第3話 モールへ1
『よろしい。決まったところでの、そこなオレンジ色のものは美味しそうじゃの』
え?デコポンですか?
『うむうむ、デコポンじゃ』
お一つ食べますか?
『昔から気になっておったのじゃ。画面でしか見られんものが多くての』
画面ですか。
『そうじゃ。このように妾が直接現地に降り立つことは本当に稀なのじゃ。というか、この世界に降り立つのは久しぶりなのじゃ。いつもは、異世界の窓という泉に写して世界を覗き込んでおるのじゃ』
ああ、なるほど。
『今回はお主を引き当てたからの。こうして現地に降り立てることができたのじゃ。昔、日本に来たことがあるがの、チョンマゲとかしておったがの』
はあ。いつの時代の話ですか。
女神様、どうみても20代なのに。
ただ、女神様にも制約とかがあるのですね。
『そうじゃの。下の世界、特に妾の世界でない場合は気軽に降り立てられんのじゃ。で、デコポンとやらはどうやって食べるのじゃ?』
こうして、皮をむいて……はい、どうぞ。
『ふむふむ……おお、甘くて瑞々しくて美味しいではないか!』
デコポンは美味しいですよね。
『あのな。この世界にはいろいろと甘味があるじゃろ?』
ええ。
『妾の世界では甘味は殆どないのじゃ』
ああ、でもこの家にはお菓子とかないしなあ。
『買い物に行くのじゃ。金貨ならたくさんあるのじゃ』
いや、異世界の金貨もらっても……
『そうか?欲がないの。なにしろ、下界に降りるのなど、久しぶりでの。しかも、有名な日本にきておるとなると、妾もワクワクしておるのじゃ』
日本って有名なんですか?
『天界ではの。ここ最近のブームじゃ。こうして転移者候補の人材探しという意味もあるが、日本の甘味とかご飯関係とか天界では美味なる国として有名なのじゃ』
ああ、それは嬉しいですね。
まあ、お菓子ぐらい奢りますよ。
じゃあ、ちょっとコンビニ行ってきますから。
『何を言っておる。妾も連れていくのじゃ』
え、そんなコスプレみたいな格好で外歩けるわけないでしょ。しかも、髪も目も青くてとびっきりの美貌で。よく見たら、スタイルもすごそうっすね。
『何をゆーておる。お主を当てたお陰で妾も日本にこれるようになったのじゃ。楽しまんと損なのじゃ』
いや、女神様は観光気分なのかもしれないけど、こっちは大変なの……うーん、僕のパーカーで顔隠して行けばいいか。そういや、そばのモールでコスプレ大会やってたよな。
『どうじゃ?』
コスプレ大会に出る体で向かいましょうか。
僕のパーカー貸しますから、フードで顔を隠して。
道中はタクシーで。
『ふむ……どうじゃ、似合っておるか?』
女神様は何着ても似合いますよ。
美しすぎるから。
というか、サンダル履きっぱじゃないですか。
『なんぞ、おかしなことがあるのか?』
日本では部屋の中では靴は脱ぐのです。
『なんでじゃ?妾は一切汚れたりせんぞ?サンダルも綺麗なままじゃぞ?』
あー、女神様だし。
でも、そうだとしても、部屋の中では靴とかサンダルとか禁止。気持ちの問題。
『こだわりが強い男じゃの。細かいことを言っておると、異性にもてんぞ?』
いいの。
僕は女性に興味ないから。
『まあ、よいか。次からは気をつけるからの。じゃあ、レッツゴーなのじゃ』
◇
『ふうむ。あれは、たくしー、というのか。馬のない馬車なぞ、初めて乗ったのじゃ。動力は魔道具かの?』
あー、ガソリンエンジンなんですが、この世界の魔道具みたいなものです。
『感心したのは、乗り心地がいいことじゃの。道路はデコボコしておらんし、座席はふかふかじゃし。妾の世界でも実現したいの。あっちで馬車に乗ると、お尻が4つに割れるのじゃ』
ああ、少しわかるかも。
僕、ロードバイクに乗ってるんだけど、
ちょっとした段差でもガツンってくるからね。
気をつけてるし、だいぶ慣れてきたんだけど、
1日100km走ると、結構お尻が大変。
『扉は自動で開くし、窓は透明で大きいし、魔道具やら魔法やらが発達しておるのかの』
あー、まあそんなとこです。
『あっちの馬車にもこの乗り心地は取り入れれんもんかの?』
うーん。課題にしておきます。
◇
『それにしても、もーるとやらはまるで宮殿のような大きさの建物じゃの』
ええ、日本でも最大級のモールですからね。
『この世界の人々が着ている服はキレイでいいの』
ああ、あれはコスプレしてる人たちです。
『こすぷれ?』
特別なお祭りのために着飾っているんですよ。
『ほう、そうか。では、妾もおめかししてくれば良かったかの』
いやいやいや、女神様が一番目立ってますから!
今はパーカーとフードで隠してますけど!
ご自分の美しさをもっと自覚してください!
『妾が美しいのは当たり前じゃからの。自覚、と言われても困るのじゃ』
あああ、わかりましたから、フード取らないで。
目立たないように歩いてくださいね。
『そんな、つまらんのじゃ』
いいから。
◇
『ふむ、ここはレストランみたいじゃの』
ええ。
甘味食べ放題のレストランなんですよ。
『ほお!食べ放題とな!気が利いておるではないか!』
あの一角に置いてある甘味、どれでもお好きなものをどうぞ。
『おお、あれがすべて食べ放題とな。ふむ。ではまかせたぞ』
え?
『お主がサーブするのは当たり前であろう』
ああ、おっしゃるとおりです。
少々、お待ちください。
『いや、待つのじゃ。妾もついていく。妾の指示したものを持ってくるのじゃ』
はいはい。
◇
『うーむ、まあまあ満足したぞ』
どんだけ食べるんですか。
テーブルの上に置けるだけおいて。
結局、全種類制覇しましたね?
しかも、あっという間に完食。
『どれも美味であった。持って帰れんのか?』
ああ、それは無理です。
でも、食品売り場がありますから、
そこでお好きなものを買いましょう。
『うむうむ、よきにはからえ』
女神様、食品売り場へ行く前に、
ちょっといろいろ回りたいんですけど。
『かまわんのじゃ。というか、妾ももーるとやらを探索したいのじゃ』
異世界に行くとなると、最初は草原とかに
降り立つんでしょ?
『まあ、そうなるの。人や建物とかごちゃごちゃしておると、転移に差し障りがあるからの』
では、野宿、ということも想定しなくちゃいけないわけですよね。
『うむ。というか、最初のうちは野宿ばかりかもしれん』
そのためにいろいろ準備したいんですよ。
『なるほど。もっともな話じゃの』
ですから、まずはキャンプ用品店ですね。
『レッツゴーなのじゃ』
◇
キャンプ用品店。
「あのー、キャンプ初めてなんですが」
「畏まりました。お一人で出かけられますか?それともご家族で?」
「僕だけです」
「では、こちらなどいかがでしょう。当店でおすすめのキャンプスターターセットです」
初めてキャンプに行く人のためのキャンプセット。
店のセレクトでおすすめされていた。
どうやら、有名メーカーのものらしい。
それがお値打ちで手に入るという。
そもそも、何を買っていいのかわからない。
あまり考えることもなく、購入した。
「毎度ありがとうございました」
そのセットには専用のカバンがついてくる。
でも、結構重い。
全部で10kgぐらいある。
『マジックバッグというものがあるのじゃ。収納容量ほぼ無制限じゃぞ』
マジックバッグ?
ゲームではおなじみのバッグだ。
店を出て人のいない場所で荷物を収納する。
おおお、本当だ。
荷物がスルリと空間の裂け目に入っていった。
取り出すのも頭で思い浮かべると自然と選ばれる。
便利なんてもんじゃない。
『容量無制限で、バッグの中では時間は停止しておる』
腐ったりしないってこと?
『そうじゃの』
これって、魔法じゃないの?
『魔道具じゃの。地球上での魔道具の使用は一部許されておる』
魔法は使えないっていう建前らしいからね。
地球の神様によって。
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