太平洋3丁目A-B1番地の海には、入場料を払って泳いでね

ちびまるフォイ

母なる海を固定資産にしたい

「え、これ海……だよな?」


画面に表示されているのはどう見ても海の一角。

値段は高いが買えない金額でもない。


「海が売りに出されるなんて……買ったらどうなるんだ」


怖いもの見たさで購入ボタンを押した。

こうして、太平洋3丁目A-B1番地の海は自分のものとなった。


「これが俺の海かぁ」


現地に行ってみると、意外に岸からも近くアクセス良好。

使い道は正直わからない。


「……とりあえず、泳いでみるか」


せっかくなので自分の海で泳いでみる。

すると、海にはたくさんのサンゴが輝いていた。


「こりゃすごい。こんなサンゴ礁がこの海にあったなんて!」


自分の海にあったのはサンゴ礁だけではない。

海流の関係で魚がたくさんこの海を通る。


「もしかして……めっちゃいい買い物したのでは……!?」


それを実感するのはそこからさらに1ヶ月後。


美しい海とアクセス抜群の立地。

魚やイルカも訪れる自分の海は大人気の観光スポットとなった。


自分の海を訪れる観光客は年中絶えることはない。

寝ているだけで預金口座に観光客のお金が入ってくる。


「海を買って大正解だ! 大儲けだぜわっはっは!!」


豪遊に豪遊を重ねる大富豪生活。

その次の海はどこを買おうかなと考えていた。


お金がある今ならどこの海だって変えるだろう。

いっそ地球上の海を買い占めてやろうか。


「すべての海は俺のもんだ……むにゃむにゃ……」


良い夢を見ているときだった。

社長秘書があわてて部屋に入ってきた。


「しゃ、社長大変です!!」


「なんだ? 海がふたつに割れたのか?」


「それよりもっとひどいです!」


秘書はニュースの報道を見せた。


「今、海上に大型の台風が発生し、

 風により海の波が非常に高くなっています」


「……それが? ただの自然現象だろ?」


「その高まった波がどこへ行くか考えてください!」


「……あ」


自分の海は岸に近くてアクセス良好。

それすなわち、自分の海が起こした津波が街を襲う危険もあるということ。


気づいたときにはもう遅く、

発生した津波が街に襲いかかったあとだった。


台風がやんだ頃、おそるおそる自分の海の近くにいく。

街は痛ましいほどに波に飲まれて壊されていた。


「おい! お前があの海の持ち主か!!」


波にボロボロにされた家の住民がつっかかってくる。


「お前のせいで家がなくなっちまったじゃねぇか!」


「俺のせいじゃないですよ! 台風のせいでしょう!?」


「お前の海だろうが! 賠償金よこせ!!」


「賠償金!? そんなの払えるか!」


「お前の海のせいでこんな状態になったのに、

 どうして賠償金はらわないんだ!!」


「俺のものじゃなくても津波は起きてたでしょう!?

 なのになんで俺が賠償しなくちゃならないんだ!」


「てめぇ、人の生活をなんだと思ってる!!」


「そっちこそ! あの海の価値を理解してるのか!

 お前のような貧乏人のあばら家なんか

 足元にも及ばないほどの価値を生み出してるんだぞ!」


「知ったことか!」


「こっちこそ知ったことじゃない!

 金の亡者め! 家がなくなったのも強欲のバツだ!」


「なんだと!」

「やるか!」


多額の賠償金を払えと息巻く住民たちとは

ついに話がまとまることもなく裁判へと発展。


裁判の結果は自分の敗訴となり、賠償金を支払わされた。

それも被害者全員ぶんと、そのペットへ。


あれだけ荒稼ぎしたお金は賠償金で根こそぎ失い、

今度は自分が安いプレハブ小屋で過ごすハメになる。


「うう……なんでこんな目に……。

 ついこないだまでは大金持ちだったのに」


残されたのはわずかなお金と海のみ。

もうこうなったら海にすべてを賭けるしかない。


「もっと海の価値をあげて、たくさん人が来れば

 また前みたいな暮らしができるはずだ!」


たとえどんなに地元住民が文句を言ってこようと、

今以上に海の価値があがれば賠償金なんか痛手ではない。


ふたたび夜の海に漕ぎ出すと、その日は特に大荒れだった。


高い波しぶきが船を襲う。

今にも難破しそうだ。


「ひいい! 普段は穏やかな海なのに!」


まるで所有権を手に入れた自分を拒むかのよう。

それでも海の価値をあげるものがないかと突き進む。


雷が鳴り響き船は浸水。

雨が降り出して台風も発生する。


これ以上ないほど大荒れになったとき、

海の底が輝き出し半裸の巨人が現れた。


「私は海の神ポセイドン。

 貴様だな。この海を自分のものにしたものは」


「あ……ああ……」


巨大な神の前に言葉を失った。


はい自分のモノです、なんて言えば

身の程知らずだと言われて雷に打たれるかもしれない。


でも答えなければ神の問いかけをシカトした罪で

やっぱり雷に打たれて死んじゃうだろう。


「ぼ、ぼくです……」


「ほうやはりか。この海の資源もなにもかも。

 人間ごときが自分のものだと主張するのだな?」


「あばばば……」


沈む船の上で土下座をした。


「す、すみません!! 許してください!!

 最初は勢いだけで買ったんです!!

 こんな、こんなことになるなんて思わなくて!!」


「もう遅い。貴様はこの海を自分のものとし、

 訪れる観光客から金をせしめるだけに飽き足らず

 海産物を売り、サンゴすらも自分の財産として抱え込んだ」


「ゆ、許してください! どうか、どうか命だけは!!」


ポセイドンはこちらの言葉も待たず、

持っていた槍を大きく構えた。


「そんな金を集めた貴様にはーーーー!!」


ポセイドンはそっと耳打ちした。



「そんな貴様にとっておきの話がある。

 今、売りに出されている"宇宙3丁目1番地"を

 一緒にお金出して買おうよ」



ポセイドンの槍を質屋に預けたお金で、

俺と神は宇宙の一等地を手に入れた。

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