太上老君は動かない

わざわいは福のる所、福は禍のす所。れか其のきわみを知らん。正無せいなし。

正復た奇となり、善復た妖と為る。人の迷うや、其の日、もとよりひさし。

ここもって聖人は、ほうなれどもかず。れんなれどもけずらず。ちょくなれどもならず。光あれどもかがやかさず。


禍とは常に幸福と表裏一体である。それ故に、収束して行き着く先が「禍」であるか「福」であるかは誰にも測れない。

こういった具合で、そもそも世の中に絶対という事象じしょうは存在していない。

一般的に「正しい」とされるものが、時として「妖」のような邪悪な存在となり、「善行」は「悪行」の上に成り立っている。

この道理をわきまえない世の人が道に迷い時代は幾重いくえにも過ぎてしまった。

対して、この道理を弁えた聖人は、善悪の存在を分けることはない。自身が清廉であっても、それによって他人の強欲を責めない。自身が真っ直ぐであっても、その信念を人に押し付けない。己に知恵の光があっても、他人へくらませることはない。


『老子』「58章」恣意訓解す。


令和6年11月24日




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