第6話:結末

 結局僕は、避妊をした上で一度だけ彼女と結ばれて、その日から彼女と連絡を取るのを辞めた。

 僕自身、どうして彼女を遠ざけようと思ったのか、明確な理由は持てていない。

 ただひとつだけわかっていることは、それでも僕はまだ香苗のことが大好きだということ。

 香苗が浮気していても、それを受け入れられる自信があった。あと一年半、今まで通り彼女と付き合い続けられる自信があった。

 そしてそれが、怖くなった。

 こんな歪な関係を肯定してはいけない気がした。

 勇気を出すならこの瞬間しかない。そう思って、あえて彼女から遠ざかった。

 彼女も僕の気持ちを察したのか、最初に数件連絡が来て以降、メッセージを送ってくることもなくなった。


 そして数か月後、風の噂で香苗が妊娠したことを知った。

 避妊をせずに何度もヤッていたみたいだし、それ自体に疑問はわかなかった。

 これもまた風の噂だけれど、香苗は産むと言って、男と半ば駆け落ちのように家を出ていったらしい。

 実質家とは絶縁のような関係になり、すなわち許嫁の件も解消されたんだろうなあと、ぼうっとした頭で思う。


 もし僕に、彼女を妊娠させる覚悟があったら、二年のリミットなんて考えず、一生香苗と一緒にいれたのかもしれない。

 なんてことを一瞬思って、僕にそんな勇気はなかったな、と振り返る。


 それから数年が経って、僕は今、就職をするか大学院に進むかの岐路に立たされていた。

 結局一度も香苗以外の人と恋人関係になることはなかったし、未だに僕は彼女のことを思い出すだけで胸がいっぱいになる。

 甘酸っぱい高校生の頃の思い出と、傷つけられた大学一年生の夏の記憶が、彼女を一生忘れられない存在へと昇華させている。

 就職して、新しい恋を見つければ、彼女を忘れられるんだろうか。

 院に進んで、もっと勉学に没頭できれば、彼女を忘れられるんだろうか。


 そんな風に恋の悩みを就活や院進の悩みで塗りつぶして生きているある日、彼女から数年ぶりに新着メッセージが届いた。

 


 僕はそのメッセージを見て、少しだけ驚いて、笑って、返信をした。


 就職をしようと決意した。

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