第22話 村岡優子2

「優子、あなたはこの家から出て行ったのでしょ! なぜ戻ってきたのよ! それに何なの、この人たち」

意地悪ババアが優子ちゃんに怒っている。


いつもこんな感じで、優子ちゃんに怒鳴っているのかな?

こんな人と暮らせと言われたら、俺も直ぐに家出するな。


優子ちゃんは俺より1歳下だから7歳だぞ。

7歳の子供に言うセリフじゃないだろ。


母さんのスイッチが入る。

猛烈な勢いでおばさんに抗議を始める。

その剣幕に、意地悪おばさんが怯んでいる。


いいぞ、母さん、頑張れ、負けるな!

俺たちは後ろで、成り行きを見ている。

母さん! やる時はやるな!


「この子は、私の子供じゃないのよ! その子の両親が亡くなったというから、しかたなく私の家で預かっているだけよ! そんなに言うのなら、あなたがこの子を引き取って、世話をすればいいでしょ。あなたにできるのかしら?」


「分かったわよ! 私がこの子を引き取って世話をします。優子ちゃん、この家からあなたの荷物を全部持ってきなさい」


「荷物は私が取ってくるわ。優子、あなたは2度と家に入らないで頂戴!」

おばさんが、リュックを1個ぶら下げて玄関に戻って来る。


そのまま、リュックを優子ちゃんに放り投げる。

おばさんは中に入り、ドアを大きな音を立てて締める。


何ということをするのだ、こんな小さな子供に!

家族全員が同じことを考えている。


優子ちゃんが泣き出した。

当たり前だ、こんなことをされたら俺だって絶対泣く。


家族全員、怒りMAXだ。

でもこういう時は落ち着かないとダメだ。


「父さん、平山弁護士に電話して下さい。大急ぎで、ここに来てもらって下さい。このまま優子ちゃんを連れて帰ると、法的にやっかいなことになるかもしれません。あんな奴に弱みを握られる必要はありません!」


父さんが、急いで平山弁護士に電話している。

「とにかく、急いで来て下さい!」と、強引に頼み込んでいる。

同級生じゃなければ、絶対無理な依頼だ。


持つべきものは、同級生の弁護士だ、無理が言えて最高だ。


俺たち家族は、アパートの近くの道路脇のガードレールに腰掛けて、平山弁護士が来てくれるのをひたすら待っている。

1時間ぐらいすると、平山弁護士がタクシーでやって来てくれる。


頼りになる人が登場だ。


平山弁護士に、母さんが事情を説明している。

母さんが、相馬家で優子ちゃんを引き取りたいことを伝えている。

俺も父さんも、引き取ることに同意するよ。


何としても優子ちゃんを、あの意地悪ババアから守るというのが、家族の総意だ。

事情を理解した平山弁護士が父さんに確認する。

「その子供を引き取って籍に入れますか? それとも養育者になりますか?」


「養育者には必ずなります。その後、本人の意思を確認して籍に入れます。優子ちゃんは、それでいいかな?」

優子ちゃんが弱々しく頷いている。


あの意地悪ババアと暮らすより、絶対ましだからな。

俺が優子ちゃんでも、同じように答えるよ。


「後は、万事私にお任せ下さい。その子とともに、相手と話をしてきます」

俺たちは、さらに1時間ぐらい外で待つことになる。

皆で優子ちゃんを心配しながら、意地悪ババアの家の方向を睨んでいる。


ドアから平山弁護士と優子ちゃんが出てくる。

「もう、この子を自宅に連れて帰っても大丈夫ですよ。必要な書類は私が自宅に届けます。もちろん私の報酬もよろしく頼みますよ。大急ぎと言われて、他の仕事を後回しにして来たのですからね。頼みますよ」


平山さん、言葉とは裏腹にニコニコしている。

やっぱり頼れる弁護士がいると心強いな、しかし弁護士を頼むのもお金だ。

やっぱりこの世は、お金がものを言うな〜。


俺たち4人は、平山弁護士が乗ってきたタクシーに、もう一台タクシーを無線で呼んでもらい、秋葉原ビルに戻って来る。

「さあ家についたわよ」

ビルの入口で、母さんが優子ちゃんと手を繋ぐ。


優子ちゃんは、このビルが家なの……という感じで見上げている。

このビルは、父さん自慢のビルだぞ。

エレベータで9Fの玄関に移動する。


「優子ちゃん、中に入って」

優子ちゃんに、リビングのソファーに座ってもらい、母さんがジュースとお菓子を出す。


「まずは、甘いものでも食べて落ち着いてね。優子ちゃんも苦労したわね。とにかく安心していいからね。これからはずっと、のんびりしていいからね」


「ありがとうございます。ところで私は、これからどうなるのでしょうか?」

優子ちゃんは緊張した表情だ。

俺たち家族のことも何も知らないし、何で助けてくれたのかも分からないからね。


「心配する必要は、まったくないわ。この家で家族として伸び伸びと楽しく暮らせばいいのよ。実子になるかどうかは、少し落ち着いてからゆっくり自分で決めればいいわ。私たちは家族になってくれるのを歓迎するわよ」と、母さんが優しく語りかける。

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