第33話
「にゃあああああ」
くっ。
後ろを走っているひょっとこ顔の化け物が、猫なで声を出しながら迫ってるぞ。もうすぐ俺の背中に飛びかかってきそうだ。
な、なんか臭え。
後ろから悪臭がやってきて、俺を包み込むんだよ。前に向かって全速力で走ってるのに、背後からニオイがやってくるって、すごいミラクルじゃね。
「おわ、とっとー、あひゃっ」
ヤバッ。つまづいて転んでしまった。
「ふうにゅっ」って言いながら、化け物もつられて転んで、俺に乗っかってきた。
「う、くさっ、つか、柔らかっ」
ツーンと鼻の奥をほじくる強烈な悪臭とともに、すごくエロチカなプニュプニュがあるぞ。この巨乳は間違いなく女でしょう、
ということで、俺に乗っかっている奴の顔を懐中電灯で照らしてみると、あひゃあ、ひょっとこだよ。やっぱ、ひょっとこだわ。
いまの俺は、ひょっとこ巨乳悪臭にマウントされている状態だ。これ格闘技だったら、死ぬほどボコられる決定的に不利な体勢だよ。
あ、そうだ。さっき京香が言ってたっけ。巨乳の弱点は巨乳だ。揉みほぐせ、揉んで揉んで揉みまくるんだと。
どうせ相手は得体のしれない化け物だ。ここで痴漢行為をしても、とりあえず罪にはならないだろう。
「ほれほれほれほれ」と、風俗嬢のお姉さんをシバキ倒すカスハラエロオヤジのように、猛然と揉んでやった。男子高校生のリビドー、なめんなよ。
「あは、あへ、ふえええ、にゅえええ」
ひょっとこの化け物が、微妙な喘ぎ声を出してるよ。タコチュー的な口から、熱くてエロチックな吐息が、洩れ落ちてくるような感じがする。なんだよおい、感じてるのか。
あ、あれえ。
ひょっとこの顔が傾いてるぞ。首は真っすぐなんだけれど、顔だけ傾いているよ。顔の皮膚が、本体から分離したような傾きだ。
な、なんぞ、これなんぞ。
「あひゃあ」
ひょっとこの顔が、ぶらんぶらんしたと思ったら、ポロっと落ちてきた。そして俺の顔に当たってすぐ横にあるよ。相変わらずのとぼけたオヤジ顔が、こっち見てる。
え、ということは、いまの化け物の顔はどうなってんだ。顔が落ちてるんだから、なんにもなしのツルンツルンなのか。まさかのパイパン顔か。
いや、顔があるぞ。月明りだけでよほど暗いんだけど、俺にマウントしている化け物の、ひょっとこの下にあった本当の顔が露になってる。あれ、これはどこかで見たような。
「う~ん」って、その見覚えのある女が唸ってるんだけど。
「ああーっ、せ、生徒会長。なんでここに」
俺にのっかっているのは、生徒会長の立花餡子ではないか。ひょっとこが憑依していた若い女ってのは、よりにもよって生徒会長だったのか。
「恭介、大丈夫か」
懐中電灯をこっちに向けて、京香が駆け寄ってきた。
「あれえ、餡子じゃんかよ。なして餡子が恭介にのっかってんだ。って恭介っ、てめえなにやってんだよ。その手を放しやがれ」
「うわああ」
そ、そうだった。夢中で揉んでた。もう、親の仇のように揉みほぐしてしまったよ。がしかし、あまりの心地よさに手が離れない。俺の心の片隅に住む一匹のエロ男が、断固として拒否してる。
「恭介っ、なんであんたが餡子の乳を揉んでるんだよ。しかも、密着してるじゃんか」
「ち、違う、違うぞ。俺は化け物の弱点が巨乳だと風の谷から聞いたから、そこを重点的に攻撃してただけで」
「餡子は化け物じゃねえし、いい加減にその手を放せって。餡子がヤバい状態になってるだろう」
俺に巨乳を揉みほぐされた生徒会長の様子がおかしい。ぼやっとして、おまけに少しばかり涎を垂らしている。エロ動画みたいで、なんだかエロいぞ。
「ご、ごめん」慌てて手を放したけど、時すでに遅しって感じだ。
それにしても、スゲエ柔らかかったぞ。あり得ないほどの天国感触だった。これ、もしも巨乳と結婚したら、四六時中揉んでいるんじゃないか、俺。
「餡子も、ボケーっとしてないで立ちなさいよ。それから恭介、罰として後でケツバット千二百回だからね」
どんな罰だよ。そんなに叩かれたら、ケツの肉が場外まで飛んでいってしまうだろうが。
「もとはといえば、京香が巨乳は揉むのに限るって言うからだぞ」
「ひょっとこの化け物の巨乳を揉めって言ったけど、餡子の乳を揉めとは言ってない」
「だから、そのひょっとこの化け物が生徒会長なんだって」
「え」
「え」
とどのつまり、どういうこっちゃこれは。
「あれれ、京香がいるよ。しかも恭介っちも一緒だ」
「ほんとだ。みんな、どうしたのよ」
そこに現れたのは熱海と委員長。なぜ夜中の墓場にこのメンツが揃ってるんだ。しかも、スマホを俺たちに向けているし。
「みんなして、なんでここにいるのよ」と京香。当然の疑問だ。
「なんでって、撮影してんのよ」と熱海。
「撮影?」
「そうそう」
呆けた顔から通常に戻って、生徒会長が落ち着いたようだ。だけど胸を死ぬほど揉まれたショックで、表情が固い。
スマン、悪気はなかったんだ。エロ気は少しばかりあったけども。
「最近、この墓場にひょっとこで巨乳で激臭の幽霊が出るって有名になってるからさあ、動画に撮ってネットに投稿しようと思って」
熱海の説明によると、生徒会長がちょうどその幽霊と見かけと臭いが合致するので、彼女を幽霊に見立てての撮影らしい。
フェイク動画だが、ネットに本物として投稿するんだと。ちなみに、熱海の親父さんが軽トラで三人を送迎しているとのこと。女子高生を荷台に乗せて来たらしい。
「おいおい、ひょっとこは全然立花さんらしくないぞ」
「あれはお面だって。百均で売ってたんだよ」
たしかに、そこの地面にひょっとこのお面があるさ 生徒会長が転んで俺にマウントした時に、お面がヅレて外れてしまったようだ。
「にしても、どうして俺を追いかけてきたんだよ」と生徒会長に問うてみる。
「文谷君だって知らなかったから。とにかく人がいたら、追いかけて脅かせって言われてたんです」と生徒会長。
「通行人を追いかける幽霊のほうが、インパクトあるだろう」
熱海よ。たしかに動画的にはインパクトがあるが、夜の墓場に通行人はいないぞ、ふつう。
「だからイヤだっていったんです。恥ずかしい以前に、そのう、いろいろ問題なんです」
なんか、複雑そうな目で生徒会長が俺をチラチラ見るんだけど、あの巨乳を揉んでしまった俺はどうしたらいいんだ。これからの高校生活が気まずいなあ。京香がテキトーなこと言うからだよ。
「あんたら、餡子が乗り気じゃないのに、無理やり連れてきたでしょう」
「まあ、そのう、なんだ。だって、私はちっぱいだし、巨乳と言えば餡子しかいないからさあ。桜子よりもデカいしさ」
「ちょっと悔しいけど、そうそう」と委員長
まったく、熱海は強引なんだよな。
「だいたいさあ、桜子に熱海、そんなの撮ってネットにあげてどうするんだよ。ヒマなのか」
「なに言っちゃってんよ、京香。この動画の再生回数次第でお金がたんまりと入ってくんのよ」
「え、なによそれ、マジか」
動画で稼ぐつもりなのだ。わざわざ熱海の親父さんがここまで送ってくれたのも、金になるからだな。
「まあ、本物の幽霊なんているわけないからさあ。餡子を幽霊に偽装して、それらしく見せればいいわけよ。アサリでもウナギでもやってたじゃん」
産地偽装じゃないんだぞ。生徒会長が可哀そうすぎるだろう。
「ねえねえ、ところであの小さい子って、京香の妹だよねえ」
委員長が向こうを指さした。そういえば、またまた亜理紗を置き去りにしてしまった。
「やっべ、亜理紗を忘れてた」京香も慌てて逃げてきたからな。
「その後ろにいるのは誰なの」
「え」
うっわ、亜理紗の後ろに、またまた得体のしれない奴がくっ付いてるぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます