第13話 平山弁護士
「これはどういうことだ? どの年度のものも、注文したものと違う製品を検品・受領している。千葉が責任者として工事見積書を作り、見積書に記載した製品の注文書を業者に送っているはずだ、違う製品が納品されていたら、本人が直ぐに気付くはずなのに!」
「ということは、千葉は分かってやっていたということか、騙された私の失敗だ! 先代の頃からいる社員が、そんなことをするなんて考えてもいなかった。とにかく私は、営業を頑張ればいいと思っていたからな。ダメだな、社長失格だ」
「そんなことないよ。僕は父さんが一生懸命営業していたことを知っているよ。そのお陰で会社が運営できていると思う」
「私もそう思うわ。私が経理の仕事でもして、もっと会社のことを手伝えば良かったのよ。父さんだけが悪いことはないわ」
「お祖父さんの時も、チェックしなかったのかな」
「2000年から体調が悪くなったこともあって、千葉に全て任せていたと思う」
「それにしても、なぜ業者は納品書の製品名および型式を、注文書と同じにしなかったのかな?」
「納品書の製品名および型式を、注文書と同じにしてしまうと、何かの拍子にインチキがバレた時、言い逃れができなくなるからじゃないかな。納品書と納入した品物の製品名および型式が同じであれば、間違って納品しましたと言い訳できるからな」
「2000年以前、千葉はもっと巧妙にやっていたかもしれないね。納品書の製品名および型式を、注文書と同じにしたものを別途もらっておいて、工事が終わった後に、こっそり差し替えておけば証拠はまったく残らないからね。もちろん取り付け終わった製品を、現地で確認すれば分かるけど、それは難しいと思う」
「2000年以前は、そうやって完璧にしていたけど、体調の悪いお祖父さんや、新参者の父さんには分からないと思ったのだろう。仕事を任されていることをいいことに、悪いことをするものだね」
「工事見積書と違う設備機器を取り付けて、施主の方からはクレームはこないの」
「工事の後で、直ぐに施主が気づけば問題になる。しかし、この設備機器は年々性能が向上していくため、型式がどんどん変更されていく、うちの会社では、一番性能が良い設備機器を取り付けることにしているから、工事で取り付ける設備機器のメーカや製品名が毎年変わるのだ」
「つまり年度が変われば、メーカの製品説明ホームページも更新されるし、昔のカタログを一式揃えていなければ、工事で取り付けられた設備機器が、見積品と同等品なのかは調べようがない、だから施主からもクレームを言い難い」
「だからこそ、千葉がこんなことを考えたのだと思う。納品される製品価格は、会社からの支払い額よりも低い訳だから、業者は差額を儲けることができる。その儲けの何割かを千葉が裏金でもらっていたのは間違いない」
「千葉という人間は酷い奴だね。5年間で、この設備機器は何台ぐらい購入しているの?」
「後で調べれば正確に分かるけど、月に2台で年24台として120台ぐらいになるかな。会社にとっては、1台あたり30万円ぐらい損をするから、5年間で概算3600万円も損をしている計算になる」
「明日にでも、納入業者と千葉たちに、この問題を確認しようと思うが、重い話になりそうだな」
「父さん! 信頼できる弁護士に相談してから、話を進めるほうがいいと思うよ」
「そうだな、お金に関係する話だからな。弁護士に頼んだほうが良いな」
「信頼できる弁護士さんの知り合いはいるの?」
「学生時代の友人で弁護士をやっているのがいる。そいつに依頼しようと思う」
「急いだ方がいいと思う。直ぐに電話してみて下さい」
父さんが名刺ファイルをめくりながら、弁護士の電話番号を見つけたみたいだ。
さっそく電話している。
相手が出たみたいだ、同級生なので気安い感じで話しているな。
「今から来てくれるそうだ。名前は
「父さんの役に立ててうれしいです」
3人で待つこと1時間……どんな弁護士が来るのだろ。
平山弁護士がやって来る。
背が高く痩せ型の人だが、目力がある人だ。
あの目力で交渉すれば、相手をビビらせることができるだろう。
しかし、父さんと話す時は、同級生というのもあって温和な表情になる。
懐かし話も終わり、仕事モードの顔になる。
父さんから、要点を確認しながらメモしている。
一通り説明が終わったようだ。
「会社が価格の高い製品を発注したにも関わらず、こっそり業者に価格の安い製品を納入させ、差額分を裏金として受けとる。検品と受領を行う担当者が良くやる、典型的な横領手口だな」
「しかし、いつも千葉という社員が、検品と受領を行う訳にもいかないはずだから、単独犯ではないな。それと、見積もりと違う設備機器を取り付けたりすれば、取り付けを行う社員は気付くはずだよな? 全社員がグルかもしれないぞ」
「見積書、検品した社員のサインが入った納品書は保管してくれよ。カタログの必要なところはコピーも取っておいてほしい。それと、納品された設備機器の累計の個数と損害額も出しておいてほしい。早い方がいい」
「それで大まかな損害額はどれくらいになりそうだ」
「5年間で3600万円ぐらいだ。それより前からやっていると思うのだが、その期間の証拠はないのだ」
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