第4話 天国に到着!


 『天国に到着』と書かれた看板があり、その看板のそばをすり抜けた。


 天国と言われても、全く想像もつかない。極楽浄土と呼ばれるそこは、本当に極楽浄土なのだろうか。

 期待感と不安感でいっぱいの胸を、ぎゅっと掴み天国に入国した。




「ようこそ、天国へっ!」



 そうして、天国の人々に快く迎え入れられた。そこの人々は、楽しく話をしたりお酒を飲んだりと楽しそうにしている。

 


 太陽に近いからか、少し暑い。みな、ノースリーブ型の白のワンピースのような服装をしている。今の私の服装は、真っ白の袴を着ていて汗がひどい。



 汗で重たくなりつつある袴を早く脱ぎたくて、服屋を探す。そもそもここでのやり取りの仕方が、わからない。

 ここの通貨を持ってもいなければ、所有物は何もないのだ。



 キョロキョロと周りを見ながら、重たい足を引きずりながら進む。街なのか、たくさんの人が集まっていた。しかし、話しかけたくとも、皆楽しそうに輪になっており話しかけにくい。

 今のこの状況をどうにか打破したい。そう思いつつ、街をすり抜けていく。



 奥に寺のような建物が、目に入った。そこへ行けば何か聞けるかと、小さな希望が明るく感じる。



(早くいって、どうしたらいいのか教えてもらおう)



 遠くからでも見つけられるほどの、大きな寺だった。近づくにつれて、濃い茶色の屋根が大きくなってゆく。

 重厚感のある屋根を支える、薄い肌色の壁は崩れそうなボロさを感じる。


 入り口に書かれた『一番最初の寺』と書かれた看板が掲げられている。


 軽そうな木の扉を私は、ノックする。


 


 ――コンコンッ



「……」

 


 中からは、返事も物音もしない。もう一度、確かめるためにノックをした。


 

 ――コンコンッ



 静かすぎて、怖さを感じはじめた。ここには、誰もいないのかと思うほどの静けさがこのあたり一体を包み込む。



 誰もいないと、くるりと背中を扉に向けた。そして、一歩足を遠ざけようとしたとき――扉がガラガラと音を立てて開かれる。




「ど、どちら様……?」



 だるそうな雰囲気を纏った、女性が出てきた。先ほどの人々と同じく、ノースリーブの白い服を見に纏っている。

 長い黒の髪をポニーテールにまとめ上げて、手をうちわにして煽いでいる。



「……あっ、あの。松本 紗夜さやです。私さっきここにきたばかりで……」



「紗夜さん? ……あぁ、聞いてた気もする……」



 その長い髪を揺らすようにして、小首を傾げて思い出そうとしているようだ。手を顎に当てて、暗い瞳をぐるりと回している。



「ちょっと、記憶にないですね……とりあえず、どうぞこちらへっ」



 顎に当てていた手を中に向けて、私を寺の中に招き入れる。私はその人について、寺の中に入っていく。



 靴を脱ぎ、上がった。踏んだ床板は軋み、足裏から振動を感じる。足を乗せるたびに、床が軋む。



「紗夜さん。私のことは、神様とでもお呼びになって」



「はぁ、神様ですね」



「えぇ。あなたのように、来たばかりの方をお助けするのですよ」



 柔らかな話し方をして、声色も優しい。寺と家だけあって、日本家屋のような佇まいだ。床はボロい建物で軋むのか、鶯張うぐいすばりだからなのか。



「ありがとうございます」



 それにしても建物の中は、ヒヤリとしていて白の袴をしっかり着ている私でも涼しく感じる。

 垂れる汗が、ここの建物内の涼しげな風を受けて冷たい。

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