第30話 宮原会長の来訪
技術コンサルタント契約料は、相場が良くわからないから、鈴森会長にお任せすることにする。
気になるのは、7月の終わりごろにA製薬の会長と孫が、ここにやって来るということだ。
鈴森会長からは、よろしく頼むと言われているが、いったい何をするためにここに来るのだろう?
……2008年7月下旬……
A製薬の会長と孫が、10:00ごろに秋葉原ビルに到着する予定だと、秘書の人から未来技術研究所に電話連絡が入る。
こういう時は、母さんが電話番をしてくれている。
未来技術研究所は電話番がいない。
会社として、これでいいのかという気もするのだが……
今のところ、俺と優子の遊び場という感覚なので……まったく気にしていない。
とりあえずK社からの連絡は、ほとんどメールで届くし、緊急の時は鈴森会長から俺の携帯に電話が入ることになっている。
未来技術研究所はKSセキュリティ社と技術コンサルタント契約を結んでいるが、KSセキュリティ社は秋葉原ビルの7Fに入っているから、メールで連絡をもらえば階段で1つ下のフロアーに降りれば済むのだ。
という訳で、現状として特に問題は発生していない。
自分で勝手に思っているだけなのかもしれないが……会社経験もないし、自分にはどうすれば良いのか分からない。
自分的には、未来技術研究所が会社としてちゃんと稼働するのは、俺が大人になってからでいいという気持なので、KSセキュリティ社との関係も、成り行きまかせぐらいに思っている。
今回もビルの前に並んで、相馬家全員でお出迎えをしている。
VIPが乗っていそうな車が、2台で秋葉原ビルに近づいてくるのが見える。
A製薬の会長と孫が乗っているのは、この車に違いないだろう。
黒塗りの大きな車2台が停まり、中からA製薬の会長と孫らしき子供が出てくる。
後ろの車から出てきたのは、会長の秘書さんたちかな?
孫らしき男の子は、俺と同じ年に見えるが、見るからに気が弱そうだ。
チョンと触れるか、話しかければ、どこかに隠れてしまいそうだ。
こんな子供と、上手くコミュニケーションを取れるのかな?
鈴森会長の依頼でなければ、こんな子の相手はお断りしたい。
「君が匠君か? 私は
「宮原保です……よろしくお願いします……」
下を向いてしゃべっているし、声も小さいな。
お付きの人たちも一緒に、8Fの研究室に案内する。
保君は俺の研究室に入ると、急に生き生きし始める。
何だ、この変わり様は!
人ではなく、高性能なパソコンやカメラ、電子部品、計測機器に興味があるのだな。
棚には理論構築に参照した学術論文をファイルしているのだが、そちらにも興味を持っているみたいだ。
「今どんな研究しているの?」
保君の質問だ、声、小さいぞ、聞きづら〜。
興味を持ったものがあれば、少しだけはコミュニケーションをとろうとするみたいだ。
面倒くさいやつだ。
だけど、頭は良さそうかな、まだ分からないけど。
であれば、どちらかというと俺たち寄りの人間なのかな?
それなら、交流してみるのもいいか。
さっきから、セキュリティ分野とかAI分野の専門的な説明をしているけど、保君は内容を理解できているのかな?
保君は、ポイント、ポイントで的確に頷いているみたいなので、研究内容は理解している気がする。
研究内容を理解しているのが分かると、説明も楽しくなる。
参照にした海外の学術論文を見せながら、研究で注目しているポイントについて、他の学術論文も参照しながら、どんどん説明内容を深めていく。
俺たちに、だんだんと打ち解けてきたみたいで、硬い表情が少し和らいでいる。
でも、もう少しシャキッとしてほしい。
彼みたいなタイプは、学校では異質判定されて苛め対象にされるかもしれないな。
それにしても孫ということは、A製薬の跡継ぎだと思うけど、こんなにコミュニケーションが苦手で大丈夫なのか?
「お祖父様、明日もここに来ていいですか?」
「匠君たちがいいなら、毎日でも来てもいいぞ!」
保君が心配そうに俺の方を見ている。
はっきり言って、話をするのは1年に1回ぐらいの頻度で十分なのだけど……
断りたい……保君の顔が許可を求める子犬みたいに見えてくる……やっぱり断れないな。
「毎日来ていいよ。お昼も僕たちと一緒に食べればいい。母さんいいよね!」
「任せといて! 保君は、苦手な食べ物はあるのかしら?」
「特にありません……」
声、小さいぞ、もっとでかい声でしゃべれよ……と言いたいけど、言うと絶対泣くな。
しかし、母さんともコミュニケーションはダメなのか?
「保君は何が得意分野なの? 僕は不得意な分野はないよ。妹はコンピューター系が得意分野かな」
「僕は数学とか理論物理学系……が得意……」
もっと元気にしゃべってくれ〜。
声が小さくて聞こえないし、もっと楽しく、陽気に会話しようよ。
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