第41話
と、とりあえず隠れよう。
素っ裸の同級生女子たちがやってくるのに、のんびりと湯につかっている場合じゃにゃい。って、緊迫しすぎて語尾が猫になってしまった。
これは緊急事態なのです。だから緊急避難的に身を隠さないと、クトゥルフ的に言うと、尋常ならざる事態になってしまうのです。
そうだ、隅っこに銭湯の黄色い洗面器が山と積まれているから、この中に隠れよう。ちょっと配置を工夫すれば、壁のようになる。そして、京香たちが風呂から上がるまで隠れていよう。アハハ、俺って天才じゃん。
そういうわけで、お湯からとび出して七秒フラットでバリケードというか塔を作ったぞ。その中に身を隠せば、あ~ら不思議、俺ってここにいないじゃんか。
「うっひゃー、やっぱり銭湯はおっきいなあ」
「餡子は毎日入ってるんでしょう。私のうちなんか大昔のユニットバスだよ。狭くてさあ」
「そうそう。うちもちっさい風呂で、追い炊きできないし」
「さあ、入りましょう」
キター。
スッポンポンな女子たちが、ワイワイガヤガヤしゃべりながら入ってきたぞ。風呂場を見て大きさに感心しているみたいだ。みんな貧乏人だから、家の風呂は狭いんだろう。
おいおい、積み上げた洗面器のすき間から見えそうだな。せっかくだから、どういう状態だか確認しておくか。
いや、なに、これは偵察的な意味合いであって、けして女子たちの裸をのぞこうとしているのではないからな。俺は性的には極めて健全な男であって、ヘンタイ的な要素はないんだから。
おおー。
は、裸だ。女の裸じゃないか。
なぜか湯気がもうもうではっきりとはしないんだけど、女子たちの裸がこっちにくるう。こっちゃに来るよう。
「ちょうどいいお湯加減ですね」
生徒会長がそういう言いながら、湯船に手をつっ込んでお湯をかき回しているよ。しかも、俺のすぐ横で。もう、一メートルも離れてないよ。
ち、乳でけえ。
なんだよ、生徒会長の乳。ホームレスなのに、どうしてこうも豊かな乳してるんだ。実りの秋じゃあるまいし、育ち過ぎだろう。肥料やり過ぎだって。
い、イカン。エロいことを考えてしまいそうだ。いや、エロいことはいつも考えているのだけど、ここではダメだ。ダメだって。
「うちのお風呂も狭いから、銭湯っていいようねえ」
委員長もやってきた。足先をちょろっとお湯に入れる仕草がセクシー過ぎて泣けてくる。女子の身体って細いんだけど丸みがあって、なんかホッとするんだよなあ。
「いい湯っぽいね」
熱海のケツもおっきいよ。まん丸の桃尻がプルンプルンだ。胸の小ささを尻で十分カバーしてる。ナイスだ。
「なにやってんのよ。早く入らないと風邪ひいちゃうって」
今度は京香だ。さすが真打登場だよ。均整がとれていてパーフェクトボディーだ。チラ見でも破壊力がありすぎる。って、俺はなんで女子の裸体を実況してるんだよ。
喝だーっ。
ああ~、なんだよこれは。なんだってんだよ、俺。
こんな時に、さらに京香の裸を見た瞬間にこんなんなるなよ。ムスコスティックが、えらいこっちゃになってしまった。
うわあ、だって京香は妹なんだぞ。こんなのダメだよ。背徳のなんちゃらってやつじゃないか。おさまれよ、俺のスティック。なんでそんなに上昇志向になってるんだよ。
そうだ、見なければいいんだ。よく考えてみれば、俺は女子たちの裸をガン見しているから悪いんだ。おとなしく体育座りしてればなんともない。黙って静かに目をふさいで、まったりと時をやり過ごせばいいんだ。ははは。
でも見たい。
どうしようもなく見たい。
だって、男だったらそうだろう。目の前に女子たちの裸がぴょんぴょん跳ね回ってるのに、黙って引きこもってニートしてるのは、生物として間違っているはずだ。
いやいやいや。
それはダメだ。彼女たちはクラスメートだし、いままで俺をさんざん助けてくれてるからな。ここで好きなだけのぞき見はできない。信義則っていうかモラルっていうか友情ってか、やっぱだめだってさ。
そういうわけで、俺はいま、黄色い洗面器の塔の中でおとなしく体育座りしているわけだ。京香たちは湯船につかって、のんびりしてるよ。
「なんかさあ、京香ってずるいよね」
「ちょっと熱海、突然なんなのさ」
「だって、いきなりお兄さんができたじゃないの。私も欲しいんだけど」
「べつに兄貴がほしいって願ったわけじゃないって。恭介が勝手にやってきたんだよ」
「まあ、裕也や半村みたいなショボい奴だったらべつになんだけど、恭介っちってのがずるいんだよねえ」
「そうそう。ブッサなキモメンだったら、全然うらやましいとか思わなんだけど」
「ひょっとして、付き合っちゃったりしてるのですか」
「餡子、ヘンなこと言うなよ。兄妹なんだぞ、そんなことあるわけねえじゃん」
なんか、俺の話題になってんだけど。裸の女子たちが、俺に関する噂をしてるぞ。恋話的なことに。
「恭介っちって彼女とかいるの。まさか半ペー子じゃないよね」
「いないよ。半ペー子がそう思い込んでるだけだから」
「前の学校には、いたんじゃないの」
「それはありそうですね。文谷君はイケメンだから」
「まあ、そうかも」
え、俺ってイケメンだったのか。
ええーっと、まあ、それはないんじゃね。イケメンだったら前の学校でモテてたはずだけど、まったくそんなことなかったぞ。かえってシカトされてた感じがするしな。
この高校って男子のレベルが低いのか。女子はめっちゃ高いけど。ブスを探すのに苦労するくらいだよ。
「私は、京香がモノにするんじゃないかとおもってるよ」
「な、なんだよ熱海。ヘンなこと言うなって」
熱海、ヘンなこと言うなよ。俺と京香は一つ屋根の下で、あのクッソ狭いボロ住宅の錆びついたトタン屋根の下で寝起きしてるんだぞ。男女の関係になったら、えらいこっちゃだろうが。
「文谷さんにその気がないのなら、誰かにとられちゃうかもしれないですよ」
「そうそう。半ペー子がちょっかいだしているみたいだし」
「だからあ、あのアホは一方的に恭介を好きになっただけで、恭介のほうは半ペー子には興味がないのよ」
「どうだかねえ」
女子たちの話が生臭くなってきたな。
おまえらなあ、そういう話題は本人がいないところでやれよ。話題の中心人物が、君たちのすぐそばにいるんだよ。
男の話しだったら裕也か半村にしてくれって。俺の名前が呼ばれるたびにビクッてなって、あやうく洗面器タワーを崩しそうになるわ。
「京香がその気ないなら、私がちょっかいだしちゃおうかなあ」と熱海。ちょっかいって、どういう意味なんだ。
「勝手にすれば」
京香が不機嫌そうなオーラを出しながら湯船から上がってきた。
おいおい、俺のほうに近づいてくるではないか。そうか、洗面器をとって洗い場に行くんだな。頼むから、俺のタワーを崩さないでくれよ~。
「だいたい恭介が誰と付き合おうと・・・、あっ」
京香がこともあろうに、ちょうど俺の顔の目の前の洗面器をとりやがった。奇跡的にタワーは崩れなかったけど、ちょうど洗面器一個分の空間がポッカりと開いて、見上げた俺と京香が、ご対面な状態になってしまった。
「お、おう」
「え、ああ」
まったく予期せぬ場所で出会うと、脳が異常事態を認識するまで少しばかりのタイムラグがある。俺たちは、さも道ばたで偶然に会ったかのように挨拶するのであった。
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