第4話:発覚

「本当にごめん! 今日、新歓の飲み会があるから家に帰るの遅くなっちゃう。電話はまた明日しよ」

 大学に入ってからの僕たちは、さすがに毎晩電話をするという風にはいかなかった。僕は極力遅くなりそうな飲み会には参加しないようにしていたけれど、香苗にとってはたった二年しかないかもしれない念願の大学生活だ。僕はそのすべてを快く了承したし、その上で毎週末は二人でデートに出かけていた。

 まだ、高三の頃のクリスマスの約束は果たしていない。

「でね、バドミントンかバレーか、どっちのサークルに入るかまだ決められてないんだー」

「兼サーとかはしないの?」

「活動日が被っちゃっててさ」

「あー」

 電話の向こうの彼女はいつもよりもテンションが高かった。もしかするとお酒を飲んだのかもしれない。僕も高校生の頃にお酒を飲んだことくらいはあるので、特に何も言わないけれど。

「どっちがやりたいの?」

「別にどっちかが特別やりたいってわけじゃないんだけど、先輩たちがいい人でさー」

「悩ましいね。同期も重要じゃない?」

「だよねー。同期だとバドなんだよねえ。でもバレーの方はめっちゃかっこいい先輩もいてさ」

「……」

「あ、妬いた? 大丈夫だよ。女の子の言う『かっこいい先輩』は観賞用だから」

 どのみちあと一年と少しで別れることになるのに嫉妬するのも変な話ではある。

 結局香苗は平日に二回と土曜日が活動日のバレーサークルへの入会を決めたようで、毎晩するはずだった電話が週三回になった。

 週に一回は必ずデートに行っていたので、会えないことの寂しさにはだんだんと慣れて言ったけれど、その代わりに共通の話題がなくなっていくことへの寂しさが膨らんでいった。

 自分の大学がどう、サークルがどう。お互いに今週あった出来事を近況報告し合って、時々高校の頃の楽しかった思い出を振り返る、そんな過去の話しかしないデート。

 僕は結局サークルにも入らず学科の友人とも呼べない関係が少しあるくらいなので、香苗と話せるのはすごく楽しいし、嬉しい。

 でも、香苗は僕といてまだ楽しいんだろうか。


 そんな不安を抱えながら過ごす、ある夏の日曜日の朝。

 毎週日曜日はデートの日であり、今週も例に漏れず遊びに出かけるはずだった。

 しかし、七時に起きてスマホを見ると香苗から新着メッセージが一件届いていた。

 送信時刻は午前三時。

「ごめん、ちょっと体調崩しちゃって、明日のデートキャンセルでお願いします」

 すぐに「大丈夫?」と送ろうとして思いとどまる。

 夜中の三時にメッセージを送ったということは、体調不良であまり寝付けていないはずだ。もし今メッセージを送って起こしてしまったら申し訳ない。それに、大丈夫なはずがない。

 結局僕は九時ごろに「わかった。お大事にね」と送った。


 しかしその一時間後。

 一日暇になったその足で、あてもなく街に向かった僕は信じられないものを目撃する。


「……香苗?」


 午前十時過ぎに、駅のホームを香苗と知らない男が並んで歩いていた。

 そのまま香苗は男に手を振って、ハグをして、に乗っていった。


 瞬間的に僕の頭が真っ白になって、そのままどうやって家に帰ったか、あまり覚えていない。

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