第10話 日本に戻ってきた1

 異次元渡りスキルで日本に戻ってきた。

 異世界では1週間経っていた。

 こちらに戻ってきてみたら、

 やはり1週間経っていた。


『あのですね。世界を作るときにソフトウェアがありまして。それに基づいて世界が作られるんですが、時間単位は同じである世界が多いんですよ。デフォといいますか、この長さが一番都合がいいらしいんですよね』


 ルシールは不可思議なことをいう。

 ソフトウェア?

 シムシティみたいなものがあるということか?


『シムシティがなんだかわかりませんが、これらの世界がゲームみたいなもの、っていうのはある意味あたってますね』


 うーむ。

 とにかく、こちらと向こう側とでは

 流れる時間が同じということか。



 まあ、そういう難しい話はおいといて、

 次元渡りのスキルは1週間に1回しか使えない。

 それだけ、エネルギーチャージが大変なんだろう。

 だから、1週間の間に準備して、

 再びあちらに向かうつもりだ。


『了解しました。私は何を?』


 休息をとってもらって。


『承知しました。ただ、願わくはこちらで生活したいのですが』


 天界は嫌い?


『嫌いではありませんが、天界の評判通り日本の暮らしは最高なんですよ』


 ああ、ルシールは甘味が好きだったよね。


『ええ。それだけじゃなくて、あのメガ盛り弁当も最高です』


 そっか。

 あれは確かに大満足弁当だもんな。

 それに、お菓子でも弁当でも、付加効果があった。

 確かにパワーアップを感じたのだ。


 それにしても、異世界は充実してたよね。


『ですね。私も手助けができて嬉しいです』


 ルシールは前よりも姿を変えていた。

 メガ盛り◯ンモス弁当と日本のお菓子攻撃で

 太ったエゾモモンガになっており、

 本人的にはショックだったらしい。

 太ったエゾモモンガはまるで雪だるまだったのだ。

 可愛いと言えば可愛いのだけど、

 ちょっとそれはない、ということになった。


 だったら、もっと大きい動物になればいいのに。


『いえ、いち推しはシマエナガ。2番めはエゾモモンガ。それ以外はありえません』


 というルシールのこだわりがあるようだ。


 その後、ルシールは必死にダイエットというか、

 トレーニングに励んでおり、

 余分な栄養を体内に取り込んでいるところだ。

 新たな力に変換するらしい。



 で、戻ってきた場所は勿論、

 勝手知ったる懐かしの我が家。

 出発したのは我が家のLDK。

 僕はここで生活している。

 食事も寝るのも遊ぶのもこの部屋。


 そのLDKに転移すると、


『おや、おかえりなのじゃ』


 女神様がいた。

 相変わらずのゴージャスな笑顔をして、

 どうみても、ゲームをしていた。


『ちょっと、攻略が行き詰まっておっての。いいところに帰ってきたのじゃ』


 女神様……



 僕はとりあえず女神様にゲーム攻略を教え、

 キリのいいところで

 天界に戻らなかったのか尋ねてみた。


『勿論、帰ったのじゃ。じゃがの、ちょっとこのゲームとやらが気になっての』


 よく操作方法がわかりましたね。


『ほら、例の天界の窓からのぞいておっての』


 僕のプライバシーは。


『いや、恥ずかしがることなぞないぞ。妾は女神。すべてを見通す神なのじゃ』


 何を偉そうに。

 こりゃ、賢者権限で強力な認識阻害スキルを

 手に入れなくては。



『で、どうじゃった?』


 ああ、充実してましたよ。

 魔法も使えて大満足だし、

 身体能力がビビるぐらい上がったし。


『あちらで生活すると不便なことも多かろう』


 まあ。

 開拓村にお邪魔してたんですけど、

 引くぐらい困窮してました。


 ですから、あれこれ手助けしまして。

 以前ならボランティアに興味がなかったんですが、

 本当に充実してました。

 毎日が色づいていましたね。


『ふむふむ。それは良かったの』


 女神様も嬉しそうだ。


『ただの、あまり向こうの文明度とかけ離れたものを持ち込んでも向こう側に受け入れる体制がないことが多いのじゃ』


 ああ、確かに。

 車持っていっても、ガソリンないしね。

 電子機器なんて、修理できない。

 道路だって整備されてるかどうか。


『だから、向こうの世情をよく見極めてほしいのじゃ』


 無理なく文明開花、というわけか。


『それとの、こんなことを言うと嫌がるかもしれんが、ボランティアするときは相手の依存心に注意するのじゃ』


 依存心?


『そうじゃ。妾の世界は自己責任の強い世界じゃ。それでも、無料と聞くと思いっきりたかってくる。いい顔してると、相手も遠慮がなくなり、大変なことになるぞ』


 なるほど。

 そういえば、日本でも大地震とか起きたとき、

 避難所とかで大変だったと聞く。

 心を病んだボランティアもいるという話だ。


 心に刻んでおきます。


『そうじゃ。極力、住民の自立心を尊重しつつ、無理なところで手助けをしてほしいのじゃ』


 わかりました。


 ところで、お菓子とかドリンクとか、

 あっちにもっていったら、

 女神様の言った通り特別な力を持っていました。


『そうじゃろ。特にお主は賢者。強い力の持ち主じゃ。影響力もそれなりじゃろ』


 ふむふむ。


『女神様、私もいろいろ食したのですが、私でも消化できないほどのパワーをいただき、一時期はパンパンに膨れ上がっておりました』


『ほう。ルシール、それでも以前よりはフクヨカになったようじゃの?』


『ええ、トレーニングして昔の姿を取り戻し中です……えと、それはそうと、女神様?』


 ああ、僕も気づいていた。

 女神様、以前よりもかなりふっくらしている。


『き、気のせいなのじゃ。妾は女神であるぞ、美しさを損ねることはないのじゃ』


 いや、女神様。

 ルシールのこと、言ってる場合ですか。

 明らかに太ってますでしょ。

 そういや大量にお菓子とか買い込んでましたけど。


『それもグッドタイミングなのじゃ。3日で食べ尽くしての。それからは大変じゃったのじゃ』


 何がグッドタイミングなんすか。

 全然グッドじゃないし。

 そもそも、お菓子、1ヶ月分はあったですよね?


『うむ、一度食べだすと止まらんでの。しかもゲームに熱中しつつとなると大変なのじゃ』


 えー、何が大変なんでしょうか。

 ルシール。

 女神様はこんな状態です。


『わかっております。女神様、スタイルを維持できないときのルールはご存知ですよね?』


『じゃ、じゃから、ス、ス、スタイルは変化しておらんというておろうが』


『女神様、お見苦しいですぞ。ささ、女神様。私とともに特訓を始めますぞ』


『な、な、何をゆーておる!と、と、と、特訓なぞ、する必要はないぞ!』


『いーから。女神様は美を維持してこその女神。さ、女神様。天界へ戻りましょう』


『いやじゃー!……』


 二人はすっと消えた。

 女神様の悲鳴を残して。

 天界ではボディポジティブは通用しないのだった。


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