第12話 夕焼けに照らされながら極左思想を囁く鍬鋤さん
「だから政無、私と一緒に革命を起こそう!!」
既に傾き出した太陽の光に照らされながら、目の前の生徒会長は俺に向かってとんでもないことを言い放ってきやがった。この一言だけ切り取ったらなんかの物語の始まりに見えるな、実際は暴力革命の幕開けなんだが。
というかなんで生徒会長が極左になってるんだよ。なんでこんな危険思想の持ち主が1番ついちゃいけない役職についてるんだよ。有権者は正気か?そういえば生徒会選挙で鍬鋤さんに俺も投票していたんだった、もっと考えて投票すりゃよかった。
俺は生徒会長がよりにもよって結国さんと同じタイプ(もっとも思想は逆だが)だったことに頭痛を感じ始めていた。なんでこんなのばっか俺の周りにいるんだよおかしいだろ・・・・・・
「政無、世界は資本家による搾取に満ちているんだ。奴らは金さえ得られればなんでもいい、金の亡者だ。だから私たちは革命で社会構造ごとひっくり返して全部平等にする必要があるんだ!!」
割と真面目に転校を視野に入れ出した俺の心境をよそに、鍬鋤さんは俺に向かって演説を始めた。つい先程まで冷静で情に熱い生徒会長と思って上昇していた俺の鍬鋤さん株が、今では赤色のヘルメット被りながらケバ棒持って機動隊と殴り合いしてそうな女まで自由落下している。
なんと言うかさっきまで抱いていた『この人いいなあ』とか、『俺もこうありたいなあ』とかの想いを返せ。利子付きで返せと叫びたくなったがグッと堪える。
帰りたい、この人怖い。
「今の時代、政府なんて枠組みはもう古い。あんなものがあるから格差なんてものが生まれるんだ。徹底的に破壊する必要がある」
すごいな、逆結国さんだ。なんで同じ学校にこうも思想が反対の人間が在籍してるんだよ、共倒れでもさせるつもりか?とんでもないキメラが産まれそうだな。
「それから身体的な差別を無くすために、全市民の肉体を改造して均一にするぞ。全員が全員似たような体つきになれば差別なんざ起こりようがないからな、もちろんバストも平均に統一するぞ」
なんなの?胸の大きさでも揶揄われて共産主義者にでもなったの?資本の再分配ならぬ脂肪の再分配とかイカれてるよ。俺の思考もだいぶ失礼だな。
「すまん、つい熱くなって一方的に語ってしまったな。それで、私に協力してくれないか?政無となら世界同時革命を起こせそうなんだ」
起こせるわけねえだろ。俺をチェ.ゲ⚪︎ラか何かと思ってんのかお前。
鍬鋤さんはまるで一生の親友でも見つけたみたいに目をキラキラさせてこちらを見つめている。俺にはそれが獲物を見つけて今にも飛びかかろうとする猛獣の眼光の様に思えてきた。
「それで、一緒に協力してくれないか?」
「すみませんちょっと無理です」
光の如く間髪入れずに断る。流石の俺も反社会的な活動に引き摺り込まれるのは嫌だった。
俺に断られた鍬鋤さんは、どこか寂しそうな表情をしていた。まさか本気で勧誘するつもりだったの・・・・・・!?
「そ、そうか・・・・・・私とは嫌か・・・・・・」
違うわ、革命そのものが嫌なんだよ。そんなアジトに鉄球叩き込まれてそうな思想とか関わりたくないんだよ。
「いや・・・・・・決して鍬鋤さんが嫌というわけでは無いんです。ただ自分・・・・・・ノンポリなんで・・・・・・」
とりあえず政治的無関心を装ってなんとか撒く。ここでなんとか鍬鋤さんの勧誘から逃れられなければ、下手すりゃ一生檻の中だ。
「そうか・・・・・・それは残念だな・・・・・・」
俺の返答で鍬鋤さんが大人しく引き下がった。これで俺が勧誘されることは無くなった・・・・・・のか?
「思えば生徒会の皆んなも政無みたいな反応をしていたな・・・・・・」
おいちょっと待て、これ他の生徒にも言っていたのかよ。生徒会に入ったと思ったら、左に針が振り切れた思想を聞かされる生徒会メンバーが可哀想に思えてきた。よく考えたら生徒会メンバーでも無いのに極右と極左、そして陰謀論者に囲まれている俺の方が可哀想な気がするけど。
「副会長と書記に正気を疑われた時は流石に答えたなぁ・・・・・・あの後自暴自棄になって1人で革命を起こそうとして3人がかりで止められたんだっけ・・・・・・」
めちゃくちゃまともな生徒会だった。なんでこんな優秀な部下がついていて上司がこれなんだよ、本当になんで?
あと1人で革命ってなんだよ。よくわからないけど絶対ヤバイ行為だと言うことは確信できた。
「改めて人の上に立ってみると、自分の意見を通すことの難しさを実感するよ・・・・・・やっぱり、私は上から改革するんじゃなくて下から突き上げる役割が合ってるのかもしれんな・・・・・・」
それ多分あなたの思想がおかしいだけだと思います。多分下から突き上げても色々とアレすぎて無視されると思います。お願いですから大人しくしてくださいよ本当に。
「すまんな政無、いきなりこんなこと聞かせてしまって・・・・・・」
あー大丈夫ですよこういうの慣れてるんで、なんでこんなのに慣れなきゃいけないんだよクソが。
「えっと・・・・・・とりあえず、いきなり自分の思想とか伝えちゃうとドン引きされかねないんで、もうちょっと段階を踏んだ方がいい気がします・・・・・・」
とりあえず鍬鋤さんに忠告しておく。このまま手当たり次第に思想をばら撒くモンスターを放置する訳にはいかない。改めて見てもなんで生徒会長やっているのかわからない人間だなこれ。
「・・・・・・確かに、そうだな・・・・・・私が間違っていたかもしれん」
そうですですので取り敢えず共産主義を無闇矢鱈に広めるのを辞めましょう。そのうち思想に共感する奴が現れでもしたら大変なことになる。
「分かった・・・・・・それじゃあ・・・・・・ふんっ!」
そう言って鍬鋤さんは自身の顔面に拳を叩き込んだ。
・・・・・・えっ?
突然のことで理解が追いつかない、ちょっと待って取り敢えず状況を整理しよう。自分は確か本を買いに行って、その道中に犬探しを頼まれて、5時間探しても見つからないと思ったら犬がひょっこり現れて、その後ひたすら極左思想を聞かされた挙句、鍬鋤さんが自分自身をぶん殴り始めた。
なんだよこの訳の分からない状況は、俺が何をしたって言うんだよ。
鍬鋤さんの鼻から血が垂れだしている。自分をぶん殴った後の鍬鋤さんは何か憑き物が取れた様な顔をしていた。
「政無、私は馬鹿だった。自分のことだけ考えて行動するなんて共産主義者失格だ。これからはもっと受け入れやすい様に行動する」
失敗した。この人忠告されたら自己批判始めた挙句、思想を広めるべく新たな決心をし出したよ、俺はとんでもない怪物を野に放ってしまったのかもしれない。
「だから政無、いつかお前が同志になってくれる様私も努力する。それまで待っててくれ」
そう言って彼女は俺に背を向け去っていった。ここだけ見れば乙女ゲーのワンシーンか何かの様だが、実際は共産主義者が一方的に言って一方的に去っていっただけである。
「なんだったんだ・・・・・・」
去り行く彼女の背中を見つめながら、これは白昼夢では無いかと思って頬をつねるが、普通に痛いだけで何も変わらない。紛れもない現実だった、最悪。
「とりあえず結国さんには会わせない様にしないと・・・・・・」
俺の口からそんな言葉が自然と漏れた。共産主義者異常嫌悪者の結国さんと、共産主義者の鍬鋤さんは実際に合わせるまでもなく相性が悪い。もし顔合わせしようものなら、うちの高校でキューバ危機が起こる。
「もう転校しようかな・・・・・・」
俺のぼやきを聞くものは、俺以外だと空に登り出した月以外には存在しなかった・・・・・・
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