第3話 会社が倒産2

返済しても、返済しても終わらない……無限借金返済地獄だ。

この生活は、死ぬまで続くのか?


そんな生活に慣れてしまうと、空腹もヨレヨレの服も何も感じない。

余裕がない、生きているだけだ。


アパートに引っ越した当初、家族は元気があった。

母さんは、家の中を明るくしようと頑張っていた。


「早く借金を返そう。頑張ろうね」というのが口癖になった。

貧乏ながらも、家族に笑顔があった。


しかしその暮らしが、長く続けば続くほど家族が無口になっていく。

疲れ切った表情が消えなくなる。


引っ越しをしたことで、俺も新しい小学校に通うことになった。

家の食事でお腹が膨れることはない。

給食がありがたい、でも両親は俺より腹を空かせているはずだ。


汚れたヨレヨレの服を着る異様な子供に、クラスの子供たちは誰も近づかない。

声をかけない、見ないふりだ。


関わりたいはずがない、当たり前だ。

俺は空気になっていればいい。

給食が食べられればそれでいい。


教室では誰とも話をしない、卒業まで続ければいいだけだ。

座って授業を聞いていればいい。


俺に現状を変える力はない。

存在を無視されるのは辛い、しかし異様すぎる子供が苛めに遭うことはない。


この生活はいつまで続くのだ!

早く働きたい、何の仕事でもいい、稼いだお金で腹一杯食べたい。


やがて月日も経ち、中学生になる。

中学生になっても、うれしくもない。


状況は、小学校の時と変わらない。

誰も俺に近づかない……当然だ。

小学校の時と同じだ、空気になって座っていれば卒業できる。


空気になって静かに過ごしたいのに、同じ教室に嫌な奴が現れる。

父さんの会社の社員だった人の子供で、名前を千葉太一ちばたいちという。


「お前が住んでいるアパート……あんな所、人が住めるのか? 近くを通ると匂いがする。お〜! こいつと同じ匂いだ。おまえらも匂わないか……臭いよな!」


「本当だ、臭くてたまらないぜ! 何で教室にこんなのがいるんだ!」

同調する奴が出てくる。

苛めのターゲットが確定する!


翌日からは、黒板に臭いと書かれるようになる。

無視して空気になっていても絡まれる。

しつこい奴らだ。


「お前に恵んでやるよ。食べろよ」

俺の机にパンの切れ端を投げつけられる。


「食べろよ。腹減っているのだろ。我慢は体に良くないぞ。明日も持ってきてやるよ」

教室中が大笑いになる。

惨めだな……父さんは社員のために頑張ったのに……どうしてこいつが……


苛めは毎日続くようになる。

早く中学校終わらないかな。


こいつと戦ってもいいけど、騒ぎを起こせば、ヘトヘトになっている両親がさらに疲れる……そんなことはできない。


ひたすら無視する、さらにエスカレートする。

廊下を歩けば、突き飛ばされ、蹴っ飛ばされる。

守ってくれる奴は1人もいない。


こんな人生が……いつまで続くのだろう。


1年生がやっと終わり、2年生に進級したが、うれしいことは1つもない。

そういえば、7月の誕生日がくれば14歳か……誕生日がきたからって何も変わらない。


何歳とかどうでもいい、早く働いて両親を楽にさせてあげたい。

考えるのはいつもそれだ。


金がないから、貧乏だから、こういう人生を送ることになる。

子供ながら、お金を稼ぐ方法がないかと毎日必死に考える。


お金を稼ぐ方法を考えている時間は、苦しい現実から逃避できる。

俺にとってはとても楽しい時間。


家には何にもない、お金を稼ぐ方法を考えるための情報はない。

しかたないから、駅周辺に捨てられている新聞を拾って読む。


たまに経済誌も捨てられていることがある。

何かお金を稼ぐヒントはないのか、隅から隅まで何度も読む。


内容が理解できなくても、何度でも読む。

他にすることもないし、友達もいないから、時間が一杯ある。


顔を上げると、駅前で楽しそうに遊んでいる中学生が見える。

俺には関係ない。

顔を伏せて、金儲けのヒントを必死で考える。


14歳の誕生日がやってくる。

引っ越してきた当初は元気だった両親も……もはや死んだほうがマシだという顔だ。


父さんと母さんがそうしたいなら、終わりにしていいよ……俺も疲れた。

短い人生が終わる……毎日が辛かったから未練なんかない。

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