第18話 異世界農業

異世界農業】4/18→4/25


 再び日本に戻り、1週間後に異世界に転移した。

 この間、女神様からスキルをいただいた。


『ふむ、お主はなかなか順調にやっておるみたいじゃの』


 ええ、なんとかやってます。


『見込みがあるようじゃから、ちょっと強力なスキルを授けるぞ』


 と女神様が言うと、僕の体が光った。


『ステータスのスキルを見てみるのじゃ』


【ステータス】

 氏 名 相崎賢

 スキル 多言語 魔法 次元渡り 各種耐性

     各種感知 身体強化 スキルロック

     その他スキル


 スキルロック?


『そうじゃ。相手のスキルをロックしてしまう技じゃ』


 スキルが使えなくなる?


『そうじゃの。アンロックもできるがの』

 

 これは確かに強力ですね。


『うむ。殆ど、相手の死刑宣告に近いスキルじゃ』


 ああ、確かに。

 スキルのない冒険者。

 アイテムボックスのない商人。

 回復術のない教会関係者、あるいは回復師。

 魔法の使えない貴族。

 

 社会的にも実際の実力的にも

 そいつの未来がそこで閉じてしまいそうな

 破壊的なスキルだ。


『気を付けて使うのじゃ』


 確かに。



 さて、すでに季節は4月下旬。

 その間に自宅のこたつ布団をしまい、

 電源もたたんで、こたつをただのテーブルにした。


『ああ、こたつ布団が……』


 女神様、これからは暑くなりますから、

 むしろ、こたつ布団はいらないんですよ?


『そうか……じゃが、こたつ布団気に入っておったのじゃ』


 というか、僕の自宅を勝手に使うのを

 やめていただきたいのですが。


 ◇


 さて、日本から異世界集落に転移すると、

 すぐに集落民が集まってきた。


「ああ、賢者様!畑が大変なことに!」


 えっ、緊急事態?

 畑に向かってみると、

 そこは青々とした植物が生え茂っていた。


「大豆、とうもろこし、ひまわり、菜種、ごま。これが前回賢者様と一緒に植えた種です。発芽が早いなあとは思っていたのですが、僅か10日ほどでここまで成長しました」


 よく見ると、花が開花する寸前のもある。

 これは数日以内に収穫できるのか?

 それにしても、若干季節感がない。


『マスター、これは種そのものの性質が変化したのか、それともひとえに日本からもちこんだ肥料のおかげですかね』


 とルシールは分析する。

 それにしても、10日で開花、

 おそらく2週間で収穫にまで至りそうだ。

 促成栽培としてもやりすぎだ。

 魚肥を作っているので、そちらとも比較しよう。

 

 ……

 ただ、この促成栽培、落とし穴があった。

 収穫した種子を食べたりするのに問題はない。

 でも、この種子を栽培しようとしても、

 うまく育たない。


 これはあれだな。

 F1品種みたいになっているな。


『F1品種ですか?』


 F1品種は優れた性質を持つ2つの系統を親として交配によってかけ合わせたもの。その中でいいとこ取りをした種がF1品種として市場に出回っている。ただ、F1品種はその1代限りしか優れた性質が現れない。


『あー、すると毎年種を買い続ける必要があるということですね』


 そういうこと。 

 この集落で植えた種は別段交配したものではない。

 だから、F1品種じゃないけど。

 でも、チート肥料を与えた結果、

 F1品種みたいになったのだろうと想像する。



 僕はベランダで家庭菜園してたから、

 この程度の知識は常識なのだ。


 これらの疑問はその後の魚肥による栽培結果で

 ほぼ確定した。

 魚肥によるものは促成栽培にならないし、

 収穫した種を植えると立派な第2世代に成長した。

 ただし、期間が伸びた分、問題が多発する。

 水やり、天候、病気、虫など。


 でも、種なんて安いもんだしね。

 日本から種を運びつつ、

 魚肥をはじめとするこちらの肥料でも

 地道に栽培していけばいいだろう。


 要するに、日本の品種をこの世界に定着させる。

 それが一番の課題だからね。



「賢者様、じゃがいもはイケてるみたいです!」


 そんな中、ジャガイモはさすが最高の救荒作物。

 日本からの強化肥料を使ったにもかかわらず、

 育ったじゃがいもを植えると、

 再び素晴らしい芋に成長した。

 無論、超促成栽培である。


「じゃがいもはこの世界の民を救うかもしれん」


 じゃがいもが南米より欧州にもたらされ、

 そして、冷害の欧州を救ったという。


 それだけではなく、痩せて水の不足する土地でも

 じゃがいもは問題なく育つ。

 

 ただ、連作障害を起こしやすい。

 それでアイルランドでは飢餓に陥り、

 アイルランド移民がたくさん出たという。

 その時の著名な移民者にはケネディ家がいる。

 

 この集落の主要な作物は雑穀だ。

 それはそれで栽培を続け、

 並行して主要作物としてじゃがいもにしたい。

 


【花畑と養蜂】


「蜂の巣を人工的に作る?マジっすか?」


「ああ、そんなに難しくないみたいだよ」


 蜂の巣箱は19c中頃に発明された。

 発明家はラングストンさんという人だ。

 製作の難しい箱ではない。

 ただサイズが厳格にきまっており、

 複数の巣箱を扱うときに便利だ。


 そのラングストン巣箱を作成する。

 頼るのはネットの情報だ。


「この箱を花の多そうな場所において……」


 ネットによると、理想的な養蜂場とは、

 ・周辺に蜜源植物、花粉源植物が豊富にあること。

 ・南向きに地形が広がっているような場所

 ・夏の暑さをしのげるような木陰

 ・冬の北風を防げるような地形

 ・道が付いていた方が便利

 ・大水の心配が無いような場所

 ・乾燥した土地。

  湿気の多いところは病気になりやすい


「というか、花が咲いていないっすね」


「確かに。元は荒野だもんなあ」


 だから、花畑の育成から始める。

 目指せ、ファーム富田。

 ファーム富田とは北海道にあるラベンダー畑だ。

 北海道の花畑と言えば、1番めか2番めには

 名前が上がる場所である。


 勿論、ラベンダー畑だけでは花が途切れてしまう。

 年中安定した蜂蜜をとるには、年中花が必要だ。

 花畑予定地に様々な花の種や苗を植えていく。

 

 春 ウメ、ツバキ、タンポポ、サクラ、ナタネ、

   レンゲ、ニセアカシア

 夏 カキ、クリ、トチ、リョウブ、ナツハゼ、

   ヒマワリ、ヤブカラシ、ソバ、ラベンダー

 秋 コスモス、セイタカアワダチソウ

 冬 ビワ


 チャレンジしたのは以上。

 日本からの肥料は、生育に時間のかかるもの、

 それ以外は魚肥を使って育てた。

 大抵は水だけなんだが、どうなるか。


 セイタカアワダチソウとか怖いんだけどね。

 日本では一時期凄い勢いで広がった。

 代表的な特定外来植物だ。

 でも、最近は急速に繁殖地を狭めているらしい。

 

 花畑がやや雑になったのは、

 人手が足りないからだ。

 雑穀、じゃがいも、各種油用植物、養蜂、

 このあたりで人手が大幅に不足し始めた。


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