第2話 自分たちが生み出したモノ
レイが連れてこられた謁見の間は、それまで見たこともないほどの豪華さに満ちていた。金色の刺繍が施された赤いカーテンが大きな窓から光を受けて輝き、部屋全体が眩しいほどに照らされている。床には鮮やかな赤い絨毯が敷かれており、中央へと真っ直ぐに伸びている。その豪華さは、まさに王国の力と威厳を象徴するかのようだった。
周囲にはずらりと兵士たちが跪いている。彼らは一糸乱れぬ構えで、整然とした列を保ち、まるで機械のように頭を低くしていた。その光景にレイは一瞬息を呑んだ。彼らの動きはまるで一つの生き物のようで、レイの前に広がるその統率された姿が、この場所の厳粛さをさらに強調していた。
そんな彼らが迎え入れる一団が、扉の前に現れる。
一人の魔法使いが前に出て、大きな声を上げた。
「宮廷魔法士筆頭、ケイル・ヴァータ。お目通りを願います!」
その声が謁見の間に響き渡ると、扉の向こうからかすかに返事が聞こえてきた。
「許す。入れ」
静かで威厳ある声が返ってきた瞬間、兵士たちは一斉に動き出し、扉を開けた。豪華な装飾が施された大きな扉がゆっくりと開かれると、謁見の間の内部が次第に姿を現した。
ケイルとレイはそのまま前へと進み始めた。レイの足取りは、わずかにためらいを感じさせるものだったが、彼の隣で歩くケイルは自信に満ち溢れた表情で、堂々とした姿勢を保っていた。周囲の兵士たちも、レイとケイルが歩き出すのに合わせ、揃った動きで顔を上げ、同時に歩き始めた。すべてが整然としており、その調和の取れた動きに、レイはさらに圧倒される。
やがて、謁見の間の中央へと到達すると、王様、王妃、王女、そして将軍や各部隊の隊長たちがそれぞれの場所で待ち構えていた。王様は堂々とした佇まいで玉座に座っており、その姿はまさにこの国の頂点に立つ者を象徴していた。王妃はその隣で、優雅で冷静な表情を浮かべていたが、王女の顔にはどこか複雑な感情が滲んでいるように見えた。レイはその微妙な表情に気づき、彼女が何を感じているのか、一瞬だけ考えた。
王族たちは堂々としており、その背後に控える兵士たちは恭しく頭を垂れていた。その光景からは、この場にいる者たちの間に明確な上下関係が存在していることがはっきりと伝わってきた。すべてが整然とした秩序の中で動いており、レイはその一部として存在している自分に戸惑いを覚えた。
しばらくして、兵士たちは一歩下がり、壁際に控えながら再び跪いた。その動きも一糸乱れず、完全に統制されたものだった。レイはどうすればよいのか分からず、ただ兵士たちの真似をして跪いた。
その瞬間、ケイルが一歩前に出て、静かに話し始めた。
「本日は陛下の貴重なお時間を戴き、誠に感謝申し上げます」
王様は重々しく頷き、その視線をまっすぐレイに向けた。その目には冷静でありながらも、どこか鋭い観察の光が宿っていた。
「うむ。それで、完成したというのは、誠なのだな?」
王様はレイをじっと見つめた。その鋭い視線に、レイは無意識に体を固くした。彼のことを見ているのは、ただの王ではなく、国の未来を左右する存在だ。レイはその視線に押しつぶされそうな感覚を覚えた。
「はい!こちらの者がそうでございます」
ケイルは誇らしげに答えた。
「秘めている魔力は人間の比ではありません。数百年生きたエルフをも上回るでしょう!」
その言葉に、王様の顔に大きな笑顔が広がった。
「そうか!よくやった!」
王様は玉座から立ち上がり、手を広げた。
「これで、わがヴェルダン王国の勝利は決まりだな!はっはっはっはっはっ!」
その力強い笑い声が謁見の間に響き渡る。周囲の兵士たちや将軍たちもその笑いに共鳴するかのように微笑み、場の雰囲気は一気に明るくなった。だが、その明るい笑顔の背後で、レイはふと王女の表情が曇っていることに気づいた。彼女の目には、どこか悲しみとも取れる感情が浮かんでいた。
彼女の目は、まるで何かを背負っているかのように深く沈んでいる。その理由を知る者は、この場にはいないようだった。
謁見を終えたレイは、次に訓練場へと案内された。広々とした空間には、すでに訓練に励む兵士たちの姿があり、その中でレイの目に留まったのは、謁見の間でも見かけた人物──国唯一の将軍、ザハル・レオンハートだった。
「もう来ていたか」
ザハルは訓練用の甲冑を脱ぎ捨てながら、レイの方に近づいてきた。彼は屈託のない笑みを浮かべ、その雰囲気には裏表のない正直さが滲み出ていた。
「ザハル・レオンハートだ。これからよろしくな」
そう言って、彼は大きな手をレイに差し出した。その手は粗く、長年の戦いの経験を物語っているようだった。
レイは一瞬、その手を見つめた後、自分もそっと手を伸ばした。
「レイ。よろしく」
その声は静かで、まだ幼さが残るものだったが、ザハルは満足げに微笑んだ。
その瞬間、後ろにいたケイルが険しい顔をして一歩前に出た。
「こら、ザハル殿は国で唯一の将軍なのですよ?もっと敬意を持って接しなければ──」
しかし、その言葉をザハルが軽く手で遮った。
「いいではないか、ケイル」
彼はケイルに向かって笑いながら言った。
「まだ子供だ。それ程度も許せない程、俺は屑になったつもりはないぜ?」
その言葉と同時に、ザハルはレイの頭に手を伸ばし、大きな手でぐいぐいと撫で始めた。その仕草は親しみを感じさせ、レイも驚いたが、どこか心地よい気持ちになった。
「さて、ちょいとその実力、見せてもらおうか」
ザハルは顔を上げて、訓練場の端にある的を指さした。それは案山子に鎧を着せたようなものだった。
「レイ、あの的が見えるか?」
レイは頷いた。
「うん」
「じゃあ、あれを攻撃してみてくれ。どんな方法でもいいぞ。俺たちはここで見てるからな」
そう言うと、ザハルは数歩下がり、観察するようにレイを見つめた。その目には、先ほどまでの優しさとは異なる鋭さが宿っていた。まるでレイの一挙手一投足を見逃すまいというかのような、真剣な眼差しだった。
「うーん…」
レイは戸惑った。壊せと言われても、どうやればいいのか全く分からなかった。ただ、自分の体には確かに何か強大な力が流れている感覚がある。しかし、それをどう引き出せばいいのかは、まだ自分でも理解できていない。
少し考えた後、レイはただ拳を突き出すことにした。とにかくやってみるしかない。彼は拳を前に向け、全力で突き出した。
「!」
その瞬間、魔力が彼の拳に集まり、一気に放出された。拳撃は轟音と共に、訓練場に設置されていた案山子ごと鎧を吹き飛ばし、さらにその先にある壁に大穴を開けた。壁の向こうには青空が広がり、遠くの景色が見えるほどだった。
レイは驚いて振り返った。
「これでいいの?」
レイの声は震えていた。彼自身も、この力がどこから来たのか、どうやって制御すればいいのか、全く分からなかった。ただ、自分の中で暴れ狂う何かが、彼の一部であることだけは確かだった。
その言葉に応える者はしばらくいなかった。
振り返ったレイが目にしたのは、全力で防御をしているケイルやザハル、そしてその場にいた隊長たちだった。彼らはレイの力に完全に圧倒され、驚愕の表情を浮かべていた。
「これ程とはな…は、はは…」
ザハルはレイをまじまじと見つめた。その目には恐れと同時に、彼への期待が垣間見えた。
ザハルは乾いた笑いを浮かべるのが精いっぱいだった。彼の目は、予想以上の力を目の当たりにしたショックを隠し切れなかった。
そして、レイが拳を放った反対側の壁にも、いくつもの大きなヒビが入っているのが見えた。レイの攻撃は、ただの的だけでなく、周囲にまで影響を及ぼしていたのだ。
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