第13話 セリア視点
「ああ!お母さんが死んじゃう!」
私のお母さんが高熱を出した。
咳もある。
一昨年死んだお父さんと同じ症状だ!
早朝だ。
まだ誰も起きていない。
私は集落の人を待っていられなかった。
すぐに薬を処方しなくちゃ!
こっそりと集落を抜け出した。
私は10歳。
小さい抜け穴が集落を囲む柵にはある。
薬草の場所はわかっている。
集落のそばにある森。
走れば10分ぐらいの場所にある。
その森のほんの少し奥に行ったところだ。
アランさんと何度も訪れている。
きっと、大丈夫だ。
お母さん、私をおいて行っちゃ駄目!
私は泣きながら走った。
薬草はたくさんあった。
この薬草は一昨年の病気の人の半分以上を
救った。
お母さんもきっと大丈夫だ。
「え」
薬草を摘んでほっとした直後。
いつの間にか眼の前に黒い獣がいた。
黒熊。
大きさに似ず、俊敏だ。
あの大きな爪で一刀両断される。
「キャー!」
恐怖で私は頭がどうにかなりそうだった。
「は?」
気づいたら、眼の前の熊は真っ黒だった。
確かに黒色の熊だけど、眼の前のは違う。
燃えカスだ。
ブスブスと焦げたニオイが鼻を突く。
「お嬢ちゃん、大丈夫か?」
ああ、この人が助けてくれたんだ。
私は安心したら涙が止まらなくなった。
「あ、ああ、だ、大丈夫です」
見たことのない人だ。
黒髪・黒目。
珍しいけど、優しそうな人だ。
「なんでこんなところに一人で?」
「お母さんの薬草を取りに……」
「薬草は?」
「あります」
「じゃあ、家まで送っていくよ」
「あ、ありがとうございます……」
だが、足がガクガクして力が入らない。
男の人は肩にタオルをたたんで置くと、
「失礼するよ」
といい、ひょいと私を担ぎ上げた。
そして、ゆっくりと肩にのせてくれた。
「座り心地、悪くない?」
「ええ、全然悪うねえです」
「なら、良かった」
ああ、私はお父さんを思い出していた。
よく、私を肩車してくれた。
◇
「セリア!」
私は男の人を案内すると、
集落の入口でルノーさんが叫んだ。
「この子、熊に襲われていたんだ」
「はい、ケン様に助けてもろうたです」
私達は移動している間に自己紹介をしあっていた。
ルシールという可愛い小鳥も紹介してもらった。
「ええ、本当に?セリア、いつん間に外に出たんじゃ。いつも一人で外に出ちゃいけん、と言ってるのに!」
「だって、お母さんが急病で。みんなの迷惑になるち思うち」
「馬鹿者。そげなわけあるか」
「まあまあ。こうして薬草を取ってきたんですから」
「なんにしてんも、ありがとうございました」
「いえ、で、お母さんというのは?」
「こちらですじゃ」
アランさんを始め住民のみんなが集まってきた。
心配そうな顔をして、私は自分のしでかしたことを実感した。
確かに、私は死ぬところだったのだ。
そして、私はケン様を家に案内した。
相変わらず、お母さんは高熱で苦しそうだ。
「薬草もいいんだけど、僕、いいもの持ってるから、まずこれで元気づけしましょうか?あ、へんなものじゃないから。栄養満点のジュースなんだ」
ケン様がどこからともなく取り出したのは、
透明な容器。黄色の液体が入っている。
その液体をケン様はやはりどこからともなく取り出したコップに入れ、私に渡した。
「さあ、お母さんに飲ませてあげて?」
マジック?
不思議な光景に戸惑いながら、
私は液体をママに飲ませる。
「お母さん、これ飲んで……」
辛そうな顔。
お母さんを起こし、コップを口元に近づけた。
途端にお母さんが眩しく発光したかと思うと、
お母さんの顔色から赤みが薄れ、
息苦しさも消え、
うつろだった目に光が戻ってきた。
「セリア。これ、何?飲んだら、体調がようなった……」
◇
「賢者様!」
ケン様の呼び方はすぐに決まった。
お母さんを治癒させたあと、
住民に広がり始めていた病気も次々に治したのだ。
この病気は一昨年の病気に似ている。
あのとき、私のお父さんもかかって……
流行り病だ。
王国ではこういうとき、下手すると
住民を集落に閉じ込めて
集落そのものを燃やしてしまう。
そうでなくても、危なかったと言われた。
賢者様は集落の救世主だ。
お陰で賢者様は集落のそばに滞在してくれることになった。
テントという簡易寝床で寝起きされている。
私も一度だけ中に入ったことがある。
賢者様は子供たちに優しくて
テントをじっと見ていたら
「中に入ってみる?」
と手招きしてくれた。
私達は大喜びでテントに入ると、
中は私達子供4人がギリギリ収まる広さだった。
温度調節がされていて、とても快適だった。
そして、可愛くて嬉しいのが小鳥のルシール。
可愛いなんてもんじゃない。
真っ白でフワフワの丸っこい綿でできた小鳥。
顔にはテンテンテンと3つの小さい目と口。
可愛すぎて地面に転げ回るほど可愛い。
ルシールも時々私達と遊んでくれる。
凄く賢いコトリさんだ。
さすがは賢者様といっしょにいるだけある。
でも、何故か、段々と雪だるまになったけど。
賢者様曰く、食べ過ぎなんだって。
食べてるとこ見たことないんだけど。
好きなものはなんだろう。
「人間と同じだよ」
小鳥なのに、穀物とかはダメらしい。
賢者様がいつも食べているベントウというのが
好きらしい。
あのベントウは住民の間でも話題だ。
どんな味がしてどんな効果があるんだろうって。
何しろ、賢者様が授けてくれるお菓子。
超美味しい!
お砂糖がたくさん使われているらしいんだけど、
これが凄く高くて、お貴族様とか大きな商人さん
ぐらいしか食べないらしい。
「内緒だよ?」
と、賢者様はテントに遊びに行くと
お菓子を一つ余計にくれる。
「でも、食べ過ぎは駄目だからね」
と3時のおやつのときだけだ。
私達はこっそりもらいにいく。
でも、大人の人達にはバレてたみたいだ。
「子供はよく食べよく寝ること」
賢者様もそう言ってた。
大人の人達もうなづいていた。
私が好きなお菓子、全部好きなんだけど、
中でもポ◯キーとエ◯ゼルパイとキ◯トカット。
とにかく、ちょこれーとという甘くて
ほんの少し苦いものがかかったもの。
もったいないから、ペロペロ舐めながら食べる。
「これ、お行儀が悪い」
お母さんに叱られるんだけど、やめられない。
だって、普通に食べたらすぐになくなっちゃう。
そのお母さんなんだけど、
アランさんが新しいお父さんになった。
アランさんとお母さんは幼馴染で
お父さんとも仲良しで、
私も親戚のおじさん以上に仲良しだった。
今度、肩車してもらえるか聞いてみよう。
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