第11話 小学校には行きたくない
問題は、両親にどう話すかなんだよ。
神様には「前世の記憶を誰かに話してはいけません。未来に起こることを話すことになるからです。もちろん私のことも、あなたが転生したことも話してはいけません」と、釘を刺されているからな。
何か上手い話し方があるかな。
「神様のお告げによれば……」と話し始めれば、匠は頭が良過ぎたからな、やはりこうなってしまったのかと思われるだろう。
「父さんの会社が倒産する夢を見ました」も同じだ。
前世のことを思い出しみよう。
会社が倒産した原因は、2008年に起こるリーマン・ショックだ。
世界的な金融危機が発生し、日本が不況になる。
不況になれば、設備会社の仕事は激減する。
それでなぜ……悲惨な未来になってしまったかと言えば……
消費者金融から高利で多額の借金したことからだ。
銀行からお金を借りるだけにしておけば、酷いことにはならなかったはず。
それに……会社にもいろいろ問題があった。
課長だった千葉が横領をしていた。
お祖父ちゃんが社長の時からだから、長年に渡り横領をしていたことになる。
千葉は、工事で取付ける設備機器を、見積と違う安い製品に入れ替えていた。
納入業者と事前に話をつけておいて、性能が落ちる機器を、高性能な製品として納入させていたのだ。
納入機器の検品と受領を千葉が行うことにより、注文した製品と納品された製品が違っていることがバレないようにしていた。
会社が余分に支払う差額の中から、裏金を業者から受け取る構図になっていた。
千葉が不在の時には、経理と事務を担当している妻の
当然、不正と分かってやっている。
取付けた設備機器が見積と違っていることが、工事の発注者にバレたら、工事のやり直しを要求されるだろうし、下手すれば訴訟される可能性もあるだろう。
そうならなくても、性能が落ちる設備機器に施主が満足するわけがないから、次の工事の受注はないだろう。
会社としては、横領による金額損失と、顧客の満足度低下による受注損失のダブルパンチになる。
製品を取り付けている社員は、製品が違っていることに気が付くはずなのだが、誰も社長には報告していない。
つまり社員全員がグルということだ。
千葉からお金をいくらか握らされていたのだろう。
つまり、会社のことを大事に思う社員は、1人もいなかったということだ。
父さんが横領に気付いたのは、会社の資金繰りが苦しくなった時に、倉庫の在庫を自分でチェックした時だそうだ。
父さんも父さんだと思うよ!
これだな……
父さんに、横領のことを早く気付かせればいい。
その方が「会社を畳みましょう」と、説得するより簡単そうだ。
では、どうする……
会社を見学させてもらいながら、納品された製品に問題があることを気付いてもらうように誘導すればいいか。
そうだな……そこを突破口にしよう。
俺は大事な話があると両親に伝え、ダイニングテーブルに両親と向き合って座っている。
普通だと、子供の俺がいたずらでもして、両親から説教をされる構図なのだが、俺がやろうとしているのは、両親の説得だ。
「本来であれば、4月から小学校に入学することになりますが、僕は小学校には行きたくないです」
「どうしてだ? 小学校はいいぞ。友達を作って一緒に遊んだりして楽しいぞ」
両親が心配顔になっている。
「僕は幼稚園行くはずだったこの3年間、インターネットを使って勉強してきました。今の学力は、大学生や大学院生のレベルだと思います。最近では、海外の学術論文も精読しています」
「既に自分の学力レベルは、小学校の先生より高くなっているはずです。きっと先生たちは、僕の扱いに困ると思います。それに小学校に入学した子供たちとも、話が合うとは思えません」
「それに彼らにとって、僕は異質な存在だと思います。異質な存在には、誰も近づこうとはしないでしょう。場合によっては、彼らは僕を排除しようとするでしょう。苛めですね。それに耐え、あるいは本来の自分を隠してまで、小学校に行きたくはないです」
両親はそれもそうだな……という納得顔になってくれている。
俺のことを理解し、異質な子供を受け入れてくれているみたいだ。
感謝します……
「だけど、日本は義務教育なので、僕が小学校に通わないことで、父さんと母さんに迷惑を掛けることになるかもしれません」
「調べると公立の小中学校は、ずっと不登校にしていても、卒業はできるようなのですが、絶対大丈夫なのかどうかは、教育委員会に問い合わせないと分かりません。しかし入学する前から、不登校でも卒業できますかと聞くのもどうかと思います」
「そこで、人気がなくて定員割れ寸前のような、とにかく入学者がほしい私立の小中一貫校を探そうと思っています。そういう学校であれば、入学金と授業料を払う代わりに、不登校でも登校したことにしてもらえないか、交渉しやすいのではないかと思います。僕が交渉するのは変なので、父さんか、母さんにお願いすることになると思います」
両親は、俺のために何とかしようという顔になっている。
「分かった。匠が良さそうな学校を探してくれたら、父さんか母さんが見学に行って、そこの校長先生と話をしてみるよ」
理解のある親で良かった。
ここまでは想定した通りの展開になってくれている。
問題は、ここからだな……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。