第7話 図書室で石区さんの事を考える政無くんと・・・・・・

 石区さんの家にお見舞いしにいってから2日経った後の放課後、俺は学校の図書室にいた。理由は単純、少し陰謀論について調べたかったからである。

 

 お見舞いした後、無事に帰りついた俺の頭にはある疑問が存在していた。なんで石区さんはあんなにポンポンと陰謀論を出せるのかという疑問が。

 

 だっておかしいだろ?普通陰謀論なんか自作する人間なんか居ないし、居たとしてもここまで頻繁に作ることは絶対に無い。しかも石区さんのは何をどうしたらそうなるとツッコミたくなるような代物、こんなの違法なお薬使っていようが出力不可能だろう。

 

 故に、今日は石区さんの思考の一部を垣間見るべく、この図書室で調べ物をするという訳である。なんというか禁忌に迫っているような気分だ。

 

 彼女の思考の一部でも知ることが出来るのなら、何言ってきそうか分かるので俺の負担も多分減ってくれると思う。

 

 取り敢えず俺は適当な本を見繕って数冊ほど手に取った後、空いているテーブルの一つに腰掛けた。

 

 さて、まず何から読もうか。えーっと、『陰謀論者の思考について』と書かれた本があったのでざっくり読んでみよう。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 ・・・・・・非常にざっくりとではあるが読み終えた。それで分かったことをおおまかに3つほど挙げるとこんな感じになる。

 

 その1、陰謀論者は確証バイアス・・・・・・要するに信じたい事ばかり信じて都合の悪いことから目を背ける傾向が強いことが多々あるということ。

 

 その2、陰謀論者は懐疑的な思考を行わない。本当かどうかの疑いの目を挟むことをしないのである。

 

 その3、陰謀論者は妙に自信に溢れている。自分の考えを信じて疑わないという訳だ。

 

 ・・・・・・なんだろう、石区さんに当てはまっているのとそうか分からないものがあるんだが・・・・・・

 

 まず最初、陰謀論者は信じたいものしか信じないとあるが、これは俺が実際に反対意見等を言ったことがないので分からない。もしかしたら反対意見を言ったら考えを改めてくるのかもしれない。

 

 次に2つ目の懐疑的な思考についてだが、これは多分石区さんは自説を疑ったりはしないと思うので当てはまっていると思う。少しでも自説を疑っていたらあんな文書は出てこない。

 

 3つ目に関しては綺麗なくらいに当てはまっている。じゃなきゃ、いつも自信満々の顔で陰謀論を流しかけてくる訳ないはずだ。

 

 そう考えると、石区さんは世間一般で言うところの陰謀論者からは若干遠い存在なのかもしれない。いつも話す内容もどちらかと言えばジョーク寄りだし。

 

 いやジョーク寄りでも普通にやべえよ。あれを四六時中考えてる人間が隣とか頭おかしくなるよ本当に。

 

 まあ気を取り直して次の本を読むことにしよう。ええと確か次は『陰謀論者になりやすい人の特徴』って題名の本だな。さっきと内容が同じそうに見えるけど大丈夫かな?

 

 

 

 

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 ・・・・・・おおまかではあるが本の内容が分かってきた。肝心の内容はこんな感じだ。

 

 まず、陰謀論者に陥る傾向のある人間は、合理的な思考をしていない、新しい知識にオープンでない、社会や政治に無力感を感じたり孤独だったりしている人が多いとのことだ。

 

 石区さんは毎回毎回逆RTAでもしているのかと言っていいほど回りくどい陰謀論を話すので、多分合理的なことは考えていない。なんであんな思考でなのに成績いいんだろ。

 

 新しい知識に関しては、石区さんの陰謀論の中に山ほど出てくるので興味関心はあるのだろう。有効活用されてるとは言い難いが。昨日なんか『実は桶狭間の戦いでは戦車が使われていた』とか言い出してたんだぞ。戦国自衛隊かよ。

 

 社会や政治に対しては・・・・・・正直言ってよく分からない。ただ石区さんの陰謀論はどちらかと言えばポジティブな内容で、政府のコレが嫌いとか、社会のアレが嫌と言ったものを感じた覚えはない。ただ怪文書が脳を侵してくる感触はすごく感じるけど。

 

 ・・・・・・となると、もしかして石区さんは孤独に感じていることでもあるのだろうか?つい先日、共働きで両親があまり家に居ないと言っていたし・・・・・・

 

 でも、石区さんにはたくさん友達がいるはずだし、彼氏だって作ろうと思えばいくらでも作れるだろう。黙っている彼女はそれだけの魅力が有る、もう一生黙ってろと思ったね。

 

 ・・・・・・もしかしたら、それが石区さんの孤独なのかもしれない。俺みたいな人間じゃない限り、陰謀論を語られたら普通の人はドン引きする。石区さんもそれが分かっているから俺にしか陰謀論を語らないのだろう。俺はゴミ箱か何かか。

 

 自分の好きを他人に理解してもらえないのは辛い。中学生の時に好きだったアニメの話をして無視された俺から見てもよく分かる。なんか泣きたくなってきたよ。

 

 ・・・・・・しかし、石区さんが自分がどう見られるか理解していたのだとしたら、なんで初対面時に数時間近く陰謀論を話してきたのだろうか?自暴自棄にでもなっていたのか?

 

 思い返してみてもアレはキツかった。なんでかは知らんが落ち込んでいたから声をかけただけなのに、高嶺の花と思っていた人物がまさかの陰謀論者で、すごい勢いで陰謀論を語ってきたから訳が分からなくなったものだ。

 

 あの後3日ほどその時の光景が夢に出てきたんだぞ。拷問か何かかと思ったわ。

 

 ・・・・・・とにかく、今度時間を見つけて話をしてみよう。今日は色々石区さんの思考について考えてみたけど、結局のところ直接本人に聞いてみるのがいいような気がしてきた。

 

 石区さんは石区さんだ。どんなことを考えていようと、異常なくらい陰謀論を愛していること以外は普通の女の子だというのは変わらないと思うし。

 

 新たな決意を胸に秘めたところで俺は本の続きを読むためにページに目を・・・・・・

 

 「もうそろそろで閉室ですよ、政無さん」

 

 耳元でどこか優しげな声が聞こえた。びっくりして声がかけられた方に振り向くと、小柄で清楚そうな少女が俺のすぐそばに佇んでいた。

 

 誰だ、この人は。俺は虫食いだらけの脳内名簿帳から必死になって名前を探し出す。ええと確か全校集会で発表していた・・・・・・

 

 「結国さん、だったっけ?」

 

 「そうですよ」

 

 図書委員会委員長の結国菊花ゆいくにきっかさんだった。確か活動報告か何かで壇上にいたのを思い出した。

 

 「どうして俺の名前を?」

 

 「同じクラスの人ですから」

 

 そうだった。結国さんがクラスメートだったことを完全に忘れていた。人の顔を覚えるのが苦手とは言え、せめてクラスメートの顔だけでも覚えておいた方が良かったなと後悔する。

 

 結国さんはクラスの中でもかなり背が低い部類に入る少女で、若干童顔な顔立ちと肩まで切り揃えられた黒髪が清楚ながらも可愛らしい印象を放っている。

 

 性格は誰にだって優しく丁寧で、柔和そうに微笑む姿も相まってまさに大和撫子と言った装いとなっている。

 

 成績も優秀で、確か小説の新人コンクールで賞か何かを取るほどの腕前が有るすごい人間だ。羨ましいことこの上ない。

 

 それに・・・・・・ナニがとは言わないが、デカい。それはもうすっごいデカい。宇宙空間に存在していたら引力で周りの小惑星を引き集めていって、最終的に惑星になりそうなぐらいデカい。

 

 まさにデカメロンである。ボッカチオもきっとそう言うだろう。

 

 身長が小柄かつそれに見合わぬ代物を抱え込んでいる彼女は男子の間でもすごい人気で、時々俺の耳にも彼女の噂話・・・・・・大抵は下品な下ネタ・・・・・・が流れ込んでくることがあったのだ。

 

 彼女とは一度も会話をしたことは無かったのだが、何処となくおっとりした印象を抱いている。

 

 「ああすみません、ちょっと本棚に本を直してきます」

 

 俺はテーブルの上に散在した書籍を手に取り、元の場所に戻すべく立ち上がった。閉室ギリギリまで居座っていたのだ、出来るだけ早く片付けねば。

 

 「お手伝いしますよ。その方が効率がいいと思いますし」

 

 彼女は優しく微笑みながら俺にそう持ち掛けてきた。この人聖人か何かか?限界ギリギリまで居座っていた奴を追い出さないばかりか、あまつさえ手伝いを申し出てくれるなんて!?

 

 「・・・・・・本当に申し訳ありません・・・・・・」

 

 「いいんですよ。あんなに熱心に本を読んでる人、滅多にいませんからね」

 

 彼女のあまりの優しさに涙が出そうになる。なんでこの人は人にここまで優しく出来るんだ・・・・・・!?

 

 とりあえず全ての本を手に取って本棚の元あった場所に戻しに行く。空いたスペースに本を直していくうちに、一つだけ何処から取ったか分からない本があった。

 

 「その本はそこの棚の2番目の段ですね」

 

 しかし、結国さんがすかさず教えてくれたおかげで、すぐに仕舞うことができた。これで作業は終了した訳だ。

 

 「本当にすみません・・・・・・色々助けていただいて・・・・・・」

 

 「いいんですよ。私が好きでやったことですから」

 

 やはり彼女は慈愛の塊である。俺の胸元までしかない背丈の身体に、彼女は優しさとか奉仕の精神をはちきれんばかりに詰め込んでいる。優しすぎて泣きそうだよ・・・・・・

 

 ・・・・・・石区さんとも、こんな風に陰謀論抜きで出会いたかったなあ・・・・・・

 

 自分の胸に言いようのない後悔が広がる。石区さんが陰謀論者じゃ無かったら、そもそも俺と一言も話さずお互い学校生活を終えていたかもしれない。それでも俺は、あり得たかもしれないifを想像せずにはいられなかった。

 

 「うわっ!?」

 

 そんな事を考えていたら、突然棚と棚の隙間から蜘蛛が飛び出してきた。思わず片手で叩き潰そうとしたが、突如柔らかい感触の腕によって止められた。結国さんの手だ。

 

 「その子は人を噛みませんし、害虫を食べてくれるいい子です。潰しちゃ駄目ですよ」

 

 やはり彼女は優しい。虫の1匹にもこうして慈悲に心を見せるとか聖女かなにかか?俺は直前までそう思っていた。

 

 彼女が次に言い放った言葉によって、俺は凍りついた。

 

 「いいですか?殺していいのは共産主義者と売国奴だけですよ」

 

 なんで・・・・・・なんでよりにもよって結国さんが極右なんだよ!!!!!!!!!!!!

 

 

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