第31話

「祓い屋のあんたと親父が揃ってるってことは、ここに危ない霊か妖怪の仲間が出没するってことなの」

「よくぞ聞いてくれた、文谷京香。マイダーリンの妹よ」

 京香が、すっげー不機嫌な顔して俺の太ももの肉をつねってるんだけど、だから俺と半ペー子は、なんの関係もないって。ダーリンとかありえないんだってさ。

 しかも亜理紗が、またもや小悪魔的な薄ら笑いを浮かべて、トンカチを振り上げようとしている。この姉妹、本性はDV大好きなんじゃないか。

「最近、この墓場で見るもおぞましい化け物が出るって有名になってんのよ。その動画も出回っててね、呪われた墓地だとか青椒肉絲とか言われてるのさ。それで、墓場の管理人から、その化け物をバスターしてくれって、服部家に依頼がきたってわけ」

 幽霊や化け物の話しの前に、こんな役立たずで露出な忍者に依頼する墓場管理人の神経がわからん。情弱か。さらに青椒肉絲の真意はどこだ。腹減ってんのか。

「だからさあ、お父ちゃんと張り込みしてたんだけど、なして文谷京香とマイダーリンがいるの。文谷の家って墓場にあるのか」

 いくら貧乏だからって墓場には住まないよ。ここは正直に話すしかないか。

「俺たちは墓参りで来たんだけど、最終バスに乗り遅れてしまったから、仕方なくここに泊ってんだよ」

「ふ~ん、それは珍しいわ」

「ま、まあな、それと半ペー子、マイダーリンって呼び方をやめろよな。俺はおまえの彼氏でもなんでもないんだから」

「じゃあ、なんて呼べばいい?」

「ふつうに文谷でいいよ」

「わかった。ふつうにダーリン恭介って呼ぶね」

 ぜんぜん、わかっちゃいねえ。しかもダーリンって呼び方、昭和時代のドラマだろうが。親父さんの影響か。

 いててて。

 また京香がつねってる。なんなんだよ、半ペー子のたわ言にイチイチ反応するなって。そこの地獄幼女も自重してくれよ。

「わたしたちは妖怪とかじゃないからね。間違って祓わないでよ。ちゃんと確認してからやりなさいよ」

 京香が小言をいう。当然だわな。

「久しぶりの稼ぎになるから、ついつい張りきっちゃってさあ。まさか、夜の墓場に半ペー子の同級生がいるとは思わないからさあ」

「そうそう」

 オヤジさんと半ぺー子が頭をかいてテヘヘヘって笑ってるけど、親子そろって行動がそっくりだ。アホってやっぱり遺伝するんだな。

「それで、ここに出る化け物ってどんなんなんだ。白い着物の幽霊とかか」

 墓場のお化けなんて、そんなとこだろう。

「それがさあ、婿さん。巨乳なんだよ」

 だから、婿じゃないって。俺が婿になったら服部恭介じゃないかよ。アホ一家の仲間入りは、絶対にイヤだから。

「巨乳?」と聞き返したのは京香な。

「夜中になると、すごい巨乳で、ひょっとこで、めたくそ臭くて若い女の化け物がでるんだ」

「そうなのよ、ダーリン恭介」

 いったい、どんな幽霊なんだよ。

「半ペー子さあ、ひょっとこって、なによ」

「文谷京香は、ひょっとこを知らないのか」

「いや、ひょっとこくらい知ってるよ。巨乳の女がひょっとこってのがわからないんだって」

「たしかに、そのひょっとこってのは意味不明だ。巨乳はわかるけども」

「乳デカに反応するとは、さすがはダーロン恭介。ますます惚れ惚れするわ」

 ダーロンじゃなくてダーリンだろう。そう言われるのもイヤなのに、さらに間違えるなよ。

「巨乳だけども顔はひょっとこなんだ。どうも、ひょっとこの怨霊が、たまたま墓場に来ていた若い乳デカ女にとり憑いたらしいって話なんだよ」

 半ペー子の親父さんが説明してくれてるけど、このオッサンが話すと信ぴょう性がまるっきりなくなるな。

「それもゾンビ属性なんだよ、ダンジョン恭介。なんでかっていうと、ゾンビが下痢ったような、すんごくエゲつない臭いなんだってば。ひょっとこで乳デカのくせして、臭いが下痢ゾンビって、祓い屋根性が疼いてしょうがないって。はっはっ」

 半ペー子が空に向かって、エアな蹴りを突き出してやる気を見せている。全然迫力ないけど、本人は強いつもりなんだろう。

 それからダンジョンは洞窟とか地下牢って意味な。できれば俺の名前の前につけてほしくはないかな。

「はいはい。わたしたちは、そんなくだらない話に付き合ってられないわ。半ペー子一家でよろしくやってよ。恭介、亜理紗、休憩所に戻って寝るよ。明日は職員の人が来る前に出ていかなくちゃならないから、早寝に限る」

 まったく京香の言う通りだ。アホ忍者の親子に付き合ってたら、墓場で徹夜しそうだ。

「半ペー子や、こんなところで油を売ってたら、化け物を取り逃がすぞ。張り込みに専念しよう」

「そうだった。10万円の日当をもらって、焼肉を腹いっぱい食べるんだ」

 化け物退治の報酬が10万円か。安いのか高いのかわかんないけど、半ペー子と親父さんにとっては大金だろうな。

「なにいー、じゅーまんえん、だってええ」

 おい、京香、どうしたんだよ。立ち止まらないでさっさと行ってくれよ。俺も風呂に入って寝ることにするから。

「恭介、退治するよ」

「え、なにが」

「巨乳のひょっとこに決まってるじゃんか。そのハレンチなヤツをバスターして、10万円ゲットするんだよ」

「ちょっと待てよ。それは服部一家が請け負った仕事だろう。俺たちは関係ないって」

「あんなアホ忍者一家に、みすみす10万円くれてやるなんことなんてないわ。こっちが先にやっつけて、10万円をぶんどってやるのよ」

 10万円ときいて闘争本能に火が点いたみたいだ。墓場の暗闇の中で、京香の目が捕食動物みたいにギラリと光ってるよ。

 まいったな、これは面倒くさいことになりそうだぞ。


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