第23話 村岡優子3

優子ちゃんが泣き始める。

うれしかったのか……安心したのか……

世話好きの母さんに、ついていこうと決意したのは間違いない。


あの意地悪ババアと暮らすのは、さぞかし辛かったはずだ。

俺だって絶対嫌だからね……もう安心だよ。


しばらくは母さんに任せておこう。

それにしても、母さんは行動力あるな……やる時はやる。


村岡のババアは、優子ちゃんのお父さんの弟の奥さんだった。

つまり叔父夫婦なのだ。

優子ちゃんなんか、どうでもいいみたいに言いやがって、遠い親戚なのかと思ったら、近い親戚じゃないかよ!


両親が交通事故で亡くなった時、親戚会議で叔父夫婦が優子ちゃんを引き取ることになったらしい。

引き取ることが決まったのならちゃんと面倒みろよ!

扱いが酷すぎるだろ!


優子ちゃんが希望したことで、村岡優子は相馬優子となる。

年齢は7歳、俺に妹ができました。


「なかなか子供ができなくてね……やっと匠が生まれたの。本当はね、もう1人子供がほしかったのよ! 本当にうれしいわ」と、母さんがうれしそうに優子をギュッと抱きしめている。


優子は、今まであの意地悪ババアのお陰で、たくさん心が傷ついたと思う、だけど母さんがいれば安心だろう。

俺も妹ができて、すごくうれしい。


今のところ俺は、登校拒否&引きこもり生活だからね。

両親以外に年齢の近い話し相手ができのだ、うれしくない訳がない。


それにしても、意地悪ババアのせいで、優子がすごく痩せている。

母さんも心配になって、病院に連れて行って健康診断を受けさることにした。

優子のあまりの痩せ具合に、医師や看護師さんたちから、母さんが睨まれたそうだ。

母さんは無実だぞ……悪いのはあの意地悪ババアだ。


結果は異常なし、家族全員が安心する。

子供を痩せさせたらダメなのだよ、いっぱい食べて成長しないといけない時期なのだ。

母さんが、バランス良く栄養のあるものを食べさせると張り切っている。


「痩せこけた妹に、不登校の長男……こりゃ……児童相談所に通報されないか心配だよね」

「匠、おまえがそれを言うな。しかし、その可能性はあるな。優子は、毎日トンカツとかステーキにするか? 加えて、おやつにケーキを食べればすぐに太れると思う」


「ダメよ〜、優子にはバランス良く栄養のあるものを食べてもらうつもりよ。匠もね、これから中学ぐらいまでは、どんどん体が成長する大事な時期だからね」


相馬家の家族になって、本当に良かったわ。

もう運命の神様に見捨てられたと思っていた、まだ運が残っていたみたいだわ。

この家族は、全員がとてもやさしい。


それに自宅が、ビルの最上階なんてすごいわ。

叔父夫婦の家とは比較にならない。


しかし、あのまま叔父の家にいたら、私はどうなっていたのかしら?

叔父夫婦にはいろいろ思うところがあるけど、もう会うこともないでしょう。

忘れてしまおう。 


ところで、お兄さんが不登校とか言っていた気がするけど、兄さんはなぜ小学校に行っていなのかしら。

それに、8Fが自分の研究所らしいけど、子供なのになぜ自分の研究所を持っているのかしら、分からないことだらけね。


後で、何をやっているのか聞いてみようかな。

面白そうなお兄さんができてうれしい。


「お兄さんは、何の研究をしているの?」

「AIの研究だよ。興味ある?」


「AIというのは何ですか?」

「コンピューターが自分で学習して賢くなる技術だよ。将来、社会のいろいろなことに利用されていく技術だよ」


「今度、私にも教えて! 面白そう」

「優子は、そういうのに興味ある? お〜、じゃあ下の研究所に一緒に行こうよ」


「匠、優子をおまえの世界に、無理やり引き込むのはダメだからな」

「そうよ、優子は普通の子供になってもらうつもりだからね」


「分かっているよ。優子が興味を持たなければ直ぐに戻って来るよ。行こう……妹よ」


「普通じゃないお兄さんなんて……なんだか面白そう」


2人で、8Fの研究所に移動する。

「パソコンとか使ったことある?」

「両親が亡くなる前、お父さんのパソコンでいろいろな事を調べたりしていたわ」


「じゃあ、優子にパソコンとノートパソコンを、セットでプレゼントするよ」

「お兄さんが買ってくれるの?」


「そうだよ。こう見えても、少しはお金をもっているのだよ」

「両親にもらったの?」


「もう兄弟になったからいいか……家族以外には絶対秘密だよ。株式投資で儲けたのさ」

「お兄さんは、まだ8歳でしょ?」


「4歳から、株式投資をやっているよ」

「え……そんな小さい時から……」


「優子のパソコンが届くまでは、このノートパソコンを自由に使っていいよ。自分の部屋に持っていってもいいからね」

「兄さん、ありがとう」


「じゃあ、リビングに戻るかな。このノートパソコンでいろいろ調べて、興味があることが見つかったら教えてね〜」

「そうするわ」


翌日、優子がうれしそうにしているので、興味があることが見つかったかどうか聞いてみた。

「私は、数学とプログラミングに興味があるみたいだわ」


「そうか……良かった、良かった、今週中に優子のパソコンとノートパソコンが届くと思うから、プログラムを作ってみたらどう? 取り敢えず基礎的なプログラムを作ったら、俺が作っているAIのプログラムも弄ってみれば面白いと思うよ」

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