第3話
遺跡の調査をする。そう決めたは良いものの……
「情報はさっぱり見つからないね」
まったくどうしたものか。
情報が見つからない理由は分かっている。モンスターの居ない道しか通ってないのだから、調査が不完全になるのも当然だ。
唯一分かったことと言えば、モンスターが軒並みゴブリン系だということか。
そこから無理矢理推理してみよう。例えばそう、ゴブリンだって飲食しなければすぐ死ぬだろう。それが群れをなしてこの遺跡に滞在している? そんなの、ゴブリンだけの力でできることなのか?
バックにゴブリンを支援する存在が居るならば。私が対峙すべきなのは、その大いなる存在なのではないのか?
「まあ、こんなのただの妄想だがね」
情報が少なすぎる。これを確定要素とするには、どのみち情報収集が必須だ。
最悪、これまで進まなかった道を思い切って調べてみるということも考えなければならないな。
……いや、まだそれを考えるには早いみたいだ。急に視界が開けた。
一度陰に隠れて様子を見る。
小部屋にしてはかなりデカい。まさかここが遺跡の最奥か?
中にあるのはどデカい水晶。結晶か? もっと分かりやすく例えるならそうクリスタル。間違いない、この遺跡で最も重要なアイテムはあのクリスタルだ。
周囲にモンスターが居る気配無し。本とかは無さそうだが、壁画はあるね。
アレは少女の絵かな? かなり古代のものみたいだけど、衣装はワンピースに似ている。周りを囲っているのは、少女を崇め、杖を掲げる戦士たちといったところか。
「さて、壁画についてゆっくりと考察していたいところだが……そうもいくまいか。そういうわけでキミ、少々話を聞かせてもらうよ」
クリスタルに触れて、ジッと立っている少年。彼はその手を離そうともせず、ゆっくりとこちらへと振り返った。
さぁて、鬼が出るか蛇が出るか。現状分かりやすい情報源はキミだけなんだ。悪いけど踏み込ませてもらうよ。
中学生男子ってところかな。身長はそれほど高くなく、細身で童顔、長髪。うん、乙女ゲームに出てきそうな美少年だ。ただ気になるのはその服装。まさか私と同じ高校の制服とはね。この世界の住民ではないことは確か。
「あなた、誰ですか?」
「私かい? 私は天才小説家、天童沙織だ。先程、何の説明もなくこの世界に連れて来られてね。そんなわけで情報収集真っ只中さね」
「小説家ですか。なるほど、それはとんだ災難でしたね」
「その口ぶり、何か知っていると見ていいのかな?」
「いいえ、私も状況は一緒ですよ。さっきここに転移して、ずっとこのクリスタルを眺め考え込んでいました」
なるほど……落ち着きすぎだな。普通なら何もせずにはいられないはずだ。私のようにね。
「ただ、私には経験があります。探偵としての経験が」
やっぱり。さすがに一般人ではない。
「探偵をしています、小野木勝です。普段は政府からの依頼を受けて危険な任務にあたっていますが、今回もおそらくは……」
また大きく出たねぇ。よりにもよって政府が相手か。
だとすると、どっかしらのタイミングで干渉があるはず。私達を捨てる為でなければ、情報の開示があるだろう。
「では、情報量は同じということで話を進めよう。勝くん、ここから取るべき行動は何か、探偵としてどう考える?」
「何もしない。探偵は依頼があってこそ仕事ができるんです。依頼内容がはっきりしなければ、できる仕事もできないというものですよ」
「同感だ。ゴールも無いのに走者はスタートしない。至極明快な結論だね」
それじゃあ、張り切ってボーっとしていよう! ……とはならないのが人間。何もしなくていいのは、それはそれで困るものだ。
どれ、ちょいと自由に探索させてもらおうじゃないか。
「ひとまずクリスタルを調べたいのだが……どうだ?」
「どうだというと?」
「キミの見解、調べたことを教えてくれ。ずっとこれを眺めていたんだろう? 私より気づいたことは多そうだ」
「気づいたことですか。ではまず、このクリスタルの中には少女が入っています」
なるほど少女が……なんだって?
よく見ていなかったが、一度注視して中を覗く。
そこには確かに、勝くんと同じくらいの背丈の女の子が居た。
彼女は目を瞑り、呼吸もせず、ただそこの保管されている。服もワンピースのようなものを一枚着ているだけだ。まるで剥製のよう。
「この子は、どういう状態なんだ?」
「さあ。私にはどうも」
異世界というものはなんとも不思議なものだ。私達の常識を簡単に破ってくる。こんなもの本当に存在してていいの?
まあ、生きてても出してあげることはできない。それよりも調査だ調査。この少女から分かることはないか?
「……ふむ、なんというか、あの壁画の少女によく似ているね」
「壁画?」
「なんだ、部屋の探索すら行っていなかったか。見たまえ。同じ服、同じ顔立ちだろう」
勝くんは壁画を見ると、なぜか困惑したような声を漏らした。
「……姫?」
「ほう、姫か。現実世界の歴史で例えるなら卑弥呼かな? この遺跡、元は巨大な国だったのかもしれないね」
そして、滅ぶと同時にこのクリスタルに封じ込められた……シナリオにするならこんなものかな。
「……すみません、一つ目標ができてしまったんですけど、手伝ってもらえませんか?」
「目標? まあ、今はできることがないからね。いいよ」
勝くんは大きく深呼吸して、クリスタルを……少女を真っ直ぐ見つめた。
「彼女を助けたい」
……それは、このクリスタルから出す、ということでいいのだろうか。
出したところで意味はない。葬式ができるようになるが、現状私達にそんな余裕はないだろう。
……いいや、違うな。人は損得勘定だけで行動しない。
「よし、いいだろう。そうと決まれば、まずはクリスタルがどんな物質なのか。派手に壊しても大丈夫なのか、それが知りたい」
「……いいんですか? そんな簡単に協力するなんて。これは私の無意味な願望。あなたになんのメリットもありませんよ?」
「そもそもやることがないんだ。メリットもクソもあるまいさ。それよりも、ちょっと鋭利な石を探してきてくれ」
「あっ、それなら……」
勝くんは手のひらを天井に向け、そこにナイフ代わりになりそうな石を出現させた。
……いんやなにそれ。
「私は魔法が使える探偵なので。政府もそんな能力を買って、危険な任務を押し付けてくるんです」
「いや分からん分からん。なんだよ魔法って」
瞬間、天井から大きな身体をした緑のモンスターが降ってきた。それはさながら、魔法を使った彼への警報システムのように。
モンスターは痺れるような激しい着地をして、咆哮をあげる。
つまりは戦闘開始だ。
「……情報を得るにはモンスター退治。まったくゲームをしている気分だよ!」
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