第二章 『学園最強決定戦』

第2話 『学園最強の魔法使い』

 ――この学園には、伝統的な祭事が存在している。

その学園祭とは『剣魔弓祭』と云う、『学園最強』を決める行事だ。


 この学園には三つの戦闘分野を学ぶ学問が特設されており、全学生はその中から一つを選択して授業を受ける事になっている。一つは新華と桜の選択した科目『魔法数学Ⅳ・D』、魔法使いの知識を養成する分野だ。そして、剣術を学ぶ事で直接的な戦闘能力を高める分野の『剣術式学』、最後に弓やクロスボウ等の長距離武器の使い方を学ぶ学問の『弓術式学』の合計三種類だ。


 ――一番人気は『剣術式学』であり、その次は『弓術式学』。そして残念ながら一番生徒数が少ないのは『魔法数学Ⅳ・D』である。人気が無い理由は正直な話明白であり、数学と云う明らか専門的過ぎる知識を要し、それを全て使いこなせる事を当然として要求してくるからだろう。

 魔法数学に対して他の剣術式や弓術式は自身の身体能力や戦略性を必要とするものであり、比較的簡単に習得出来ると考えられている。


 ――では何故、新星・魔法使い事箒星新華は魔法数学を専攻したのだろうか……。

答えは至って簡単で、僕には剣術や弓術を体得する様な、潜在的能力が無かったからだ。新星・魔法使いは小柄なのが特徴と云う話もしたが、小柄であると云うのは言い換えれば大きな武器を振るう事は出来ないと云う事になる。


 ――そして僕には、長期戦や直接戦闘を耐えしのぐ様な体力も無いのである。


 ――僕が選ぶべき道は初めから決まっていたと言う訳だ――


 そして今日はそんな『剣魔弓祭』の日。今日という日だけはこの学園が実力主義となり、強い者が栄光を掴む日と言う訳だ――




 ――剣魔弓祭当日の朝、新華はいつもより早く目が覚めた。

この学園に入学したのは今年の出来事だが、僕はこの日が楽しみで仕方が無かった。


 新星・魔法使いとしての実力を余す事無く発揮する事も出来るし、例えそうで無くても今日だけは誰かから冷酷な視線を向けられる事だって無い。


 悪魔と呼ばれる僕が今日だけは……今日だけは恐らく新星・魔法使いとして見られる事になるのだ。


 ――そう思うと、そんな機会を設けてくれた学園にも少し感謝したいと思った。

……学園の暗黙の了解の所為で僕が悪魔と呼ばれているのは許さないが……。


 ――そんな事を考えながら僕はベッドから出て、正装に着替える事にした。


 「今日は……『魔法正装』での参加が必須だったっけ」


 剣魔弓祭は学園一の最強を決める祭事であり、普段は絶対に関わる事の無い生徒とも手を組んだり対峙したりしなければならない。運営に支障を来さない為にも、魔法使いは魔法使いであると云う印が必要と云う訳だ。


 「……正直あんまり身に着けたくは無いけど……」


 ――新星・魔法使いの魔法正装は正直な話をすれば目立ち過ぎる。

深海の様な暗い青色を基調とした金色の装飾を施した衣装で、赤色のマントを金色のペンダントで首元で留める。そして……一番目立つのが新星・魔法使いの証とも言える大きな王冠と純金で作られた星型の髪飾りを付ける……。


 鏡で見なくても分かる目立ちたがり屋な装飾達を身に纏わなければならないのだ。


 少し嫌な感じはするが、着なければ決定戦の舞台に上がる事さえも叶わない。仕方無く、僕は新星・魔法使いの衣装へと着替えた。


 「……頭が重い……これで戦えるのだろうか……」


 頭に載せた王冠は重厚な金属で出来ている。威厳はあるがその重量は凄く重たい。

因みにだが、魔法使いでこの王冠を頭に載せたのは僕が初めてとの事だ。

 今までの上位魔法使いの称号は最高が『幻魔法使い』だったらしく、僕がこの学園に入学すると同時に新しく作られたのが『新星・魔法使い』の地位だそう。


 ――それだけ僕の実力が異常なのだろうか。


 「……早速学園に向かいますかね」


 どうやら今年から剣魔弓祭の規則が変更されるらしく、その関係で僕は早めに会場へ来る事と言われている。遅刻したら、相当面倒な事態を招くだろう。


 ――僕は着慣れない衣装を身に纏って、学園へと駆け出した――




 ――Side 月夜桜――


 剣魔弓祭の当日、私こと月夜桜はいつもより早めに学園へと向かっていた。普段は身に纏う事の無い紺色のローブと桜の花弁を模した桜色の髪飾りを身に着けて、いつもは通らない近道を通って通学していた。


 ――見慣れない景色に着慣れない魔法正装。全てが新鮮に感じた。


 晴れ晴れとした空が広がり、夏の日よりも涼しい風が吹いている。学園最強を決める日としては申し分ない程の好天候だ。


 ――私はそんな事を考えながら、学校へとひたすらに歩いた――




 ――正門を潜り抜けて校庭に入ると、既に準備が進められていた。

剣魔弓祭の実行委員や、主催を担当する教員達が道具の設営をひたすら続けている。

 私も手伝おうと設営本部の方へと走った。


 「……おっ、桜、おはようさん。手伝いに来てくれたのか??」


 「おはようございます、リース先生。……新華さんが運営担当を任されてると聞いたので、私も手伝う事にしたんです」


 「……そうか……ただそうだな……実は仕事は殆ど無いんだよな」


 「……忙しそうに見えるのは、私だけでしょうか」


 準備を進めているのは、三十人にも満たない。少数で会場の設営を進めている訳だから、仕事が殆ど無いとは思えない。


 「……ここから進めて行くのは、力仕事が殆どだ。新華とか桜に任せるのは少し……申し訳無い部分があるからな……」


 「私も魔法使いの一人です。力仕事だって魔法を組み合わせれば簡単です!!」


 ――私は誇らしげにそう言ってみた。


 「本選の前に魔法エネルギーを使い過ぎるのは勿体無い。数Ⅳ・Dを学んだ生徒として、お前と新華には期待したい部分が先生としてはあるんだ。……だからその意志を曲げる様な事を言って悪いが、手伝いはあまり任せられない」


 「……そうですか……分かりました」


 ――リース先生としても、私達魔法数学者には期待したい部分があるのだろう。ならば今まで授業で学んだお礼の為にも、本選で本領発揮が出来る様にするのが、私達の筋と云う物だろう。


 「……何かお手伝い出来る事があれば、何でも言って下さいね」


 ――私はそう言って、他の場所へと向かう事にした。

どこか手伝える場所が無いかと探していると……少し珍しい様相が目に飛び込んできた。只者では無い様な、そんな絶対王者の風格にも近い。そんな姿だった。


 ――気になった私は、目に飛び込んで来た姿に近付いてみた。


 「……あら、新華さんだったのですね。おはようございます!!」


 「……おはようございます、桜さん。朝早くからありがとうございます」


 彼は平然と挨拶を返してくれた。いつもとは違う魔法正装に違和感はあったが、暫く見つめていれば平然と感じる様になった。


 大きな王冠と、冷静な様子を感じさせる青色の衣装。絶対王者の様な風格を漂わせる赤色のマントと王冠。金色のふわふわとした髪には星型の髪飾りが付けられている。いつも被っている小さめのエナンが王冠に変わっている姿は少し違和感だが……これはこれで似合っている様に思えてきた。


 「……やっぱりこの衣装ごちゃごちゃしてますよね……」


 「いえいえ、凄く似合ってると思いますよ!!」


 ――私がそう返事をすると、彼は不思議そうな顔をした。


 「装飾もきちんと纏まりがある様に見えますし、王冠も新星・魔法使いさんの確固とした実力を誇示している感じで様になっていると思います」


 「……目立つのであまり好きでは無いのですよね」


 ――そっか、私の新華さんは新星・魔法使いだが、他の人達からしたら彼の第一印象として挙がるのは悪魔と云う二文字だ。

 ……彼はそこを気にして、この正装の目立ち具合が気にかかっているのだろう。


 「……目立っていても、私としては良いのではと思いますよ。折角の機会ですし、ここで新華さんの強さと云う物を見せてやりましょう!!」


 「……そうですね。お互い頑張りましょう!!」


 ――新華さんはそう言って微笑んでくれた。悪魔と言われているとは思えない位に明るくて、優しくて惹き込まれる様な、まるで天使の様な笑顔だった。


 ――やっぱ、彼は悪魔と呼ばれる人なんかじゃないんだ――


 「……じゃあ、来て貰った事ですし、一つ桜さんにお願いしたいと思います。この周辺の設営は他の人に任せているので、僕達で観戦席の準備に向かいましょう」


 「はい、分かりました!!」


 ――私はそう元気に返事をして、新華さんと一緒に観戦席の準備へと向かった――




 ――Side 箒星新華――


 ――暫くすると生徒達も集まり、遂には剣魔弓祭の開会式が幕を開けた。


 参加する生徒達も拍手喝采で開会式を盛り上げ、好調なスタートと云った感じだ。


 「……では、剣魔弓祭の新規定をご説明頂きたいと思います。では、本学祭の主催長、リース先生よりご説明をお願い致します」


 ――リース先生は一礼し、新規定の説明を始めた。


 「……前年の剣魔弓祭では、数人の怪我人が確認された事により、本年度からは新たに規定を加える事とする。怪我人数を減らし、可能な限り安全に遂行出来る様に、参加者は規定を遵守する様に」


 ……前年度の剣魔弓祭は少し熾烈な物だったと聞いた。

稀に見る大火力の魔法が飛び交ったり、剣術も弓術も最高クラスの実力者達が対峙した事で、重傷を負う者も少なくは無かったと云う。……幾ら現代技術や魔法学が発展しているからと言って、負傷者は増やしたくない。

 今年度の規定変更は、賢明な判断だと思う。


 「……第一、全ての参加者はフィールドに立つ際に、防御結界を張らせて貰う。そして決着はその防御結界が破壊されたと同時に宣告させて貰う」


 「主催者!! 流石に俺達剣士に不利過ぎやしねぇか!?」


 「遠距離から狙い続けられたら、私達に勝ち目はありませんわ」


 ――周囲の生徒達から批判的な声が相次いだ。

それもお見通しと云わんばかりに、リース先生は次の規定を公表した。


 「……第二、弓術・魔法系を使う生徒は原則として、フィールド内での攻撃上限数以内での攻撃を行う事とする。……攻撃の連射や上限数については、戦闘開始前に審査官より伝達する」


 ――その声に対しては、誰も批判的な意見は出さなかった。

恐らく前年度は、無制限に攻撃出来た遠距離特化型の生徒が無双したのだろう。


 「……第三、これが一番重要なのでよく聞いておく様に」


 ――リース先生は一息置いて、その重要な規則と云うのを告げた――


 「……第三、本大会より、参加権は二名一組に与える事とする……」

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『悪魔』と言われた僕は、学園一の『天使』と恋をした 箒星新華 @Houkiboshi-Shika

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