第2話
未知の空間へと転移した。本来なら今にも泣き叫んで葵くんに抱き着き押し倒したいところだが……誰も居ないのなら仕方ない。慌てるなんて私のキャラでもないし。
ひとまず調査だ。情報が無いことには何もできない。目標はおうちに帰ること。だったらどうやって、どうしてここに転移したのかを知りたいところだね。
「それにしても……砂嵐が酷いな。目が痛い。これじゃあちょっとした観察すらままならないよ」
慎重に行動も、この視界じゃ無意味。となれば、足元にだけ気を付けて、適当に歩き回ろう。
幸い、結果はすぐに出た。足元に段差があり、崖かと思って見てみると階段だったのだ。
これはそうだね、遺跡だ。古代遺跡というやつだ。ここなら情報もかなり得られるのではないか?
そう思った矢先、周囲から獣の唸り声が聞こえてきた。
見ると、そこにはオオカミの群れ。
「よくあるチート能力とやらがあれば楽なんだがねぇ……おっと、言ったそばから襲ってきた!」
キラリと眩しい牙に、合図と言わんばかりに張り上げた咆哮。捕まったら私も食べられるのかな? なんだか興奮してきた。興奮しすぎて、背を向け全力で逃げてしまう!
遺跡を調べたいからな、遺跡の中にオオカミ共を入れるわけにはいかない。というわけで慣れない地で追いかけっこだ。全然楽しくない。
私はスポーツ嫌いではあるものの、身体能力だけは化け物級。レースでは負けなし。
「だというのに、ぜんぜん距離が広がらないね!」
さすがにこれまでの誰よりも速い。こんな緊張感ある戦いは初めてだ。まあ、オオカミ相手に一定距離を保てているだけでも褒めてほしいところだけど!
「おっと転びそう!」
この砂嵐はマズいね。足元がさっぱり見えない。私の超人的な運が無ければ転んで捕まってムシャムシャいってた。
「異世界転移している時点で運はないって? それはそう!」
しかし、そろそろ捕まりそうだね。どうにかして打開策を……といっても、周囲にあるのは岩のみ。視界は悪いが、ここに住み暮らしている彼らには何の影響もないだろう。むしろ私が岩にぶつかりそうだ。
……いや、そうだな。それしかない。
人間でも動かせそうな岩を探し、目の前で立ち止まった。振り返ると、オオカミ共はすぐ目の前。
「……ここだ!」
ぶつかる寸前に、飛んだ。
私という獲物を失ったオオカミ共は、止まることもできず、どんどん岩へとぶつかっていく。
「ここからが本番!」
思い切り岩を転がし、オオカミ共をまとめて潰す!
ドシンと、衝撃が手に伝わってくる。同時にオオカミ共の甲高い悲鳴も。
……音沙汰無し。油断はできんが、ひとまずは上手くいったと言えるだろう。
さてどうする。感傷に浸っている暇はない。さっさと移動せんと次が来るぞ。
まあ、遺跡に行くしかないんだがね。この世界で唯一の手掛かり。危険は大きいだろうが、ここに居てもそれは同じだし……
「よし、行くか!」
こういう時、葵くんならどうするかな? そう、笑顔だ。
「ところで、私はどこまで逃げてきたんだろうねぇ、これは……」
宝探しも、笑顔で楽しむとしようかぁ……
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