第11話 日曜日に生徒会長と出会った政無くん

 日曜日、それは多くの人にとってはオアシスであり、辛い1週間を耐えたあとのご褒美みたいなものである。無論俺も例外ではない。


 大多数の人間はこの日に買い物をしたり、家族サービスをしたり、あるいはデートをしたりする。7つある曜日の中でも最も重要な曜日と言っても過言では無い。


 そんなパラダイスみたいな日に俺は近所の本屋まで足を進めていた。その目的はただ一つ、本日発売予定の『ネクロマンサー系魔法少女』を買うためである。


 最近普通の男子高校生とはかけ離れた生活を送る羽目になった俺だが、基本的にはアニメと漫画、そしてラノベを愛するインドア派である。こうして休日にラノベや漫画を買うのがある種の楽しみになっていたのだ。


 この作品、少し昔に小説投稿サイトで読んでからずっとファンだったこともあり、書籍化した時はびっくりしたものだ。敵をゾンビに変えて蹂躙していく主人公が凄く格好良かったのを覚えている。


 あー実に楽しみだ。書き下ろしSSに挿絵、書籍版とweb版を読み比べるのも一興だろう。本屋に赴く俺の足取りも自然と軽い。


 それにしても・・・・・・陰謀論に触れずに好きなことできる休日のなんたる幸福なことか!!俺はこの休日のありがたみを噛み締めている。


 一昨日の石区さんは凄かった。『タンスの角には人間の小指を誘導する装置が搭載されていて、無理やりぶつけさせることで生存本能を活性化させるようにしている』とかいう陰謀論を昼休み中聞く羽目になった。きっと石区さんはタンスの角に小指をぶつけたのだろう。


 脳内にタンスの角に足の小指をぶつけてゴロンゴロンのたうち回る石区さんの幻覚が見えた。彼女は床を転げ回りながら『これも!生存本能を活性化させて無気力人間を撲滅させようとする政府の陰謀なのね!!』と言ってる石区さんの姿が思い浮かんできた。俺の脳内石区さん像も大概おかしい気がする。


 石区さんの陰謀論を毎日聞いている身からすれば、休日の今日は絶対に楽しみたい日だ。毎日陰謀論聞かされてる分楽しんでやる。


 そうして自分の心に新たな決心を秘めつつ本屋へと向かっていると、目の前に高校生ぐらいの少女と小学生ぐらいの男子がなにやら話をしていた。

 

 姉弟かと思ったが何やら様子がおかしい。男子の方は何やら焦った様子でなにかを少女の方へ訴えかけていて、少女はその少年を諭しながら話している様子だった。


 一体なんなのだろう、そう思いながらその2人の後ろを通り抜けようとして・・・・・・


 「政無、ちょっとすまない!!手伝ってくれないか?」


 急に俺の名前を呼びかけられて左腕を掴まれた。掴まれた方に振り向くと、どことなく冷徹そうな印象を感じさせる美人が俺の腕をしっかりと押さえていた。


 なんで俺のこと知ってるんだ?それよりこの人・・・・・・・・・・・・


 「えっと、鍬鋤さん・・・・・・ですよね?」


 そこにいたのはうちの学校の生徒会長の鍬鋤明美くわすきあけみだった。彼女は5月の生徒会選挙で圧倒的な得票率をおさめて生徒会長に就任、現在は様々な活動に力を入れていると聞いていた。


 性格は常に冷静沈着、その鋭い目線と高い身長、そして綺麗に整った容姿からまるで鋭利な刃物のような印象を持つ少女である。

 

 ちなみにこれは本筋と関係ないのだが、彼女の胸は平原である。結国さんの逆をいく存在みたいだ。俺も彼女の胸の如く平穏な心を持ちたいものだ、よく考えたらかなり失礼な文言だなこれ。


 もちろん俺との接点はほとんど無いし、話したこともあんまり無い。まさかこんなところで出会って、しかも向こうから話しかけられるなんて夢にも思わなかった。


 「ああそうだ。それでな政無、通りかかったところで悪いが頼みたいことがある」


 そういうと鍬鋤さんが俺に頭を下げてきた。突然すぎて訳がわからない。


 「実はだな・・・・・・そこの男の子が散歩してた犬とはぐれたらしくて・・・・・・一緒に探してもらえないだろうか?」


 マジか。男の子の方をよく見ると、赤色のリードを持ちながら目に涙を浮かべている。この様子を見てると嘘には見えないな。


 「私がここら辺を散策していたら蹲っているこの子がいてな、私に飼い犬を探して欲しいと頼み込んできたんだ。どうも犬種はゴールデンレトリバーらしい。


 なるほど、鍬鋤さんは正義感が強いんだな、出来るだけ彼女のように高潔でありたいものだ。


 「お、お願いします・・・・・・ラッキーを探してください・・・・・・」


 その男の子は嗚咽を漏らしながら俺と鍬鋤さんに頼み込んできた。おそらくラッキーというのは犬の名前だろう。しかしまあ、どうしたものか・・・・・・


 ・・・・・・うーん、最悪ラノベに関しては後日買えばいいし・・・・・・まあ、なんとかなるか。


 それに、このまま犬が見つからなかったらこの子にとっては一生の後悔になる。それに見ず知らずの子供とはいえ、子供が泣いているのを見るのが俺はあまり好きじゃないんだ。


 「分かりました。微力ではありますが手伝いましょう」


 「!?本当にすまない!感謝するぞ政無!」


 俺がそう告げると、彼女は目を輝かせて感謝してきた。大丈夫大丈夫、このくらい石区さんと結国さんの相手するよりは全然楽だから、改めて見てもとんでもねえ負担だなこれ。


 にしても・・・・・・鍬鋤さんって、もっと冷酷なイメージ持ってたけど、俺が思うより思いやりがあるんだな・・・・・・・・・・・・


 「それで・・・・・・どのあたりを探しますか?」


 「そうだな・・・・・・たしかこの辺で見失ったと聞いたから、政無はその辺を探してくれ。手分けして探すぞ」


 そう言って鍬鋤さんは住宅地の方に指を向けた。なるほど・・・・・・時間がかかりそうだが、まあいいだろう。


 「分かりました。出来るだけ早く見つかるようにしますね!」


 そうして俺たちははぐれた犬を探すこととなった。



・・・・・・・・・・・・・・・

 「・・・・・・駄目だ、見つからない」


そう呟いたのは誰だったか。俺か、鍬鋤さんのどっちだったかは覚えていない。


 あれから俺たちは犬がいそうなところを見て回ったり、通りすがりの人に聞き込みをしていきながら犬を探した。鍬鋤さんなんか人一倍頑張っていたように思える。だが犬は見つからなかった。


 犬を探し始めてから、随分と時間が経過したはずだ。しかし犬の姿はおろか、手がかりすら掴めないままだった。マジかよ・・・・・・


 腕時計を確認すると、時計の針は6時を指している。1時ぐらいから犬探しを始めたので、かれこれ5時間近く経過していることになる。日はとっくに傾きかけていて、すでに太陽の一部が地平線の向こうに消えていた。


 「政無・・・・・・本当にすまない。こんな遅くまで付き合わせてしまって・・・・・・」


 申し訳なさそうに鍬鋤さんが謝ってくる。隣の男の子に至っては顔面蒼白で正直見ていられない。


 「まだ完全に暗くなるまで時間があります。それまでなんとか探しましょう」


 俺にはこう言うぐらいしか出来ない。俺は主人公でもなんでもない、唯の高校生だから。


 「・・・・・・もう、無理に付き合う必要はないんだぞ?」


 「自分が好きでやっているんです。それに、このまま家に帰ったら後味悪いじゃないですか」


 鍬鋤さんの発言にやんわりと反対する。もうここまできたら見つけないとムカつくし、鍬鋤さんに言ったように後味が悪い。せめてもう少し粘りたかった。


 「・・・・・・そうか、政無は随分と優しいんだな」


 「そう言っていただけるとありがたいです」

 

 別に優しいとかそう言うのではない。さっきも言った通りこのまま帰るのは気分が悪いからやっているだけだ。


 さて、どこからかひょっこりと現れてくれないもんか・・・・・・ん?なんだあの影?まさか・・・・・・


 遠くに見えた小さな影がどんどん大きくなってくる。影はこちらに近づいてきて・・・・・・


 「あっ、ラッキー!!」


 さっきまで死にそうな顔をしていた少年が名前を呼ぶと、あっという間に犬が近づいてきて少年に飛びかかってきた。そのまま少年が押し倒され、顔を舐められている。


 まあ何はともあれ見つかって良かった。隣の鍬鋤さんの方を見ると、彼女も心なしか安堵しているような表情だった。


 「お姉ちゃん!!お兄ちゃん!!本当にありがとうございました!!」


 発見した犬に首輪をつけてから少年が俺たちにお礼を言ってきた。ぶっちゃけ俺、そこまで活躍してないんだけどな・・・・・・


 「次はちゃんとそばに居てやるんだぞ」


 鍬鋤さんはそう言って少年の頭を軽く撫でる。少年は照れた顔をした後、犬を連れて帰っていった。


 「改めて言うが、今日は本当にありがとう」


 「いえいえ、自分なんかそんな役に立ててないですし・・・・・・」


 俺に向け深々と頭を下げる鍬鋤さんに対して、俺はそんなことないと繰り返す。実際犬が見つかったのもほとんど偶然だし、ぶっちゃけ言って俺居なくても見つかってたような気がする。


 「いや、政無が居てくれたおかげでより広い範囲を捜索できた。政無が居なかったら今より早く探すのを打ち切っていたかもしれない。それに・・・・・・」


 突如鍬鋤さんが俺をじっと見つめてきた。そのいかにも真剣な彼女の瞳を見ると、不思議と背筋が伸びる感触になる。


 「政無が一生懸命探してくれたから、私も頑張れたんだ」


 彼女は俺を見つめてニッコリと笑った。もう日差しは照りつけてこないはずなのに、彼女の笑顔が眩しく感じる。


 「・・・・・・そうですか、ありがとうございます」


 なんと言うか、特に意識していないはずなのに目を逸らしてしまう。俺は褒められて照れているようだ。


 「というか、鍬鋤さんこそ1番真剣に探していたじゃないですか」


 「私は生徒会長だからな、このぐらいは当然だ」


 俺の予想していた通り、いやそれ以上に鍬鋤さんは高潔な精神を持っていたらしい。ほんと生徒の鏡みたいな人だ。

 

 しかし・・・・・・やっぱり生徒会長になるような人ってすごいなあ・・・・・・俺はしみじみとそう感じた。いつも陰謀論者と極右の相手をしている分余計に。


 「それで・・・・・・何回も頼んでおいて悪いが・・・・・・少し頼みがある」


俺が謎に感傷を感じていると、鍬鋤さんがなにやら頼み事をしてきた。まあいいか。


 「いいですよ。何のようですか?」


 俺がそう承諾すると、鍬鋤さんは少しの沈黙ののちに口を開いた。


 「私と・・・・・・私と一緒に世界同時革命を目指さないか?」


 ・・・・・・えっ?

 

 「政無みたいな優しい奴こそ、悪きブルジョワを晒し首にするために必要不可欠なんだ」


 は?え?


 「政無、私は政府なんてもの無くして全ての生産手段を共有するような社会が作りたいんだ」


 ちょっと待って脳の理解が追いつかない。


 「貧富の差とか家柄とか、胸の大小といった格差を全て地球上から無くしたいんだ」


 私怨混ざってるじゃねえか。


 「だから政無、私と一緒に革命を起こそう!!」


 あー完全に理解した。鍬鋤さんは極左だ。なんで生徒会長が極左なんだよ!!!!


 というか極右の次は極左かよ!!!!!!なんで俺の周りはこういうのしかいないんだよ!!!!!!


 

 


 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

毎日俺の隣で陰謀論を囁く石区さん @guripenn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ