『悪魔』と言われた僕は、学園一の『天使』と恋をした

箒星新華

第一章 『二人の出逢い』

第1話 『悪魔』と『天使』

 ――この学園には、幾つもの『暗黙の了解』が存在する。

あの人と関わってはいけない。あの人に話しかけられてはいけない。

 嘘の様な、でも本当だったらどうしよう……。そんな学園で生活する生徒全員に知られている様な話が『暗黙の了解』だ。


 ――そしてこの学園には、こんな暗黙の了解が存在する。


 ――悪魔と呼ばれる生徒には近寄ってはならない。もし近づき、そして交友を持つ事になれば、何か良からぬ事が起こるだろう――


 何とも抽象的な表現で語り継がれて来たそのルールには、絶対的な信憑性があると云われている。疑う者など……誰一人として居なかった。

 この学園には必ず『天使』と誰からも云われる様な存在が一人居るらしい。それを決めるのは誰なのか、それとも元よりそう言われているのか、それは誰にも知られていない。……そんな天使の反対が、『悪魔』と云う訳だ。


 ――そして、この学園の悪魔とは……僕『箒星新華』の事らしい――

 悪魔と云う異名を持つ僕は、人に対して興味が無い事で知られている。入学式以降誰にも話を持ち掛けた事は無かったし、誰からも話し掛けられる事は無かった。


 ――そんな悪魔と同時に、とある『天使』もこの学園に入学して来た。

 学園一の人気者でもあるその天使とは、『月夜桜』。容姿端麗で文武両道、更には誰に対しても優しく微笑んで接してくれると云う、誰もが認める天使だ。


 ――天使と悪魔は正反対とは、上手く表現した物だと思う。

前者は誰から見ても明確な様であり、それに対して誰かが異議を唱える事なんて無い。そんな存在が居るからこそ、僕の様な人間は悪魔だと云われるのだと思う。

 悪魔は文字通りでは無い事も多いと思う。……道徳心に欠けるとか、行動が不振で何か恐ろしく感じるとか、そんな理由で悪魔と呼ばれる事は無かったのだ。


 ――簡単に言ってしまえば、悪魔は第一印象の問題でしかない。

月夜桜がどんな人なのか、そして僕がどう思われているのかなんて全く分からない。ただ、僕は悪魔と呼ばれる程に最低な人間では無い……そう信じたい。

 ただ、一度付き纏った印象はそう簡単には払拭出来ないのが事実だ。この学園に居る間、僕は言いがかりの様な感じで悪魔だと言われ、月夜桜は天使だと誰にでも認められて来た。


 ――僕は悪魔だと言われ続けるしか無いんだ――

天使にも、そんな異名を持たない存在と肩を並べる事さえも叶わない。

そんな学園の『嫌われ者』でしか無いんだ……。


 ――今の僕は、そうとしか考えていなかった――




 ――ある日の昼下がり、箒星新華は屋上で本を読んでいた。

暑い夏もそろそろ終わり頃を告げる様に、先日までの暑さは快適な涼しさを見出し、湿った居心地の悪い風も爽やかで心地良い暖かさを与えてくれる様になった。


 そんな中、僕は屋上でただ一人、本の中の世界に夢中になっていた。

学園一の『塩対応』と以前まで呼ばれていた新華。その存在は過去には同じ学園に通う生徒を魅了した事もあった。滅多に口を開かない僕が、誰かと会話をしたとなればそれだけで人を惹き付ける事が出来た……そんな時もあった。


 ――でも、この学園ではそうは行かなかった。

僕と云う人間は、塩対応と言うよりも会話力が欠如していた。コミュ力が圧倒的に弱く、誰かと話をしたりする事が苦手で仕方が無かった。それが理由で、誰かと会話をする事が無かったが為に、以前は塩対応と言う肩書きが付いていた。


 ――今思えば、『塩対応』だと思われていたのは、良かったのだろう。

この学園での僕は塩対応ではない。……典型的な会話を拒む、少し感じの悪い人間なのだ。塩対応と聞けば、一部の人達は悪いと感じずに受け入れてくれた。ただ、それがこの学園では『悪魔』になったら……誰も近づく筈は無いのである。


 以前の学園には暗黙の了解なんて存在しなかった。だから僕は感じの悪い人間では無く、塩対応の人間として見られる事を許されていた。そんな人間が、好印象の『天使』とその対の存在『悪魔』が居ると微かに囁かれている学園へと来れば、何か悪い印象が付き纏うのは必然なのだ。


 この学園に通うこんな僕に、誰かが近づいてくれる事は勿論無い。

そんな訳で仕方無く、僕は静かな場所で本を開いて現実から目を背けていた。


 「……はぁーっ。暇だなぁ」


 この学園に入学したのは、半年も前の事になるのだろう。最初は何も思わなかったが、最近になってから凄く暇だと感じる時がある。……僕がまだ塩対応と思われていた時は、時折誰かが話し掛けてくれた。だからこそ、別に暇だとは思わなかった。


 ――悪魔だと言われているからには、仕方の無い事なのだろう。

当たり前だが、悪い印象が付き纏う人間に近づきたくは無い。例えそれが間違っていたとしても、僕だって印象が悪いと思われるのなら近づこうとは思わない。ましてや、誰も疑わない暗黙の了解が『近づいてはならない』と言うのであれば、猶更僕に近づいてくれる人なんて居る訳が無い。


 ――暇だと思いつつも、呆然と空を見つめて時間を潰していた時、僕の目の前に見慣れた人が現れた。


 「……今日もここに居たんだな、新華。調子はどうだ??」


 大柄で威厳のある声で僕にそう話して来たのは、僕のクラスの担任『リース先生』だ。担当教科は『魔法数学Ⅳ・D』で、その名の通りこの世界で一番現代的な数学分野を学べる学問だ。……因みにだが僕は数学Ⅳ・Dが一番得意な教科で、その実力は学園一位だと言われている。


 「……逆にどう見えるのか聞いてみたいなと思う今日この頃です」


 「……自分でも分からないと言う事か??」


 「……言ってしまえば、そう言う事です」


 この学園に入ってから、自分の事が分からなくなった気がする。それこそ魔法数学はリース先生のお陰で得意だと分かったし、その辺りは良いのだが、肝心の自分の事が分からなくなった事も、最近は本当に多くなったと思う。


 「……そうだなぁ、最近は数Ⅳの成績も伸びているし、上位魔法使いに匹敵する知識量は賄っていると思う。……数Dの方もこれから更に成長してくれるとは思うぞ。……ただ、最近のお前はどうも元気が無い様に思うな」


 「……やっぱりそうですよね……」


 ……何となく、自分でも分かっていた。最近の自分は元気が無いと言うか……何か違和感を感じざるを得ない場面が多かった。


 「……悪魔って言われているのが気がかりなのか??」


 「……リース先生もご存知なのですか??」


 ……驚きだった。リース先生は生徒との関りも多いので、知っている可能性は勿論考慮していたが、本当に知っているとは思わなかった。

リース先生の情報網、恐るべしと言った感じだ。


 「……そりゃあ、魔法数学を選択した生徒から色々と情報は聞いているからな」


 「……なるほど。そう言う事なのですね」


 「……これを言ったからってお前が楽になるかは知らないが、悪魔って言われている以上に何か他の印象を持たれている事は無かった。……ただ、そう言われているから近付き難いとは思われている様だがな……」


 「……僕ってそんなに悪魔に見えますかね??」


 「天使の反対が悪魔。それは色んな物語とか魔法数学でもある程度知られている。だからお前は悪魔って言われてるだけだ。……天使が居るから反対は悪魔。それが故にこの学園の伝承でそうなっている。誰もお前の事を悪魔みたいだとは断定していないと先生としては思う」


 ……確かに、リース先生の言った通りだ。この学園に本当の『天使』も『悪魔』も存在しない。言ってしまえば、その人の特性を比喩としてそう言っているだけに過ぎない。別に僕が本当の悪魔だと思っている人なんて居ない筈なのだ。……ただ悪魔と言う印象があまり良くないが為に、近付きたくないと思われているだけなのだ。


 「……天使が居るから、僕は悪魔って形容されていると言う訳ですね」


 「そう言う事だ。そこまでこの伝承を重んじる必要なんて無いと思うし、嫌ならお前がそう呼ばれる筋合いは無いって数学で証明してやれば良い」


 「どうやって数学で証明してやるって言うんですか」


 「数学は何でも解決する。先生はそう信じてこの学園に居るからな!!」


 ……胸を張ってそう高らかに宣言するリース先生が何故か勇敢に見えた。ただの数学狂信者か謎理論を押し付けているだけの発言にしか聞こえないと思うのだが、今の僕にとってはその言葉も深く、そして勇敢な様に感じた。


 「そうですか。ありがとうございます、リース先生」


 「……困ったら何でも言ってくれよ。あと、午後からの授業には遅れない様にするんだぞ。……遅れたら魔法定理の授業はお前に丸投げするからな」


 「大丈夫ですって。遅れない様にしますから」


 ――僕がそう応えると、リース先生は満足気な表情で屋上を後にした――


 「……数学が何でも解決する……面白い世界だね」


 面白いとは思うが、そこまで数学は便利じゃない。それに、魔法数学Ⅳ・Dは魔法と数学の融合であり、魔法がメインだ。数学がメインの学問では無い。


 ただ、リース先生がそう言うのなら数学は何かを解決してくれるのだろう。


 ――僕はそんな事を考えながら、授業を丸投げされない為にも、早めに教室に戻ることにしたのだった――




 ――魔法数学の授業はあっという間に終わり、放課後の時間が訪れた。


 結局授業に遅刻はしなかったが、魔法定理の授業は僕が担当する事になり、「悪魔が異常に得意気なのは何故だ……」と言う目を全員に向けられた。


 ただ、僕はその視線を気にする事は別に無かった。魔法数学の分野は主席の僕の独壇場なので、授業の内容を間違って教える事も全く無いし、僕も目の前の定理に集中してしまえばそれ以上の事を気にする必要が無かった。


 ――そんな感じで魔法定理の授業を終わらせた僕は、先程必死に板書を連ねた黒板の文字を消し去っていた。隣ではリース先生が生徒の質問に答えている。

僕の授業が分かり難かったのか、それとも僕の授業だと正しいと信じるに値しないのか、いつもより生徒達が先生に質問をしようと殺到していた。


 (……リース先生が授業した方が良いって言ったのに……)


 そんな事を考えながら僕が黒板を消していると、珍しい事も起こるもの、僕の肩を誰かがそっと叩いた。……悪戯の強さではない、こっちに振り向けと言う様な、そっと合図をする様な優しいタッチだった。


 「……はーい。どうかされましたか??」


 僕はそう、授業中のリース先生の返事を思い浮かべながら返事をして振り向いた。


 「……あの……今日の授業で質問がありまして……」


 「……リース先生の方が分かり易いと思いますが……」


 「……いいえ、貴方の授業は相当分かり易かったです。それに……リース先生はちょっと……私は質問するのが苦手なので……」


 ――質問をしてくれた少女は遠慮気味にそう呟き、再度僕の方へと向き直った。


 「……なので、教えて貰っても良いでしょうか??」


 「……勿論です。魔法定理の分野は話すと長くなりそうなので、どうぞお座り下さい。僕も板書しながらお話させて頂きますので」


 ――僕がそう言い、少女に座る様に促すと、少女は目の前の席に座った。


 それを確認した僕は白色と黄色のチョークを手に取り、一見すると記号の羅列にも見える魔法数学の式を書き出した。


 「……まずですが、魔法定理は魔法陣の書き方のルールとなります。一つの決まりが、必ず円形のグラフと特定の図形を描写する数式である事。そしてもう一つは、全ての式に同じ定数が用いられる事。……ここまでは大丈夫でしょうか??」


 僕がそう言うと、少女は首を縦に振った。


 「はい、では先程よりも少し初歩的な魔法に魔法定理を当てはめて行きましょう」


 ――そんな感じで、僕は質問をしてくれた少女に説明を続けた。

五分も掛からずに終わるつもりだったが、予想よりも時間が過ぎてしまい、気づけば空が藍色に染まる時刻になっていた。


 「……はい。これが魔法定理の内容です」


 一通り説明を終えた僕はチョークを置き、少女の方を向いて言った。


 「……ちょっと長くなり過ぎましたね……ごめんなさい」


 「いえいえ、沢山教えて下さりありがとうございました」


 目の前の少女はそう応え、笑顔を見せてくれた。優しくて、一切の曇りが無くて、僕が悪魔だと言われていると知らない様な笑顔を見せてくれた。


 「……また教えて貰っても良いですか??」


 「良いですよ。僕で良ければいつでも聞いて下さい」


 「ありがとうございます。では、私はこれで!!」


 ――少女は元気にそう言って、教室から出て行った。


 「……数学は何でも解決するもんだろ??新華」


 先程のやり取りを見ていたリース先生はそう言って、僕の肩に手を置いてきた。


 「お前の事を悪魔だって言って拒まない人だって居るんだ。それにお前は魔法数学を通して気づいた。ほらな、数学の可能性は無限大だろ??」


 「そうですねぇ。数学の可能性は素晴らしい物だと思います」


 ――明らかな棒読みで僕はそう返事をした。


 「……それにしても新華、お前には魔法数学の授業の才能がある。ここからはお前と先生で授業を進めて行こうと思うのだが、賛同してくれるか??」


 「……二人で全員を教えても変わらないと思うのですか……」


 「いや、そうじゃなくて。さっき質問してくれた感じを見たんだが、前の単元と今の単元が区別出来ていない感じだった。だが、知っての通り魔法定理は数学Ⅳで一番難しい箇所だ。でもそこは殆ど全員が理解出来ていた。……だから新華、これからの数学Ⅳは習熟度でクラスを二つに分けようと思う」


 「……真面目にそう言うのは勝手ですが、僕は先生ではありません」


 「……『新星・魔法使い』が何を言ってるんだ。この世界で魔法使いと言えば、それはもう殆ど教師の資格を持っているのと変わらないだろ」


 ――痛い所を突いて来る。確かに僕は新星・魔法使いであり、この学園の魔法数学を学んでいる生徒の中では群を抜いて実力があると言われている。

ただ、僕もあまり教壇に立ちたいとは思わないし、授業もしたくは無い。


 「……まぁ先生から強制する事は出来ない。次の授業までに決めて、それでもし良いと言ってくれるのなら、習熟度別授業を始めようと思う」


 「……分かりました。考えてはみようと思います」


 ――僕はそう言って、荷物を纏めて外へと出た――




 ――この学園には、『魔法使い』の称号が存在している。この学園の魔法数学を学ぶ生徒の中で、上位五人に与えられる称号が魔法使いだ。上位から『新星・魔法使い』『幻魔法使い』『新魔法使い』『大魔法使い』『旧魔法使い』の五つであり、僕は最上位の新星・魔法使いの称号を得ている。


 ――それもあってか、色々と変な目で見られる事も多い。


 ――そんな事を考えながら、僕は学校の正門を後にした――


 今日もいつも通り、一人で帰る事になるのだろうか。それとも、以前に通っていた学園の知り合いと偶然出会うなんて事が起こったりするのだろうか。


 ――そんな事を考えていると、またも意外な出来事が起こった。


 「……こんばんは、新星・魔法使いの箒星新華さん」


 ――正門の横から声と同時に先程の少女が顔を出した。


 「……どうも……こんばんは」


 「……驚いてくれませんでした??」


 「……驚いた方が良かったでしょうか……」


 「……驚いて下さった方が面白かったです。でも、その薄い反応も新華さんらしいなって……私はそう思いますよ」


 先程とは違い、凄く親しみのある話し方を続ける少女に、僕は少し戸惑いが隠せずにいた。油断すると、彼女の流れに完全に負けそうだった。


 「……期待に応えられなかったみたいですね……」


 「……そう気を落とさないで下さい。あと、今日の授業も、そして授業後もありがとうございました。凄く分かり易くて、流石新星・魔法使いさんだって思いました」


 「いえいえ。僕としても凄く進め易くて助かりました」


 「……新星・魔法使いの称号には、私も憧れていたんです。……あともう少しで旧魔法使いって所まで来たので、どうにかあと少し頑張りたいと思っていましたので助かりました!!」


 「……後少しなのですね。頑張って下さい、応援してます」


 ――どうやら魔法数学の順位で見れば六位の様だ。確かに説明をした感じからも、相当な実力者な事は何となく察していた。


 「……ありがとうございます!! あと、私から一つ良いですか??」


 ――少女は再度僕の方を向き直り、小さく息を吸って続けた。


 「……その……実は……私、貴方の事が好きだったんです」




 「実は私、貴方の事が好きだったんです」


 ――それは突然の言葉だった――

悪魔と言われ多くの人から遠ざかられ、そして自分さえもそう言われるしかない僕を嫌悪していた。そんな自分に、少女は突然の告白を始めた。


 「悪魔と呼ばれている貴方の事……私も少し怖いと思っていたんです。……そう言われる何かを抱えているのかな。そう言われる様な事をする人なのかなって、初めて同じ授業を受けた時は少し怖かったんです。でも、少し前に気付いたんです。悪魔と呼ばれる貴方よりも、貴方を悪魔と言う人達の方がずっと怖い人達でした。それに、貴方は怖い人じゃ無かった。私が声を掛けたら優しく接してくれた貴方は、悪魔と呼ばれる様な、そんな人じゃ無いって気づいたんです」


 ――彼女はそう、言葉を続けて行った。


 「……私はそんな貴方が、悪魔と言われながらも本当は心の底から優しくて、悪魔なんかじゃないと思わせてくれた貴方の事が……大好きです」


 ――久しぶりに、人に認められた様な気がした。

塩対応と言われていた時の僕とは違う。今の僕とも違う、あの時も今も、僕は誰かに認められる様な人間では無かった。……でも、目の前の彼女だけは認めてくれた。


 ――不思議な感じがして、不思議な違和感を覚えた。


 「……貴方が私の事をどう思っているのかは、私には分かりません。でも……私は貴方の事が大好きです。これから……一緒に居て欲しいです……」


 彼女はそう言って、僕の方へと両手を差し出した。


 ――この日僕は、初めて人に告白された。大好きだって想いを告白された。

ここで彼女の手を握れば、僕は彼女と付き合った事になる。そして彼女は、悪魔だと囁かれる僕と付き合った事になる。


 ――僕の方はともかく、彼女は周囲にどう思われるのだろうか――

そう思うと、僕はこの手を振り払わないとならないと思ってしまう。僕に付き纏う印象の所為で彼女が変な目で見られる様になる。それは避けないとならないと思う。


 ――でも、振り払うのは駄目な気がした――

勇気を出して僕に告白してくれた彼女のその意志を、僕が巻き込みたくないと思う気持ちで振り払うのは、最低な行動だと思ってしまう。


 僕も返事を決めて、言った。


 「……僕も、貴方と同じ思いです」


 ――僕はそう言って、彼女の手を両手で握った。


 「悪魔と言われている僕の事を、そう決めつけずに受け入れて下さった、そんな貴方が、僕も大好きです。この学園で初めて認められて、大好きだって言われて、凄く嬉しいです。……悪魔だって印象を付けられる僕ですが、こんな僕でも良いのなら、是非一緒に居させて下さい」


 「……新華さん……」


 ――彼女は一歩ずつ僕の方へと歩み寄り、僕の事を優しく抱き寄せた。応える様にして、僕も彼女の事を優しく、そっと抱き締めた。


 「……思ったよりも背丈は小さいのですね」


 「……新星・魔法使いは小柄なのが特徴ですのでね」


 ――彼女の方が僕よりも背丈は少し高く、僕の事を包み込むような温かさがあった。子供っぽいと言われ続けた僕の事を、彼女はそっと抱き締めてくれた。


 「……そう言えば、名前を言って無かったですよね」


 ――彼女は僕からそっと離れて、向き直って言った。


 「私の名前は月夜桜。ご存知の通り、天使って呼ばれてるんです」


 「……貴方がその天使さんだったのですね」


 僕の中で合点が行った。容姿端麗で文武両道で、そして誰にでも優しい天使。魔法数学も上位実力者で、そして僕に対しても優しく接してくれて、可愛らしいその姿は天使と呼ばれるに相応しいと思った。


 「……僕は箒星新華。ご存知の通り、悪魔って異名が付けられてます。そして、新星・魔法使いでもあります」


 「……私は貴方の事を悪魔だって思いません。これから仲良くして下さいね。新星・魔法使いの新華さん」


 「……ええ、よろしくです。桜さん」




 ――そうして僕は、学園一の天使と言われる少女『月夜桜』と出逢い、付き合う事になった。


 雪の様な白く美しい肌、青色の透き通った瞳は雄大な青空よりも広く、白色でさらさらとした整えられたロングヘアの髪は天使そのものの姿だった。


 ――数学がこの出逢いの解へと導いたのかは分からないが、僕はこの出逢いを大切にしようと思った。僕の事を認めてくれて、大好きだと言ってくれた彼女の為にも、これからの僕は彼女の事を大切にしたいと思った。


 ――僕はそんな事を考えながら、青色の惹きこまれる様に美しい瞳で空を見上げる彼女の横に並び、星々が浮かぶ雄大な空を見上げるのだった――

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