめることにしたのだ。


 それらの設備のために、僕は魔道具に初挑戦した。


 加熱魔道具(コンロ)、冷却魔道具(冷蔵庫)

 温水魔道具、上水魔道具、下水魔道具、

 廃棄物分解魔道具、冷暖房魔道具、洗浄魔道具

 などである。


 一気に作れるわけじゃない。

 集落民に聞くと、


「やっぱり、水ですね。毎日、井戸で水くみをするんですけど、大変なんです」


 集落には井戸が一つあるだけで、

 毎日の水くみは重労働の一つだ。

 まずは上水魔導具。


 ちなみに、街での水くみはもっと大変だ。

 井戸だけじゃなくて、近くを流れる川を

 街にひきこんでるのだけど、汚染がひどい。 


 

 次は加熱魔導具。


「水の魔導具、本当に助かります。他にも魔導具を作って頂けるのなら、加熱魔導具が欲しいです」


 薪は集落の産業の一つだ。

 この世界の主要なエネルギー源は

 薪か木炭。

 集落では、森に行って枯れ木を採取したり、

 木を切って乾燥させて薪割りをする。


 この世界、この薪が圧倒的に不足している。

 この薪の延長線上に木炭がある。

 より高価に売れるのだけど、

 集落民には木炭を作る技術がない。


 だから、作成したのは、

 コンロ魔導具と暖房魔導具。


 更に数ヶ月をかけて、家庭用魔導具を

 どんどんと開発してくことになる。



 これらの魔道具を使うためには

 使用者に魔力があることが第1の条件となる。

 ただ、集落民の魔力はさして大きくない。

 そこで、魔力を補充する必要がある。


 それが魔素ジェネレーターである。

 発電機を次元渡りさせると、

 魔素ジェネレーターに変化する。


 現状の僕のレベルでは、

 この機器の仕組みを解明できていない。

 だから、発電機を多数日本から持ってきた。



「魔素ジェネレーターですか。そんなの聞いたことがないですね」


「ほんとに。確かに儂らはただの農民で知識がないとはいえ、魔素ジェネレーターがとんでもないものであることはわかりますぜ」


 僕は簡単に考えていたけど、

 魔素ジェネレーターを解明できれば、

 産業革命以上の大発見かもしれない。

 何しろ、おそらく空中に浮遊する魔素を

 この機器は集積するのだから。

 元は無料なのだ。



 なお、僕が一番熱望したのは、お風呂だ。

 お風呂が習慣づいているので、

 お風呂に入らないと気持ち悪くて仕方がない。


 早い段階で清浄魔法を発現させたのだが、

 この清浄魔法、僕のレベルが低いこともあり、

 表面しかキレイにしてくれない。

 肌をゴシゴシ擦ると垢が出てくるのだ。

 キレイにするにはお風呂が必要だ。


 ただ、集落民はお風呂に慣れていない。

 だから、入り方を指導する必要がある。



 お風呂は10人程度が入れる大きさにした。

 土魔法で湯船を作る。


 まず、入る前に洗浄魔法で全身をキレイにする。

 そして、お湯で全身を洗ってから湯船に入る。

 そうしないと、すぐに湯船が汚れる。


 温水魔法で給湯している。

 温度は約40度。

 細かい温度設定はできない。

 最低限、火傷しないということでこの温度にした。

 熱い場合は水で薄める。


 石鹸は使い放題。

 石鹸はボディソープであり、日本からの持ち込み。

 液体石鹸はこの世界でも作れるし、

 このボディソープの容器も、

 構造自体は難しいものではない。

 そのうち、優秀な鍛冶屋に作らせることができる。


 さらに、バスルームと風呂水の清浄魔道具と

 排水設備とを開発した。



 試しに集落民にお風呂を使ってもらっている。

 勿論、男女別だ。

 あ、僕(とルシール)専門のお風呂も作った。

 正直、清潔意識が違いすぎるので、

 専用のお風呂が必要なのだ。


 好評なようなら、これで集落民が増えても

 風呂を増やすことで対処できる。

 それに、ゆくゆくは各家庭に設置したい。



「好評とか、そういうレベルじゃありませんぜ。お貴族様のような設備の数々。これで文句言ったら、バチが当たりますわ」


「いやいや、今はわかんないかもしれないけど、使っていくうちに不満が出てくるもんだよ。そしたら、遠慮なく言って頂戴。改良につながるからね。頼むよ」


「へい。了解です」


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