第36話

「あんやー」

 京香が奇声をあげながら突っ走ってったー。

「おーっりゃ」

 そのままのスピードで、なんと半ペー子の後頭部を蹴っ飛ばしたー。

「ぼっげっ」

 そして蹴り出された半ペー子の顔面が、ひょっとこクリーチャーの露出した股間に激突だ。

「ぼびゃぎゃばー」

 さすがの化け物も、局部への攻撃には耐えられないようだ。一瞬凍りついて、掲げていた親父さんを落としてしまった。

「ほげっ」

「ひでぶっ」

 父と娘がお互いの頭を衝突させた。

 おいおい、しかも気絶しちゃったよ。

「恭介、亜理紗をつれて早く逃げなっ」

「わ、わかった。だけど京香はどうするんだ」

「半ペー子を連れて行くって」

 正直言って、そんなバカ女ほっとけよと思ったが、京香が半ペー子と親父さんを一生懸命に引っ張って、逃げようとしている姿が目に沁みる。

 俺って、なんて薄情な奴なんだよ。久しぶりに自分がイヤになった。このまま逃げていいのか、ちょっと迷ってしまった。

 クリーチャーが股間を押さえていた手を上げて、万歳の格好になったよ。アソコを強調する、ヘンタイ露出魔の究極のポーズではないか。 

「恭介っ」

「なんだ」

「こいつの、すごくちっさいよ。あんたのもこんなもんなの」

「知るかっ」

 亜理紗がいるんだぞ。なんつうこと聞くんだよ。

「京香、こっちよこっち」

「早く早く」

 ちょっと離れたところに懐中電灯の光が動いている。声からして熱海たちのようだ。戻ってきてくれたんだ。

「半ペー子が気絶してんのよ」と京香が怒鳴る。

 忍者服をひっ掴んで連れていこうとしたら、上着が身体から抜けてしまって上半身が裸になってるよ。半ペー子はブラを買う金がなくてサラシを巻いていたはずだけど、忍者服ごと抜けてしまったのか。

 ひょっとこがその辺を物色し、すぐそばにあった墓石を引っこ抜ことしている。ミシミシと音がして、すぐにでも抜けそうだ。なんて化け物じみた怪力なんだ。あんな固そうな物でぶん殴られたら、ミンチ肉になってしまうよ。これは助けに行くしかない。

 とりあえず亜理紗をなんとかしよう思い、超絶ダッシュで熱海のところまでやってきた。

「この子を預かってくれ」と言って、強引に亜理紗を渡す。

「え、恭介っち、どこいくの」

「半ペー子とおやっさんを引っぱってくるよ」

「ヤバいよ。マジもんの化け物だから」と委員長

「だけど、京香だけで半ペー子と親父さんを引っぱってくるには無理だ」

「それなら大丈夫だよ、餡子が行ってるから。ほら」

「え」

 巨乳な人影がそろりそろりと動いている。暗闇でも胸が目立っているシルエットがステキだ。さすが我らの生徒会長、臭いさえ我慢すれば、アイドルも夢じゃない。

 そんなことに感心してる場合じゃないな。ひょっとこクリーチャーが、もう少しで墓石を引き抜きそうだ。「ウンゴー」とか、化け物らしく唸ってるよ。どこからどう見ても超危険だ。

 京香は、上半身が裸になった半ペー子の両腕を掴んでズルズルと引きずっている。暗いので細部がよく見えないのがいいのか悪いのかわからないな。それにしても、まるで死体だよ、あいつは。東京湾から引き揚げられた土左衛門じゃないか。

 いっぽう、生徒会長のほうは気絶している親父さんを引っぱろうとした。その時にオッサン忍者の意識が戻った。

 そしてこともあろうに、目の前にボヨヨ~ンと揺れる巨乳を迷わず鷲掴みにする服部半歩であった。こんな緊急事態なときに、なんつうことするんだよ、あのエロ忍者は。

「きゃあ」

 たまらず、生徒会長が胸をおさえてうずくまった。そこに熱海がダッシュで駆け付け、巨乳の残滓をエロそうに味わっている親父さんの頭部を力いっぱい蹴り倒し、再び気絶させた。

 そして首に縄をつけて引っぱりだしたよ。委員長もやってきて、二人でロープを引っぱって安全地帯に連れて行っているけど、途中で墓石の基礎部分に親父さんの頭がボコボコ当たってるんだけど。

 そもそもロープを首にかけたら死んじまうって。エロオッサンに対するJKたちの扱い、容赦ねえな。

「恭介っち、京香がヤバいよ」と熱海が叫んだ。

 え、あ、ホントだ。

 クリーチャーが墓石を引っこ抜いて、それを頭の上に掲げてのっしのっしと京香と半ペー子に近づいていく。

 わあ、そこに亜理紗がフラフラと接近しているではないか。幼女よ、どうしてそっちに行ってしまうんだ。熱海ー、ちゃんとみててくれよ。

「亜理紗っ」

 京香が亜理紗に気づいて、とりあえず半ペー子を放置、ダッシュして幼女を抱き上げた。だがしかし、そのすぐ目の前にはひょっとこクリーチャーが、いまにも墓石を振り下ろさんばかりの状態じゃないか。これは、俺のハートに火が点いたぜ。

「おんどりゃあ、死ねやー、タコチュー」

 キックした。生まれて初めてのジャンピングキックを、クリーチャーの局部にお見舞いしてやったぜ。あはは、これが奇跡的に超絶ヒット!。クリティカルなヒットですよ。

「うわっ」

 あ、あぶなかった。 

 悶絶したひょっとこが墓石を投げおろしたんだけど、俺の身体をかすったさ。紙一重で躱したけど、もしこれが激突してたら、雨の次の日に路上でぺしゃんこになっているカエルになるところだったよ。

「んむぎょうんんんー」

 やっべ、クリーチャーのオッサン、すげえ怒ってるぞ。チ〇コに二度目の打撃だから無理もないべ。それにしてもこのオッサン、くっせーなあ。生徒会長の、どこかやさしさのある悪臭とは次元の違う臭いだ。やっぱゾンビ的ななにかか。

「ふごっ」

 誰かが投げた石がひょっとこ顔に激突して、のけ反った。ナイスなタイミングだ。

「恭介、いまのうちだ。半ペー子を連れてきてよ」

 京香が投げたのか。いいコントロールだ。

 よし、いまのうちに半ペー子を連れて逃げよう。こいつ、まだ気絶してやがるな。

ええーっと、上半身が裸なんだが、どうやって連れていこうか。おんぶするか、それともお姫様抱っこか。どっちにしても恥ずかしいなあ。

「がぎょうううう」

 うっわ、化け物が復活した。迷ってるヒマねえじゃん。とにかく一度抱き起して、うしろから胴体に手を回して、そのままバックしますよう、それそれ。

 ああー、なんつうか、この体勢は半ペー子の両生乳をガッチリ掴んでいる状態なのだ。

 揉みほぐしているわけではないから感触を味わってはいないんだけども、なんだか柔らかいぞ。スレンダーだと思ったら意外とボリュームあるっていうかなんていうか。暗いからいいけど、明るかったら変な気を起こしそうだ。

「恭介っ、あんたこんな時になにやってんだよ」

 京香に追いついたら、なんかすっごい目で睨んでいるんだけど。

「なにって、べつにいやらしいことしてるわけじゃないぞ。こうしなきゃあ、引きずってこれないだろう」

 ホントに下心とかエロ心とか、そういうのじゃないんだよ。

「半ペー子は、わたしがつれていくから代わりなさいよ。亜理紗をよろしく」と言って、強引に交替させられてしまった。半ペー子は相変わらずの死体運びスタイルで引きずられていく。

「京香、恭介っち、なにのんびりしているのよ。あいつが来てるって」

 その声は熱海か。

 っと、ヤバっ。ひょっとこクリーチャーがこっちに来るじゃないか。サルみたいに滅茶苦茶吠えてるよ。もちろん、俺は亜理紗を抱きかかえて逃げてるけど、これは追いつかれそうな予感がする。京香も半ペー子を引きずって走ってるけど、俺たちより先に捕まりそうだ。

「あた、たたた、いたい、痛いって、ちょっとなんのよ。え、てかあたし裸だ」

 猛烈に引きずられていた半ペー子が、ようやく覚醒した。上半身裸でさんざん引きずられたから、あっちこっち擦り傷だらけだろう。

「おっひゃあー、ちょちょ、うしろからヘンなのが来るう。や、ヤバいのが来るって。いっやー」

 ひょっとこクリーチャーの露出下半身を見た半ペー子が立ち上がって、京香にしがみ付いた。

「ちょっと、半ペー子、抱きつくなって」

 そんで、キャアキャア喚きながら京香を抱きかかえて、猛然と突っ走っていったぞ。半裸の忍者が、京香をお姫様抱っこして疾走してるって。

 その二人を墓場のひょっとこクリーチャーがフリチンで猛然と追いかけてる。どこから取り出したのか、でっかいナタを振り上げながらの肉薄だ。

 あひゃあ、これなんの13日の金曜日?、ちょっとエロ要素が加味されたホラー展開だよ。まじでやべえって。


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