第34話
「おい、なんだよあれは。熱海の知り合いか」
「知らない知らない。だって、私ら三人だけだよ」
「半ペー子親子か」
いやいや、ここにはもう、あいつらしかいないだろう。
「え、半ペー子も来てんの」
熱海が驚いて、なぜ半ペー子がここにいるのか京香に説明を求めているけど、その前に、あれは誰なのか確定しなければならないだろう。
「ねえねえ、あれって巨乳じゃない」
委員長がそう指摘するけど、たしかに胸のあたりがボヨンボヨン波打ってるな。いや、よく目を凝らしてみると、お腹のあたりもボヨンボヨンしているぞ。
「巨乳っていうより、巨漢じゃないのか」
熱海の言う通りだ。乳だけじゃなくてお腹も出てるし、そもそも体自体がデブデブなんだよ。
「ひょっとして、噂の幽霊じゃないの」
「ああ、そっかあ。その可能性はありうる」
「そうそう」
おいおい、フェイク動画のつもりが本物が出てきたってことか。
「あ、こっちくるよ」
そいつは亜理紗の後についているわけで、亜理紗がこっちに気づいて走ってきたから、当然のようにくっ付いてきた。みんなで一斉に懐中電灯の光をあてると、全容が露になったぞ。
な、なんかヤバい。
ひょっとこ顔のデラックスな体系のおっさんが、こっちに走ってくるんだけど。
しかも、服はブラとパンチーだけだ。若い女の幽霊じゃなくて、女装したデブのオッサンの幽霊なんだ。
「うっわ、なんじゃありゃあ」
「やべえ、あれマジもんじゃね」
「こっちくる。こっちくるって」
「きゃああ」
あひゃあ、めっちゃ怖い。これは貞子的な幽霊よりも、はるかに破壊力があるぞ。
女の幽霊にとっ捕まっても物理的な衝撃は弱そうだが、女装した超デブのひょっとこオッサン幽霊ならば、なにをされるかわかったもんじゃない。つか、気持ち悪すぎて吐きそうだ。
あ、女どもが逃げ出した。一瞬でいなくなったぞ。その逃げ足、チーターのごとくだ。
「京香」
京香が無謀にもオッサンに向かっている。というよりも、亜理紗を救うつもりなんだな。
その亜理紗なんだが、よく見れば必死の形相で走ってるさ。涙と鼻水を垂らした顔面が、完全に壊れているよ。幼いながらも、自分を追いかけているモノの脅威度をわかっているんだな。ボサーっとしているように見えて、頭はけっこういい子なんだよ。
いやいや、感心している場合じゃない。俺の幼女が超絶ピンチだ。敵はヘンタイ的な要素が加味されたオッサンの化け物だが、ここは俺自身の男を見せなきゃいけないでしょう。
「死ね、へんたいクリーチャーめ。京香キイックーーーー」
おひゃあ。
俺が突進する前に京香が飛んだ。夜の墓場で京香がハイジャンプして、そんでオッサンのひょっとこ顔に強烈なるキックをかましたぞ。
「ひゅさえぢでぇえうおんうんがぐう」
オッサンが、わけわからない呻き声を出しながら、墓石に激突したあ。斎藤家の墓石を、そのひょっとこ顔で粉々に壊しちゃったよ。誰だか知らないけど斎藤さん、ごめんね。
「恭介っ、亜理紗を連れて逃げろ」
「ガッテンだー」
京香の勢いにつられてガッテン言ってしまったけど、年寄みたくて恥ずかしいなあ。でも、いまはそんなこと気にしている時じゃないぞ。
「亜理紗っ」
涙と鼻水顔の幼女を抱っこして、とにかく走る走る。走るう走るう、俺と幼女。
「あ~あ~」
亜理紗がなんか言ってるけど、助けてくれてありがとう的なことだと勝手に解釈しよう。
「恭介、気をつけろ。そっちに行ったぞ」
え、う、うわあ。
ひょっとこオッサンのヘンタイ幽霊が俺を追いかけてくるう。デブ巨乳をゆっさゆっさと揺らしながら迫ってくるって。なしてこっちゃに来るのよ。ギャルはあっちだって。
「恭介、クリーチャーがパンツを脱いだよ」
え、あひゃああ。
ひょっとこオッサンの下半身が露になってるよ。暗くてイマイチよく見えんけど、とにかく下がスッポンポンなのは確かだ。
「あ~ああ~、ぶら~ん~ぶ~ら~んんー」
あ、こら、亜理紗。あんなものを見ちゃいかん。目が腐るぞ。一生もののトラウマになるって。
「ホイホイホイホイーーー」
オッサンな化け物が、ホイホイ言いながら追ってくるう。うわああああ、なんじゃコイツ、気色悪すぎるぞ。
おは、なんか身体が温かくなってきた。しかも、ちとオチッコ臭い。
ああー、亜理紗がおもらししてるよ。俺は亜理紗を抱きかかえて逃げているから、この幼女は常にヘンタイ幽霊を見ているわけで、そのあまりの怖さでやっちまったようだ。
「恭介、恭介、もっと早く走れ。追いつかれるぞ」
どこかで京香が怒鳴っているけど、そんなに急かすなよ。俺まで漏らしたくなるじゃないか。
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