第4話
見てくれはただのゴブリン。それが大きくなっているのだから……ゴブリンロードか? 私の倍ほどの大きさ。腕には棍棒。あまり近寄りたくないね。
「勝くん、こういう場合はどう対応するのがセオリーかな?」
「私が捕まえて来た相手は人間のみ。彼らは銃やら武装して、モンスターと同じくらい危険な存在でしたが、全て魔法で打ち破ってきました」
「つまり、今回も同じように魔法で倒せると、そういう解釈をしたいのだがいいかい?」
「問題ありません」
勝くんは数歩前に出て、ゴブリンロードへと手を向ける。
うむ。これなら思ったよりも楽に対処できそうだ。それだけじゃない。彼がモンスターの相手ができるというならば、ここまで通れなかった道も探索し直せるかも。
「『サンダー』」
勝くんが放ったのは電撃。それはゴブリンロードに届きもせずに消し飛んだ。
「……え?」
「さぁて、これは一体どういうことだ?」
ゴブリンロードが一歩近づいて来る度に、私は呆然とする勝くんの手を引いて後ずさる。
マズいね。今のは魔法が弱かったわけじゃない。何かしらの謎現象によって防御されたんだ。
できればいろいろ試して考察したいところだが……
「勝くん、ここは一度引こう。このゴブリンロード……というか、この世界の生物に魔法は効かないのかもしれない」
コイツを倒してもあまり利益はない。ならば、身の安全を優先するのが賢い選択だ。
「私について来たまえ。外までの安全なルートを知っている」
「な、なんで私の魔法が効かない……?」
「意外と引きずるね。はいはい、考えるのは後だ。逃げることを最優先に。ほら行くよ」
勝くんは手を引けばそのまま歩いてくれる。というわけで、このまま勝手に連れて行ってしまおう。さながら誘拐のようだ。
幸い、ゴブリンロードは逃げる私達を追いかけてくるようなことはしなかった。おそらくこの部屋の守護神のような立場なのだろう。逃げるというならば、彼にも私達を始末する理由はないというわけだ。
これからどうしようかね。この状態の勝くんに戦闘は難しい。まずは外に出てゆっくりできる場所を探そうか。
「……って、おい待て!」
っと、急に腕を引っ張ってきた。部屋を出る直前だったというのに、思わず立ち止まってしまったよ。
どうやら勝くんはゴブリンロードの方を見て、怒り心頭といった様子。ゴブリンロードは一体何をやらかしたのかとそちらを見てみると……
「クリスタルへと向かっている?」
どういうことだ? コイツも私達同様、クリスタルを狙っていたのか?
考えられる可能性は二つ。ゴブリンロードはクリスタルを破壊しようとしているか、守ろうとしているかだ。彼がこの部屋の守護神だというならば、後者の可能性の方が高い。
ただ前者ならば、少女を助けるという目標は達成できないだろう。ゴブリンロードを止める力を、私達は持ち合わせていないのだから。
仕方ない。ここは守ろうとしているという可能性に賭けて逃げよう。というかそれしか選択肢がない。
「勝くん、抑えたまえ。一度このまま離脱する。落ち着いたら確認に戻ってこよう」
「……すみません、逃げるならあなただけでお願いします」
「なんだと?」
「例え魔法が通用しなくても、私にはアレを止めて彼女を助ける義務があります」
義務? ここにいきなり連れて来られた私達に?
あるとするならば、人は助けなければいけないという精神的、信念的なものだ。これはウチの葵くんもよく言っているから分かる。だが、勝くんがそんなに正義感が強そうにはどうも見えないというか……
「私の中の誰かが叫んでるんですよ。今度こそ、守り切れって」
今度こそ?
「私はもう、彼女を失うわけにはいかない」
勝くんはゴブリンロードへと駆け出し、電撃魔法を連発した。
まったく……面倒なことになったね!
もうさっぱりわけが分からないよ! なに? 過去にも彼女を失ったことがあるってのかい⁉ ただの高校生にそんな過去あってたまるかってんだ! 彼は普通じゃないけど!
いざ戦いに行ったはいいものの、結局傷をつけることもできず、逆に攻められている。幾度にも渡る攻撃を勝くんは避け切り、隙を見て攻撃。うん、さすがプロだ。実力だけを見れば勝くんの方が上。魔法を弾くという謎技術さえなければ既に倒せていただろう。
「勝くん! そろそろ魔法以外の攻撃手段も考えたまえ!」
私も手ごろの石を見つけて、ゴブリンロードへと投げてみた。
うん、ちゃんと皮膚まで届いているね。魔法とは違い、物理攻撃は効きやすいらしい。
「殴るなり蹴るなり、そういう技術はないか? 多分そういうので戦えば傷を付けられる!」
「無理です!」
……なんだって?
「私は魔法専門です! 技術はともかく、体格が向いていません!」
なるほど、あの体格でゴブリンロードと渡り合うのは無理か。となると私がやった方が良いのか? 私の身体能力なら、ゴブリンロード相手でも戦いにはなりそうだ。
問題は、そんな器用なこと私にはできないということ。
「……うん、よーく分かった。勝くん」
「なんでしょう」
「逃げるよ!」
拒否権はない。彼らの間に割って入ると、すぐさま勝くんを抱えて走り出した。
「ちょっ、待ってください! 私はアイツを止めなければ……!」
「倒す手立てもないのに意味は無いだろう! 現段階で、私達にできることは何もない!」
勝くんは暴れるが、無視して走り続ける。
「クソっ! わけ分かんない。この世界なんなんだよ。なんで私はこんなにも彼女に執着している……⁉︎」
これは、自分でも戸惑っているのかな。助けたがっているのは勝くんではなく、勝くんの無意識……
「……アレ? なんか沙織さん、身体透けてません?」
「透けている? そういえばキミも半透明だね。キミの身体をすり抜けて地面が見えるよ」
確か転移する前、葵くんが同じようなことを言っていた。これが転移をする際の前兆か?
「つまり、このまま上手くいけば現実に戻れるということだね。やったじゃないか。これで自由の身だ」
「……いえ、おそらく現実に戻ってすぐ、政府からの干渉があります。そこで詳しい話を聞けるのかと」
あーそうだった、忘れてた。とてもめんどくさい。無視して葵くんとデートしてていい?
そうこうしている内に遺跡の外が見えてきた。
階段を上り、荒野へと足を踏み入れた瞬間、視界は一変する。
「……戻ってきたのか?」
足を止め、周囲を見回す。
そこは、四方が白い壁で構成された謎の部屋だった。
「親の顔よりも見た部屋。どこのTRPGかな?」
目の前には鉄の扉。耳を刺激するような金属音を鳴らしながら、それは開かれる。
「小野木勝、それに天童沙織。一つ、あなた達に依頼があります」
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