天国の気象予報士

白崎なな

第1話 死体が降ってくるでしょう!


「明日も、死体が降ってくるでしょう。それでは、良い天国生活をっ!」



 ――遡ること数時間前。



 生前の私……松本紗夜さやは、普通の社会人をして働いていた。のんびりと休日は過ごしたり、友人と遊びに出掛けて過ごす。

 そんな特に変わったことのない、ごく普通の生活を送っていた。



「はぁ〜、今日も疲れた! こういう日は、おっさけ〜! ふふんっ〜」


 

 華金の夜は、缶チューハイを片手に溜まったドラマを見る。それを楽しみに、一週間乗り切るのだ。


 

 最近ハマっているのは、桃サワー。濃いめの桃の果汁が、甘くて美味しい。口で甘みを感じ、恋愛ドラマで心の中まで甘さでいっぱいになる。

 砂糖漬けにされる、果物の気分を味わえる。



 やっと今週も乗り越えたと、重たいはずの足も軽やかだ。ささっと家に帰って、冷蔵庫を開けて……幸せタイムを味わいたい。



 ――ガチャッ



「たっだいまぁ〜〜」


 誰もいない部屋に声をかけ、電気をパチパチと付ける。3センチという低めのパンプスを脱ぎ開放的になった足は、さらに軽くなる。

 カバンとジャケットをぽいぽいっとソファに投げ、一直線に冷蔵庫を目指す。



 キッチンでささっと手を洗って、冷蔵庫をパッと開いた。真っ白のライトが、冷蔵庫内を明るく照らす。


「ん!? 桃がいない! あっれぇ〜? おかしいな……」


 冷蔵庫の隅々を確認しても、やはり桃のチューハイは無い。一旦、冷蔵庫の扉を閉めた。



「う〜ん、桃の気分なんだよなぁ」



 私は、腕を組んで少し悩む。完全に桃のチューハイを飲んで、あのドラマの続きを見る気分に浸っていた。しかし、家にようやく辿り着いたばかり。


 もう一度、冷蔵庫の扉を開いた。



「うん! 無い! 買いに行こう!」



 結果は、開けなくてもわかっていた。それでも、再度確認をしないと気がすまなかった。


 気持ちを切り替え、お店に向かうことにする。


 カバンに手を突っ込んで、お財布と鍵を取り出した。先ほど脱いだパンプスに足を入れて、近くのコンビニを目指す。


 家からコンビニまで、目と鼻の先だ。早く買って、家でのんびりと過ごそうと早歩きで向かった。



 コンビニについて、入口のカゴを手にする。お目当ての桃の缶チューハイを数缶、他にもおやつもカゴに入れた。これで充実した、ドラマ鑑賞会になりそうだ。


 鼻歌を歌いそうになるのを抑えつつ、レジに向かった。その時、商品棚の物陰で見えなかった人とぶつかった。


 思いがけない出会い頭の事故に、かなりの衝撃を感じる。カゴの重さが振り子となり、後頭部から地面に叩きつけられた。


 小さな男の子とぶつかったようで、ワタワタとしているのがうっすら開けた目に映る。


 おそらくこの子は、走ってきたのだろう。でなければ、こんな勢いで倒れなかった。



 打ちどころが悪かったのか、私の意識はここで手放した。


 

 

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