ナイトメア=パスタ

本日はFXの相場がく、ドル円の中値なかねからエントリーしNY市場の30分前に利確りかくして順当に利益を上げた。

同時に、迎春準備げいしゅんじゅんびで残業をしていた神社から退社する。

お腹がすいたので近所のパスタ屋さんへ向かった。


15分ほど待って、店員がパスタを持ってくるが、私のテーブルにはフォークやスプーンなどの食器が出されていなかった。

パスタを運んできた店員に申し付けようと口を開こうとしたその時、店員は喋った。

人間は言葉を発するまでに必ず呼吸を介する。捉え方によっては呼吸の産み落とす伝達のテレパシーこそが言葉なのかもしれない。

当然、はじめに息を吸わなければならない。

となれば、「あ、こいつは今から喋り始めるぞ」と無意識的に感じ取ることができる。人間には空気を読むチカラがそなわっているのだ。

私が息を吸う寸分先すんぶんさきで店員の口が開いた。それまで店員が話す気配はなかった。

すべてをまったく感じ取れない中会話が先行せんこうされる。


「フォークなどの食器類をお持ちしますのでもう少々お待ちください。」


文字に起こせば何気なにげない日常会話の一端いったんに感じるだろう。

しかし、この瞬間のこの一言はいた。なぜかいた。そこに理屈など存在しないのである。

私は、店員の目に吸い込まれていく。私の時間は止まっていた。その停止したときの中でつむがれる店員の言葉が悠久ゆうきゅうの時間に感じた。

店員が喋り終わる頃には、私を完全に取り込んだその目に形容けいようがた畏怖いふを感じていた。

その目は、カエルをにらむ蛇の目でも、深淵しんえんのぞく目でもない。人通りのない路地に只管ひたすらたたずみ、きょを照らす街灯がいとうを思い起こさせる目だ。

いだいた恐怖は筆舌ひつぜつに尽くし難い。上司に怒られたり、好きな子に嫌われたり。恐怖を抱く場面ってのは各々おのおの日常にあると思うが、そんなんじゃあない。

心のずい、本能的に感じ取る恐怖だ。

おそらくあの店員は大地震が起きようとも、火事が起きようとも自分のセリフを喋り終える。そう感じざるを得ない凄味すごみがある。

店員はセリフを言い終わり、足早あしばやに次のテーブルへと進んで行く。

私は乱された呼吸を整え、パスタを2皿食べることにする。


令和6年12月13日

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素直随筆ーsunao zuihitsuー @EgoistPriest14

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