第4話 神様に同情される
今の俺は……
肉体はないから、幽体というやつだ、体が軽い。
意識だけの存在だな。
この場所がどこなのかは分からない。
とにかく何もない真っ白い大きな部屋だ。
大きな机に担当者が座り、俺はその机の前に向き合って座っている。
これまで過ごしてきた人生はどうだったのか……今後の希望はあるか……いろいろ細かくヒアリングされている。
この担当者は、きっと神様なのだろう。
神様を見たのは始めてだ……死ななければ会えないなら……当たり前だな。
「え〜と……あなたは神様ですか」と、気楽に聞けるような雰囲気ではない。
強いオーラを感じるので、聞かなくても神様だと納得する。
しかし、このオーラを浴びていると、不思議に心が穏やかになる。
心が満たされて、自分の意思が消えてしまいそうだ。
神様は人生ファイルを確認しながら、今まで生きてきた人生の説明に耳を傾けてくれている。
今まで学校で、誰とも話をしていないから、何だかうれしい。
時折、神様が報告書らしきファイルに何かを書き込んでいる。
これまで過ごしてきた人生を全て語り終えた。
人生を語りながら、我ながら自分の人生は悲惨だったな〜しんみりと思う。
「何か言いたいことはありますか」
「辛いことの多い、短い人生だったと思います」
神様が何か考えている。
……沈黙が続く……
作成した報告書らしきものを、じっと読み直している。
「確かにあなたの人生は、辛いことが多かったみたいですね。最後は一家心中ですね。他の人と比べると、少々バランスが悪いかもしれません。次の人生を幸せに過ごせるように、ギフトを授けましょう」
……同情してくれたのかな……
「あなたに天才の頭脳を与えます。それに加えて、前世の記憶をそのまま残しておきます。ただし前世の記憶を、誰かに話してはいけません。未来に起こることを知らせることになりますからね。もちろん私のことも、あなたが転生したことも話してはいけませんよ。必ず守って下さいよ、絶対ですよ!」
「約束します」
「14年前のあなたに生まれ変わることができますが。上手くいかなかった前世をやり直してみますか? もちろん、あなたが嫌であれば、まったく違う家庭に生まれ変わるようにもできます……どうしますか?」
どうするか悩んでいると……同じ日に亡くなった両親のことを思い出す。
あんなことがなければ、明るくてやさしい両親だった。
俺が家族の人生を変えてやる、もう少しマシな人生に変えてみせる。
「神様、気になることを、1つだけお聞きしていいですか?」
「私が答えられる範囲の内容であれば構わない」
「前世の自分や両親の人生を変えようと行動すると、別の人の人生が変わってしまうのではないでしょうか? つまり歴史が変わってしまうのではありませんか?」
「過去に転生し、あなたが行動すれば、当然歴史に揺らぎが発生します。歴史とは、何十億の人生が影響しあって作り出される大きな流れなのです。あなたが作り出す揺らぎが小さなものであれば、歴史の大きな流れに影響を与えることはありません」
「つまり、本来死ぬはずの家族が、死ななかったとしても、また関係する何人かの人生が変わったとしても、歴史の流れに大きな影響を与えることはないということでしょうか」
「ただし、あなたの行動が戦争レベルのことを引き起こしたり、産業革命といえるような大革新を世界に及ぼしたりすれば、歴史の修正力があなたを抹殺しようと働くでしょう。なぜならあなたは、本来存在していない人間だからです」
抹殺と聞いて、とたんに怖くなる。
「抹殺……ですか……」
「心配しなくても、余程のことをしない限り、あなたの行動が世界の歴史に大きな影響を及ぼすことはありません」
抹殺されるのは怖いけど、家族の悲惨な人生を変えたい。
「14年前の自分に生まれ変わって、何としても家族の悲惨な人生を変えてみたいです」
「分かった。頑張ってみるが良い」
俺は意識を失う。
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