第17話 父さんに新しい仕事を作らなきゃ
それにしても、示談金が4000万円入ってきても、銀行から借りているのが6000万円もあるから、借金残高は2000万円もある。
実際には、弁護士報酬を6%ぐらい払っているから、借金残高は2000万円より多くなる。
父さんは、秋葉原のボロビルを売却して、その借金をチャラにするつもりなのかな。
残務整理は、半月ぐらい掛かるらしいけど、父さんの見通しでは、会社に残るお金はほとんどない見込みらしい。
……なんだよ、それ。
いったい、どんな見通しで商売していたのやら。
お祖父ちゃんは、1990年前のバブルが、またやってくると信じていたのだろうな。
少なくとも俺が生きていた2013年までに、そういうのはなかったよ。
父さんも、今回のことを大いに教訓にしてほしい。
本当に早く会社を畳んでもらって良かった。
父さんはエンジニアとして、会社に雇われている方がいいと思う。
自分で会社をやるにしても、小規模な会社を、個人ベースでコツコツとやるのが向いていると思う。
さて、現在の相馬家の問題は、借金がある上に父さんが無収入状態なことだ。
「早く転職先を探さないといけないな……」
「大丈夫! 私もパートの仕事を増やすから!」
夫婦の微笑ましい会話なのだけど……
その様子を見ても、俺はホンワカできない、現実のことを考えないといけないから。
父さんは無収入になり、銀行の借金に対する返済は毎月きっちり発生する。
住んでいる家の家賃だって、水道光熱費や、諸々の生活費もかかる。
「入学金や授業料の高そうな私立の小学校に行きたい」と言っている不登校志望の子供もいる。
建設不況だから、建設業界での職探しは難しいだろう。
ヤクザな消費者金融に追いかけられていないことは良いのだが、経済的には大ピンチでしょ。
秋葉原のボロビルを売れば、銀行の借金はなくせるが、不動産なんて直ぐに売れるものではない。
俺としては、秋葉原のボロビルは売らないでほしい。
そこに自分の会社を作りたいから。
とは言うものの、設備会社の倒産危機に備えて、お金を6.4億まで増やしているから大丈夫ではある。
しかし……「実は6.4億円持っているから、お金のことなんて心配いらないよ」と、言ってしまって良いのか?
「何だ、6.4億円もあるのか、もう私たち働かなくていいじゃない……ラッキー……なあ、母さん……豪華な食事にでも行こうか?」と、両親がやる気というか、働く気を失っては困るのだ。
会社を畳んでもらい、やっと悲惨な未来を回避できたのに、やる気なしのダメ家族になってしまったら、別の意味で悲惨な未来だ。
父さんには、これからも張り切って働いてもらいたいし、母さんも今まで通りでいてほしい。
では、どうすればいい……
やる気なしダメ家族にしないためには、父さんが一生懸命になれる仕事が必要だ。
……秋葉原のボロビルを建て替えるのはどうだろうか?
そうなれば、新しいビルの設計を父さんにしてもらう。
自分のビルだ、設計にも熱が入るだろう。
ビルが出来たら、今の会社をビル管理会社に変更し、建て替えたビルの賃料で、家族の生活費を稼いでもらうことになるから、ビル管理の仕事で暇にならないはずだ。
良し、それでいこう。
「僕の話を聞いてくれませんか?」
「もちろんいいよ。どうした、何かあったのか?」
「秋葉原のビルを解体して、10階建てのビルに建て替えるというのはどうですか?」
「……そんなお金は、どこにもないよ」と、父さんが不思議そうな顔で俺の方を見ている。
ついに、賢すぎる俺の頭がおかしくなったと思っている。
「僕に、父さんの口座で株式投資をさせてもらえませんか? ビルの建替え費用を作ってみせます」
「インターネットで勉強して、株取引で絶対に勝てる理論を考え出しました。その理論を使って、母さんに貸してもらった40万円も大きく増やすこともできています」
株式投資必勝理論……夢の理論だね……この世に絶対存在しないけどね。
あるよと言われたら、詐欺だと思って下さい。
両親ともに株式投資のことはまったく知らないので、どうか詐欺師の俺に騙されて下さい。
「40万円がいったい幾らに増えたの?」
「約5000万円になりました」
金額は、微妙な金額に抑えておいた。
5000万円はあればうれしいけど、そのお金で、ずっと遊んで暮らすことは無理な金額だ。
両親ともに、何だって……という表情になっている。
匠なら、株式投資必勝理論を考えついたのかもしれない……と信じている顔だ。
騙せたかな?
「でも、それは匠が将来会社を作るために作ったお金でしょ。私たちが使う訳にはいかないわよ」
「そうだぞ、匠! 自分の会社のために使いなさい」
……良い展開になってきたな。
「1年ぐらい、使わないお金があれば、僕に預けてくれませんか! 必ずビル建替えの費用に役立つだけのお金を作ってみせます」
沈黙が続く……
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