第2話 女神様がやってきた2

『どうじゃ?賢者になって異世界に行ってみたいか?』


 いや、まだ。

 突然過ぎて、実感が全然ありません。

 うーん、使命とかあるんでしょ?


『まずはの、食生活を改善させてやりたいのじゃ。向こうはこちらでいう中世での。全体的に生活が貧しい。じゃからの、最低でも食事が満足にとれるように。での、これは妾からの強い願いじゃが、できるなら嗜好品も増やしてほしいの』


 女神様が直接できないのですか?


『妾たちはの、下々のことについてはいささか知識が不足しておる上に、加減がわからんのじゃ。大抵は大災害になってしまうのじゃ』


 なんだか、テーマが大きすぎるような。


『気軽に考えれば良いのじゃ。世界全部を変えろとは言わぬ。村単位とかその程度でも構わんのじゃ』


 うーん?


『そもそもじゃ。異世界転生候補者の条件は厳しいのじゃ』


 条件ですか?


『お主のように生きた人間を転生させる場合はの、30年間女性関係なし。いなくなっても悲しむ人がいない。最低でもこの2つはクリアしていねばならんのじゃ』


 あああ。

 何かいきなり僕の心が抉られた。


 確かに、僕は今無職。

 仕事が忙しすぎて体調を崩したために

 職を辞したのだ。

 両親はおらず、天涯孤独。

 親の遺産と自身の貯金で生活中。

 もちろん、結婚する予定とかそもそも彼女なし。

 というか、年齢=彼女なし期間。

 親しい友人も昔はいたが、今はなし。


 だから、差し障りがないとはいえるけど。


『本来なら、農家とかがいいのかもしれんがの、農家は結構人間関係が濃くての』


 ああ、作物を作るだけじゃ駄目だもんね。

 販売もあるし、周囲とのトラブルもあるし。

 そもそも、農村自体が人間関係濃いって言われる。

 一人だけでやっていける世界じゃない。


『じゃからの、候補が見つかっただけでもめっけもんなのじゃ。プレッシャーをかけるつもりはないのじゃ』


 ところで、魔法は異世界でしか使えない?


『地球でも使えんことはないが、この世界の神が怒るからの。駄目じゃ』


 怒るのか。


『地球は魔法なしが建前じゃからの』


 ああ、そうなんだ。

 でも、魔法は使ってみたいよね。


 あ、そうだ。異世界へ行くのは普通死んだときとかになるんじゃないの?


『差し障りがないからの。じゃが、お主の場合は生きながらにして、転生条件を満たしたのじゃ。条件は先述した通りじゃ』


 でもさ、こっちに帰って来れないんでしょう?


『そんなことないぞ。多少の制約はあるがの、往復が可能じゃ。何しろ、妾の眷属がおるし、次元渡りそのものがお主のスキルになるからの』


 制約って何?


『定期的にしか往復できないということじゃな。多分、1週間に一度次元渡りができるとかそんなふうじゃぞ』


 危険じゃないの?


『危険なわけあるものか。今回はの、妾の眷属をつけるから大丈夫じゃ。それに、お主の身体・精神はチート級にパワーアップされる。次元渡りの効果というか、能力向上はお主の賢者としてのスキルの一つじゃ』


 おお。


『それと、お主の持ち込んだグッズとかもパワーアップするケースがあるの』


 グッズ?


『うむ。飲料水を持ち込んだらそれが回復薬になるとか、そういうのじゃな。妾も詳しくはわからんのじゃ』


 じゃあさ、ホームセンターとかで物を買って

 向こうへ送ればいいんじゃない?


『いや、こちらのものをあっちにもっていっても、簡単にはあっちの世界を改良できん。例えば、米をもっていくとする。じゃがの、お主は米作りを知らんじゃろ?』


 ああ、まるでわからない。


『では、あちらの農民は?土壌、肥料、気候、いろいろな問題がある。仮に米が成長して収穫してもじゃ、それを他の地域にもっていって栽培できるのか』


 なんだよ、難しいじゃないですか。


『うむ。じゃがの、そのための賢者じゃ。そうした問題の多くをお主のスキルが助けてくれるはずじゃ』


 賢者のスキルですか。


『うむ、ただの、心構えとしては、主体はあくまで向こうの住民である、ということを忘れて欲しくないということなのじゃ。最終的にはお主がいなくても世界が幸せになる、それが目標じゃの』


 なるほど、よくわかりました。


『あと、邪魔するものはぶっ飛ばしてもいいぞ。貴族とか偉そうにしてる奴らに従う必要はないからの』


 そんな無茶な。


『いや、妾の世界が停滞しておるのはの、支配層がアホな奴らだということもある。ああいう奴らを無視してお主の世界を作るつもりでやってほしい。多少の混乱は織り込み済みじゃ』


 え、いきなりハードな。


『いやいや、適当でいいんじゃよ。なんなら、その辺りをプラプラするだけでもいいのじゃ。そのうえでの、狭い地域でもあちらの食生活を救ってくれるだけで大助かりなのじゃ』


 ああ、それなら。


『では、異世界行き、承認するか?』


 うん。

 ぜひ。

 異世界行ってみたい。


 ということで、僕は異世界行きが決定したのだ。

 ちょっとワクワクするぞ。 


 ここまで話して気付いた。

 僕、女性と(女神様だけど)普通に話している。

 母親以外だと、そんな経験したことがない。

 

 顔だって、いつのまにか直視できてる。

 眩しいくらいに綺麗な女性なのに。


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