第12話 メロンパン!


「明日も、死体が降ってくるでしょう。それでは、良い天国生活をっ!」



 今日もこの文言を言う。というよりも、言わない日なんて存在しない。

 人々に、注意喚起をする仕事としてその分徳を積むことになるそうだ。




(ただ、言えと言われた言葉を発してるだけなんだけど)




 そしてあれから数日後、町長はお迎えがやってきて輪廻転生の輪をくぐった。




 放送室の机に肘をついて、重たい頭を腕に預ける。あれから、毎日のようにつむぎがやってくる。

 これまで、会えなかった分を埋め合わせるかのように。


 そして今日も、ここでのんびりしていると放送室の戸を叩いて入ってくる。





紗夜さや、今日のパンも美味しいの!」





 今日は、どうやらメロンパンだそうだ。色んなパターンのメロンパンが、トレーの上に並んでいる。




「普通のと、チョコ、抹茶、紅茶!」



 珍しい味まで、揃えられているようだ。食べたことのない、紅茶味を頂くことにした。

 

 

 ザクザクのクッキー生地に、甘い砂糖の味が口の中に広がった。しっとりと紅茶を染み込まされたふわふわの生地からは、アールグレイのベルガモットの香りが追いかけてくる。



 その香りを、目を閉じて一通り楽しむ。




「ん〜、うまっ!」



「そうでしょう?」



 薄暗い部屋から、青空の広がる外を見つめる。口には、先ほどの紅茶のメロンパンを頬張った。

 洋風の紬の店に似合う、味と古民家がなぜかうまく融合している。


 

 

 椅子に深く腰をかけて、足を伸ばしてリラックスモードだ。のんびりとした風が、開かれた扉から入ってくる。


 


 数日経っても、なお綺麗に咲く桜と沈丁花。華やかな香りを風が運ぶ。仕事も決められた言葉を言うだけ。

 桜町は、平和でのどかな街。




(平和だ……)




 町長のお迎えは、ここまで道を作った光の天使だった。光に包まれて、消えていったのだ。

 そんなお迎えも、こんな穏やかな日だった。




 もらったメロンパンは、ひとつでかなりお腹に溜まる。手についたパンの破片を叩いて落とした。




「今日も美味しかったです! ご馳走様!」




「いいえ〜!」



 会った初日のような、しんみりとした空気感は微塵もない。ただそれでも、この人は私のであると感じる。それは、些細なことばかり。




 それを感じるたびに、生前にやはり……と思ってしまう。そんなことを今、考えても仕方がない。



 紬が、先に立ち上がった。




「じゃあ、お店に戻るね! 紗夜さやも、お仕事頑張ってね!」



 手を振って、丘の下にある白い店に帰っていった。放送室から出て、紬を見送った。




 放送と、何人の死体が通過したのかをまとめる。桜町は必ず通るらしく、通るたびにカウントするのだ。部屋の中にいたりと、カウントし忘れている時もあると思っている。



 かなりアバウトな気がしているが、それでよしとされている。



(今の所、今日は2人っと……)



 



 

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