第2話 閻魔さまの判断?


(うん、最悪な死に方でしょ。もっとマシなのあったと思うんだよね)



 そんなわけで、死後はまず7日間ごとに過去の自分と向き合う日がある。閻魔様えんまさまという存在も本当にいた。




「はいはい。じぁあ、今からね、始めるよ〜。私は、閻魔。よろしくね〜」





 そして、キリキリとした表情の神様ではなかった。とてもゆるい話し方をする。表情も穏やかで、肌の色も普通の人となんら変わりない。眉はやや下がり気味で、想像されている怖い閻魔様の面影は全く感じられない。大きさですら、そこらの人と変わらないのだ。


 



 その柔らかな雰囲気の閻魔様は、机に置かれた台帳をペラペラと開く。

 その机の前に、椅子が5つ置かれている。面接のような配置図だ。

 



(閻魔様って、こんな穏やかな神様なのね? それに、想像されてるより普通の人と変わらない……)




 閻魔様の隣に立っていた人が、私たちを促して椅子に座らせた。同じタイミングで死んだ者たちらしく、この5人で49日を迎えるそうだ。ペラペラと一通り目を通した閻魔様は、一人一人名前を呼んで話を始めた。




「……松本 紗夜まつもと さや


「はい!」



 一番最後に座った、私の番になった。




「あなたは……あらぁ、可哀想な死に方をしたんだねぇ」



「えぇ、はい……そうですね」




 閻魔様は、開いていた台帳をバサリと音を立てて閉じた。ローラーのついた椅子を一回転させて、もう一度同じ台帳を開いた。




「うぅん。どうする?」


「えっ……と? どうする、とはなんでしょう?」




 閻魔様は、私の問いには答えず腕を組んで考え始める。隣に立っていたお付きの人が、台帳をさっととって読みはじめる。




「……かわいそうに……」

 


 2人から私は、同情をされてしまった。その2人の視線が、刺さる感じがして私は顔を顰めてしまう。



「それで、どうする?」



(え? 話聞いてた? どうする、って何って私聞いたんだけど)


 

 閻魔様は、自分の組んだ手の甲に顎を乗せた。そして、隣に立つお付きの人がこちらに回り込んで私の手に紙を握らせた。




 ぐしゃぐしゃになったその紙を私は、綺麗に広げて上から目を通す。



「……んっと?」



「かわいそうだから、天国にこのまま連れてってあげてもいいよ? どうする?」



「……行きます!」



 あんな無様な最後のおかげで、私は49日待たずに天国への切符を手にすることが叶ったようだ。



 閻魔様に手招きされて、私は閻魔様の目の前まで立ち上がった寄っていく。

 先ほど手渡されたぐしゃぐしゃの紙の下に、閻魔様がサインをしてくれた。




「この紙を持って、天国の入り口に行けば入国させてもらえるよ〜」



 緩く手を振って、閻魔様は私のことを見送る。軽く会釈をして私は、閻魔様に背中を向けて看板に従って天国を目指す。


 

 

 

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