第11話 日本に戻ってきた2

 こうして、女神様とルシールが消えた。

 僕がするべきことは、金塊を売ることだな。

 

 ネットで調べて直近で信用のおけそうな店に

 電話で尋ねてみた。


「あの、金塊が先祖の蔵から出てきまして。売ろうと思ってるんですが」


「はい、ありがとうございます。お持ちいただければ、金塊の鑑定を致します。それから提示金額にご同意いただければ、売却して頂くことになります」


 それからは、いろいろと手続きを説明してくれた。

 必要な書類とか、税金のこととか。


「じゃあ、午後からお邪魔しますから、お願いします」



 あ、外出する前に、着替えをしなくちゃ。

 向こうの環境に合わせて

 結構ハードな装いになってるからね。


 それと、鏡、鏡。

 僕はあちらの世界に行くと15歳に若返った。

 実際、顔も昔の若い僕だった。


「あー、良かった。元のおじさん顔に戻った」


 おじさんていうか、馴染みの顔だ。


 ステータスはどうなってるんだろうか。

 こちらでは魔法を使えないって話だけど。

 とりあえず、


「ステータスオープン」


【ステータス】

 氏 名 相崎 賢

 国 籍 日本人

 性 別 男

 年 齢 30歳

 職 業 無職・賢者

 スキル 多言語 魔法 次元渡り 各種耐性

     各種感知 身体強化 その他スキル

 その他 女神の加護


 え?

 ステータスオープンしたぞ。


 しかも。

 スキルが。


 僕は魔法の記述をじっと眺める。

 

『火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、鉱山系魔法……』


 僕の取得した魔法がずらりと並ぶ。


「(もしかして?火魔法ファイア)」


 ピンと立てた人差し指の先端。

 

『ポッ』


 うわ、ファイア、使えた。

 地球上では魔法は使えないって話だよね?

 しかも、身体強化スキルもある。


「バシュッ!」


 冷蔵庫にあるりんご。

 取り出して握りしめてみた。

 簡単に潰れて、受け皿に果汁がしたたり落ちる。


「(ああ、身体能力は向こうのままだ)」


 多分、僕は超人ハルクのままだ。

 空は飛べないけど。

 これは注意しなくちゃ。


 ちょっと力を入れただけで大惨事になる。

 僕はよく絡まれるからな。

 でも、今は人を攻撃するのに抵抗感がない。

 ちょっと本気を出しただけで

 相手の顔が消滅しかねない。

 トマトを潰すように。

 低姿勢を貫こう。


 他には?

 マジックバッグは使用できる。

 これはありがたい。

 これがないと、活動がかなり狭められるからな。



 外出すると、空気の膨らみを感じた。

 僅か1週間の違いだが、季節の移り変りを感じる。


 それと、桜が開花し始めている。

 今は4月上旬だ。

 流石に鈍感な僕でも、桜の開花には目が行く。


 売却は簡単だった。

 IDカードと通帳、金塊を持って来店。

 まず、鑑定。

 機械があって、金の純度と重さを調べる。

 そして、その店の買取価格を提示してくる。


 簡単な税金の説明もしてくれた。

 税金は結構な額になる

 一度、税務署に伺ったほうが確実か。


 金塊は1kg強あった。

 1gあたり約15000円。

 だから、1500万円以上の買取価格となった。

 代金は銀行振込となる。



「(すごいよな。実働2時間ほどで収入が1500万円か。しかも、実質無制限に近いよね、金の埋蔵量)」


 個人的に掘る量なんて知れてるからね。

 何度もこの店にお邪魔することになりそうだ。


 ◇


「へへへ」


 店から帰る途中、

 いかにもな格好の3人のやからに呼び止められた。

 店を出た後からおかしな気配に気づいていた。

 どうやら、気配察知スキルは生きているようだ。


 僕の住んでる街は、不幸なことに

 非常に治安が悪い。

 『住みたくない街』『治安が悪い街』などの

 アンケートをとると、不動の1位だ。

 昔は住みやすい街として有名だったのに。


 特にここ数年。

 不良外国人が大量に流入してきて、

 それに対抗して不良日本人も跋扈ばっこしている。

 反比例して、善良な市民の流出が止まらない。


 僕はたかられ体質なのか、

 若いときからこの手の標的にされやすい。

 ブラック上司にも目をつけられて、

 散々いじめられた。


「兄ちゃんよ、今、宝石店から出てきたよな。ちょっと話をしようか?」


 さて、こいつらはどうしよう?

 あ、ちょっと怒りが。

 冷静に。冷静に。


 ◇


 裏路地に連れ込まれた僕は

 というか、意図的に裏路地にそいつらを誘導して、

 人気ひとけがないこと、そして視線とか監視カメラの

 ないことを確認して、

 そいつの前で壁をなぐってみた。


『ボゴッ』


 簡単にブロックペイに穴が空いた。


「!」


「で、用事は何?」


 ジロリと輩たちをにらむ僕。

 本当に許せないよな、こういう奴ら。

 あ、また怒りが噴き上がってきた。


「い、いや、人違いでした……」


 そう言って僕から離れようとする瞬間。

 瞬時に眼の前が赤くなった。


「ウギャア!」


 僕はヤツらの手足をバキバキに折ってやった。


 うわっ。

 そんな気なかったのに。

 穏便にすませようとしたのに。

 ちょっとムカッとしただけで自然に手が出た。

 しかも、3人。

 一瞬にして。

 これではどっちが輩かわからない。


 異世界を経験したことで、

 暴力に対して耐性が強くなったと言うか、

 無慈悲な性格になったというか。

 なんにしてもますます短気になってきた気がする。


 どうしよう、こいつら。

 救急薬、使えるかな?

 それとも、救急車呼んでやるか。

 親切な僕。


 でも、救急車来るだろうか。

 治安の悪化で、警察も救急車も

 簡単に動かないって言われている。


 ま、こいつらも本望だろう。

 一応、こいつの記憶を消しておこう。

 そんな魔法スキルはないんだけど、

 念じたら、使えるようになった。

 魔法消去スキル。


 頭に手をおいて、念じるだけ。


「!」


 そいつは一瞬ピクリと動いたが、

 その後は痛みで地面にうずくまるばかりだった。


 あ、ブロックペイの穴も塞いでおかなきゃ。

 こっちは簡単に土魔法で修復しておいた。


 でも、ショックだな。

 輩にはなりたくない。

 僕、ちゃんと日本で生活していけるだろうか。


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