第10話 一緒にお弁当を食べる石区さんと結国さん
突然だが、普通の男子高校生だったはずの俺は、現在2人の異常者に付き纏われている。
1人は俺の隣の席に座る高嶺の花こと石区瑠奈、彼女は陰謀論者である。何をどうしたらこんな風に育ったのか。
もう1人は図書室に佇む大和撫子こと結国菊花、彼女は極右思想の持ち主である。どうしてこれが未だ野に放たれたままなのかは不明だ。
どうしてこうなったのかと声を大にして言いたいが、今はぐっと堪えておく。
それで、その異常者共はなぜだか知らんが俺によく絡んでくる。石区さんは毎日暇さえあれば陰謀論を俺の耳へ流し込んでくるし、結国さんはなぜか俺にだけ自身の極右思想を語ってきた。
可愛いは正義ってアレ嘘だよね。だって2人とも本来だったらクラスでも1位2位を争うレベルの美少女なのに、2人を見ても恐怖しか感じ無くなってきているんだから。
ん?なんでそんな話しをしているのかって?そりゃあもちろん・・・・・・・・・・・・
「政無くん、今日のお弁当はどうかしら?」
「私のも良ければあげましょうか?」
この異常者2人に囲まれながら弁当をつつく羽目になったからである。
帰りたい。
ーーーーーーーーーーーーーー
そもそも、どうしてこんな事になっているのか、事態はおおよそ昼休み開始時まで遡る。
その時の俺は、いつもみたいに石区さんと一緒にお弁当を食べていた。これは別にいつものことだったのだが、石区さんが何を思い立ったのかこんな事を言い出した。
「政無くん、今日はお弁当交換してみない?」
・・・・・・特に断る理由は無かった。石区さんの弁当に変なものが入っていないのはこの前弁当を食べさせて貰った時に判明済みだし、味も普通以上に美味しいので特に言うところはなかった。
「・・・・・・分かりました。自分のが口に合うか分かりませんが・・・・・・」
そう言って自分が持ってきた弁当箱を石区さんに差し出す。大半が夕飯の残りを適当に詰めたような代物だが、彼女の舌に合うのかどうかは未知数だ。せめてまずいと思われないといいな。
「それじゃあ、ありがたく頂・・・・・・」
俺が目の前に突き出した弁当箱を石区さんが受け取ろうとした時、2人の間に小柄な影が乱入してきた。
「突然すみません。2人ともちょっとよろしいですか?」
結国さんだった。彼女がいつも通りの柔和な笑みを浮かべながら、突如として俺たちに絡んできた。
「えっ、結国さん!?一体何のようで・・・・・・」
俺は彼女の心意を図りかねていた。俺と結国さんはつい先日『時々でいいから話しをさせて欲しい』という約束をしたばっかりだが、まさかこんな人目につく場所で、しかも隣に石区さんがいる状況でアレな思想を話すとは到底思えなかった。
「いえ、なにやらお二方がいつも楽しそうにお話しをされていらしたので、私も混ぜて欲しいと思いまして。一緒にお弁当でも食べませんか?」
よくみたら結国さんの手には弁当箱が握られていた。混ぜてもらう気満々らしい。
というか石区さんとのやり取りがバレてるじゃねえか。いやまあ特に隠してた訳ではないんだが、それでも俺が石区さんとの同類としてみられるのは嫌だ。俺はただ毎日石区さんの陰謀論を聞いているだけの普通の人間なん・・・・・・よく考えたら普通の人間は陰謀論を毎日聞いたりしなかったわ。
それにしても、俺たち2人の会話に混ぜて欲しいか・・・・・・・・・・・・ちょっと待って、これ下手したらとんでもない事にならないか?
もし仮にである。石区さんが結国さんに思想を吹き込まれでもしたら・・・・・・毎日極右思想の混じった陰謀論を発する悲しきモンスターになりかねない。
そうなったらこの世の終わりである。少なくとも俺は終わる。
俺は石区さんの方に顔を向けた。頼む断ってくれ・・・・・・もし石区さんと結国さんが悪魔合体でもしたらとんでもない事になるんだ・・・・・・だから断って・・・・・・
「いいよ。一緒にお弁当食べよう」
いいのかよ。いやよくよく考えれば別に石区さんには断る理由が無かったわ、失念していた。
「政無くんも、いいよね?」
よくないです、石区さんソイツ超危険なんで離れてください。
「はい・・・・・・・わかりました」
そんなこと言える訳もなく承諾してしまった。断ったら余計に酷い目に遭いそうな気がする。
そうして結国さんが俺たち2人の会話の輪に混ざってきて、今に至るという訳だ。
「なにか食べれないものとかありませんか?」
結国さんはそう俺に問いかけてくる。別に食べられないものはない、食べられないとしてもこの状況では断れない。
「いや、大体のものはいけますけど・・・・・・」
俺がそういうと、結国さんは嬉しそうにして俺の弁当箱にハンバーグを入れてきた。
「はいこれ、どうぞ政無くん」
石区さんんも負けじと俺の弁当箱に唐揚げを入れてきた。結国さんと張り合ってるのかこの人は?
ちなみに、結国さんが俺たちの輪に混ざったことで、弁当箱丸ごとの交換は水に流れた。そのためそれぞれのおかずを交換し合う形になったため、俺の弁当箱からウインナーとよく分からないグラタンみたいなの、その他諸々のおかずが全て消えた。まあこうして唐揚げとハンバーグに化けたと思えばよしとしよう。
「そういえばなんですけど・・・・・・」
分けて貰ったおかずと一緒に弁当を食べていると、結国さんが唐突にこんな事を言い出した。一体何を言い出すつもりだ?
「いつも政無くんに話している事・・・・・・私には話してくれないんですか?」
そう言って結国さんは石区さんの方を向く、突如として話を振られた石区さんは目を見開いて驚いたかと思えば、急に顔を青くして結国さんを問いただした。
「ま、まさか・・・・・・アレが周りに聞こえてたって事!?」
自覚なかったのかよ。なんで真昼間の教室で堂々と陰謀論語っておいて誰かにバレないと思っていたんだよ。
「安心してください。私が勝手に聞き耳立てていただけで、他の人には聞こえていないと思いますよ?」
結国さんのその言葉を聞いて、石区さんはほっとしたように胸を撫で下ろしていた。バレたくないなら学校で陰謀論を語るな。
「まあ聞いたと言ってもほんの少しですから・・・・・・教えてもらえませんか?石区さんがどんな事を考え、何について政無くんに語っているのかを」
結国さんは打って変わって真剣そうな目で石区さんを見ている。俺は彼女が何を考えているのかは分からないし、分かりたいとも思わない。それでも、石区さんを見つめる結国さんからはどこか信念めいたものが感じるように思えた。
「・・・・・・わかった。政無くんと一緒に聞いてくれる?」
「もちろんです。楽しみにしてますよ?」
結局俺と結国さんは陰謀論を聞かされることとなった。正直不安でしかないけどどうしたものか。まあ俺も石区さんの陰謀論には慣れてきたし、流石に大丈夫だと・・・・・・・・・・・・
「香⚪︎県のうどんはね、生きて人間に寄生しているの」
無理だ。俺には石区さんの陰謀論を理解できる訳が無かった、というか他の人類も無理だろこれは。何をどうしたらうどんが生物だと思うんだよ。
「他の地域に比べて、香⚪︎のうどんの消費量が明らかに多いのは人々がうどんに寄生されてうどんを消費するよう知らず知らずのうちに操られているからなの」
よくもまあこんな色んな団体を敵に回せる文言を考えれたもんだ。そのうち世界中に宣戦布告しそうで怖いよ俺は。
・・・・・・しかしまあ、これ聞いた結国さんはどう思うのだろうか?彼女の思想も大概なんだ、もしかしたら石区さんにもある程度の理解を示して・・・・・・
「な、なるほど・・・・・・それは・・・・・・」
結国さんの方を振り向いた俺の目線の先には、石区さんの陰謀論を聞いて引き攣った笑みを浮かべる結国さんがいた。お前も無理だったのかよ。
「これは・・・・・・想像以上です・・・・・・」
眉間を押さえながら結国さんがそう呟く。1回石区さんの陰謀論を聞いててもこうなるのか、結国さんは謎に社会性があるから本気で理解できないものに直面するとこうなってしまうのか。
「確かこの前聞いた時は5Gがどうとか電磁波がどうとか言っていたはずですが・・・・・・」
あー間違って体調悪い時の陰謀論を聞いちゃったのか。それならいつもこんなトンチキな陰謀論言ってると思って身構えたりしないよね。体調悪い時の陰謀論ってなんだよ。
「それでね、香⚪︎県はこのうどん寄生虫を利用して、全国各地で香⚪︎県産のうどんの消費量を上げるべく多数のうどんを売り捌いているわ」
「あ、あの。どうして誰もうどんが寄生虫と気付かないんでしょうか?流石にバレると思いますが・・・・・・」
ついに陰謀論に耐えきれなくなった結国さんが石区さんにツッコミ出した。すごい、昨日まで石区さんよりヤバいと思っていた結国さんが急激にまともに見えてくる。
「それはね、もう香⚪︎県のうどんを食べたことのない人間がいないぐらいに香⚪︎県産のうどんが浸透しきっていて、みんな寄生虫に感染されているからなの。そのせいで寄生虫がどう見ても普通のうどんにしか見えないの、私だってそうよ」
お前はなんで自分でもそう見えないものを寄生虫だと思えるんだよ。自分で考えていておかしいとは思わなかったのかよ。
「そうしてうどんを売って得た資金で、香⚪︎県は九州を四角にして四国に編入、その後四国統一戦争に挑むつもりよ」
なんで九州を四角にする必要があるんだよ。あとうどんから四国統一戦争って論理が14万光年ぐらい飛躍しているぞ。
「す、凄まじい話を聞かせてもらいました・・・・・・」
結国さんがすごい疲れたような笑顔でそう呟いた。もうほんとお疲れ様です・・・・・・
「これは私からも話さないと無作法というものですね・・・・・・」
おい待て早まるな、元々無い正気を疑われるぞ。俺は結国さんに注意しようとした。
しかし、俺が静止する間もなく結国さんは既に喋り出していた。
「石区さん、私は常々一家に一台核弾頭を配布すべきと考えてるんです」
いきなし最大火力をぶち込むな、石区さんと怪文書戦争でもするつもりか。
「え、ええ・・・・・・結国さん、一体どうしたの急に?」
お前が言うな。
「これが本当の私です。私はいつも共産主義者をどう駆除するか考えているんですよ」
お前は喋るな。
俺は目の前で繰り広げられる陰謀論者と極右の問答に頭を抱えた。
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