第5話 ここへ来て?


「あの、神様? 私は、どうしたらいいのしょうか?」



 私の前を歩く神様は、顔だけを後ろに向けてふわりと笑った。



紗夜さやさん。輪廻転生するために、仕事をするのですよ!」



(ん?? 天国でも仕事するの?)


 私の疑問は表情となり、神様に伝わったようだ。私の表情の変化を見て、手で口元を隠して上品に笑みをこぼす。

 そしてぴたりと足を止めて、奥の扉を開いた。



「とりあえず、着替えましょうか」


 奥に並んだ黒に近い箪笥たんすを開いて、私のサイズを探してくれた。みなが着ている、白のノースリーブのワンピースだ。暑くて汗で重さを増した白の袴をサッと脱いで、渡された白のワンピースに腕を通す。



 さらりとしたリネンで出来ていて、汗を吸ってくれるので涼しげだ。肌の露出がある分、暑さも少しは軽減される。



「着替えました」

「うんうん、似合ってますね!」


 軽く手招きをされて、神様についていく。パタパタと歩いても歩いてもどこまでも続いていきそうな、果てしなく長い廊下。




 周りを見渡しても、ずっと同じ景色だ。





「……さぁ、ここは天国と呼ばれる場所。いろいろな仕事をして、皆さんは次のために頑張るのです」


 

「え、なぜ……極楽浄土なのに……」



 私の質問に、神様はぴたりと足を止めた。そして、ゆっくりとこちらを振り返る。

 ズンっと空気が一気に重くなるような、声と表情にぞくりとする。




「……なぜ? ……そうですね。ここでいかに徳を積むのかが、次の人生の運を決めるのです」


 

「じゃあ、意外と……『いい運が、徳を積んだから』と呼ばれるのは、あながち間違いではないのですか」




 神様は、にぃっと柔らかい笑みを浮かべた。先ほどの暗さを帯びた真顔は、どこからやってきたのか。





「えぇ」


 

「私は、なんの仕事ができますか?」



 笑いながら再度前を向き、スタスタと歩き始めた。神様は、凛と背筋を伸ばして普通の人の半歩で歩いている。

 その歩く様は、優雅であり少し子供ぽさも感じる。




「先ほどたしか……」



 袖から何やら巻物を取り出した。立ち止まり、紐を引いて地面に転がす。

 シュッシュっと音を立てて、何かを探しているようだ。



「あ、ありました! これです!」



 神様の指し示すそこには、"天国の天気予報士、募集中です!"と大きく書かれている。

 その文字を見たところで、私はどんな職種かもわからない。




「えっと?」



「紗夜さんは、天国の天気予報士になってもらいましょう。とても簡単な仕事ですよ」



 両手でさっと巻物を巻き取って、紐で結んだ。その巻物で、壁をコツンと叩くとそこに扉が現れた。

 その扉を神様は、引いて開ける。



 その中に入っていくので、私も慌てて後を追った。サラリとリネンの服が揺れた。

 どうやらここの部屋は、風が吹いているようだ。



「いいです? 天気予報士って言っても、ただこう言えばいいのです……」



『空から死体が降ってきます』



「はい?」



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る