父の物忘れと落とし物、無くす癖

星咲 紗和(ほしざき さわ)

本編

私の父親は、昔から物をよく無くします。子供の頃から父が「あれ、どこに置いたっけ?」と家中を探し回る姿を見ていたので、特に珍しい光景ではありませんでした。父は整理整頓が苦手で、家中のどこかに物を置いたまま、すっかり忘れてしまうことが多々あります。小銭入れや鍵、携帯電話などの日常的なものならまだしも、時には重要な書類や銀行の通帳まで無くしてしまうこともあります。そんなときは、家族全員が総出で探し始め、やっとの思いで見つけるというのが、我が家ではよくある風景です。


そんな父親の様子を見ていると、最近特に「年のせいかもしれないな」と感じることが増えました。父は現在70代で、定年退職してからは家にいる時間が多くなりました。年齢を重ねると、どうしても記憶力が衰えたり、注意力が散漫になることがあります。それも一因だとは思いますが、実は父は昔からかなり雑な性格でした。なんでもポケットに詰め込む癖があり、重要な書類でも手近なところに置いてしまうため、すぐにどこに置いたか忘れてしまうのです。私や母が「ちゃんと片付けておいてよ」と注意しても、「ああ、大丈夫だよ」と軽く受け流されてしまいます。


実際、父は「失くしても大したことない」という感覚が強いようです。財布を一時的に見失っても、またすぐ見つかるだろうと思っているのか、慌てる様子はあまりありません。私や母が心配していることを伝えても、「そんなに大げさに考えることじゃないよ」と言って、あまり深刻に受け止めていないように感じます。確かに、小銭入れや家の鍵程度なら何度か探せば見つかることが多いのですが、重要な書類や通帳などを紛失されると、家族としてはたまったものではありません。特に、役所に提出しなければならない書類や、医療関係の書類を無くされたときには、私も母も本当に困り果てました。


こうした状況が続くと、当然ストレスが溜まります。私は何度も父に「片付けをちゃんとして」「大事なものは決まった場所に置いて」とお願いしてきました。最初のうちは父も「そうだな、気をつけるよ」と言ってくれるのですが、実際にはその場限りの返事で、同じことが繰り返されます。母も「どうして片付けができないの?」と何度も父に問いかけますが、返ってくるのは「まあまあ、大丈夫だよ」という軽い返事です。この「大丈夫」という言葉が、私たち家族にとっては逆に不安を煽るものになっています。大事なものを無くすたびに「本当に大丈夫なの?」という疑問が頭をよぎります。


私自身も、少し雑なところがあるので、父のことを一方的に責めるわけにはいきません。私も時々、物を無くしてしまうことがありますし、片付けが苦手な部分もあります。しかし、父の場合はその度合いが極端で、しかも「無くしても平気」という態度が余計に問題を大きくしているように思います。父の中では「どうせまた見つかる」という楽観的な考えが根強く、私たち家族の心配やストレスを十分に理解していないようです。


では、どうすれば父が少しでも改善してくれるのでしょうか?いろいろと考えましたが、父にとって「失くさないようにすること」があまり重要でない以上、私たちがいくら注意しても効果は薄いのかもしれません。何かしらの具体的な対策を一緒に考えて、習慣を変えてもらうしかないのかなと思っています。例えば、家の中で決まった場所に鍵や書類を置くような専用のスペースを作ったり、ポケットに物を入れる習慣を見直してもらうことなどが考えられます。しかし、それを習慣づけるには時間がかかりそうですし、何より父自身がその必要性を強く感じない限り、改善は難しいのではないかという不安も残ります。


一方で、父の物忘れや無くし癖に付き合っていると、家族としての忍耐力や寛容さが試されているような気もします。イライラしながらも、結局は家族全員で探し物を手伝っている私たちの姿を見ると、父を完全に見放すことはできないという愛情が根底にあるのだと感じます。私や母がいくらストレスを感じても、父のことを心配し、何とかしてあげたいという気持ちが優先してしまうのです。


とはいえ、父が少しでも物を大切に扱い、無くさないように心掛けてくれることを願うばかりです。これからも、家族として父のサポートを続けながら、少しずつ改善策を見つけていけたらと思っています。物を無くす癖や物忘れは、年齢とともに悪化することもありますが、それを家族みんなで支え合いながら乗り越えていくことが、最終的には一番の解決策なのかもしれません。


このエッセイを書きながら、改めて父との向き合い方を考え直す機会になりました。物を無くす癖は単なる「癖」ではなく、年齢や性格、生活習慣の影響を受けたものであり、それを変えるのは容易ではないという現実を受け入れつつ、どうすればもっとスムーズに家族が暮らせるかを模索していく日々が続きそうです。

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父の物忘れと落とし物、無くす癖 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92

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