第8話 希望退職

投資した企業の株価が増えていっている間、俺がやるべきことは勉強だ。

まずは大学レベルの理数系知識を修得しておきたい。


家族の悲惨な未来を回避した後も、俺は生きていく訳だから、糧を得るための何かが必要になる。

天才の頭脳をギフトにもらっていても、知識を詰め込まないとお金を生む頭脳にはならない。


特に理数系知識を目一杯詰め込みたい、優れた技術知識があれば、その知識をお金に変えることができる。

それと英語だな。


技術を売り込む先は、日本だけでなく世界にも目を向けていきたい。

海外の会社に技術を売り込むには、英語が使えないと話にならないだろう。

当面の目標は、世界の研究者や技術者とディスカッションしたり、学術論文を読んだり、書いたりできるレベルだ。


英語教材は、ネットに使えそうなものが溢れている。タダで利用できるものは、どんどん利用してレベルを上げていくつもりだ。


株式投資で資金が増えれば、お金を出して有益な教材も購入していこう。

自分への投資もどんどんやっていこう。


それにしても、幼稚園の次は小学校だ。

当然、小学校にも行きたくない。

前世では中学2年まで学校に通っているし、2回も行きたくない。


何よりも……あれだけ苛めで嫌な思いをすれば、誰だって行きたくないでしょ。

もっと言えば、前世から累計すると小学校に入学する時は21歳になる。

もう成人だよ、今更小学生と一緒に勉強とか、運動会の練習とか無理でしょ。


日本の教育システムは、同じ品質の学生を育てようとすることが目標だから、俺みたいな異質な子供が、その教育システムで受け入れてもらえるはずがない。

それで良いのかな……金の卵が普通の卵になってしまいますよ……と言いたくなる。


この人生の俺は、前世と違う意味で異質な子供であることは間違いない。

異質な子供が学校で受け入れられないということは、前世で経験済みだ。


それに、俺みたいな子供がいれば、教員も扱いに困るはずだ。

先生に好かれることはまずないだろう……というか嫌われるだろうな……


だけど日本は義務教育だから、中学までは行かないといけない。

本当に何とかしてほしい!


ところで、小学校と中学校の9年間を、ずっと不登校だとどうなる?

子供を学校に通わせない鬼畜な親と、世間から責められるのかな?

場合によっては虐待疑惑で、児童相談所の人たちが家に押しかける?


両親に目いっぱい迷惑を掛けそうだ。

何か上手い方法を考える必要があるな。


不登校だと、他に何か問題になることがあるのかな?

履歴書の学歴欄が空欄になると就職に不利だろうな。

というか就職は無理でしょ。

……となると、自分で会社を作るしかない。


そのためにも、ネットを活用して勉強をしておかないとダメだな。

ギフトでもらった天才の頭脳を鍛えておけば、身につけた技術や知識を売る会社を作ることができるはずだし、提供する技術に価値があれば、社長の学歴は関係ないだろう。


……2003年8月……


父さんが建設会社の希望退職に応募してしまう。

前世と同じイベント発生だ。


ゼネコンは不況が継続していて……給料の減額が続いているのが退職の理由らしい。

退職金は割増でもらえるらしいけど、34歳の妻と4歳の子供がいるのだから、条件の良い転職先が見つかるまでは辞めないでほしかったな。


前世と同じで、父さんが選んだ転職先は、お祖父ちゃんの設備工事会社だ。

この選択は、父さんにとって一番選んではいけない選択なのにね。

その道は、悲惨な未来が待っている。


父さんが言うには、この転職はお祖父ちゃんからのお願いだそうだ。

経理をやってくれていたお祖母ちゃんが他界し、本人も体力的に自信がなくなってきたことで、お祖父ちゃんとしては、何とか父さんに会社を継いでほしかったみたいだ。


お祖父ちゃんの希望だったとしても、この転職はダメ、断ってほしかったな。

大きなゼネコンですら不況なのに、小さな設備工事会社が上手くいくはずがない。


父さんにとってベストの選択は、給料が下がっても元の建設会社にしがみつくか、景気の良い業界に心機一転で転職することなのだ。


結局、前世をきっちりトレースして人生が進んでいるな!

ここまで、前世の歴史と何も変わっていない。


退職金を多めにもらったみたいで、俺に新品のノートパソコンを気前良く買ってくれた。

それと学習机セットもね、このプレゼントはうれしかったな。


「来年は自分が社長になって頑張るぞ! 会社をもっと大きくするぞ」と、ビールを飲みながら、うれしそうに母さんと話をしている。


父さんが、うれしそうにしているから、母さんもうれしそうなのだが、あなたの選択は間違っています。


やっぱり俺がなんとかしないとダメだな。

しかし両親に何か提案するにしても、まずはお金を稼がないと話にならない。

まだ幼児だけど、お金、お金、金稼げだ。

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